後日譚160.事なかれ主義者は慌てて転移した

 都市国家カラバに赴き、住人たちの要望である『ドライアドたちの怒りを鎮める事』をするために、カラバの根元周辺で暮らしているであろうドライアドと接触を試みた。けど、結果としては成功とは言い難い状況だった。

 青バラちゃんが元気いっぱいに挨拶しても反応はなかったし、青バラちゃんに促されて僕も挨拶をしたけど何も起きなかった。

 暗闇の中からこちらの様子を見ている金色の目を持つ何者かがそこにいるのは僕でも分かったし、青バラちゃんとジュリウスの反応からドライアドたちだという事も間違いないんだろうけど……。

 近づいて話を聞く事も考えたけど、初対面だし相手の反応が何もないからどうなるか予想ができないので、とりあえず一度帰って作戦を立て直す事になった。

 帰る際に青バラちゃんがここに簡単に来れるようにするため、という名目で青い薔薇を植えていたけれどそれでも暗闇から見ている者たちは何もしてこなかった。どうやら縄張りに植物を勝手に植えても問題なかったようだ。


「それじゃ、行ってきまーす」


 そう言って、朝日が昇ると共に青バラちゃんは出かけて行ったらしい。寝ている間の事なのでレヴィさんが教えてくれたんだけど、まあ大丈夫だろう。無差別に敵意を振りまいているわけではなさそうだ、とジュリウスも言ってたし。


「今日も小国家群の方にはいかないのですわ?」

「そうだね。もう数日粘って見て、状況が変わらなかったら諦めるけど」


 昨日、青バラちゃんが梃子でも動きません! と言った感じで全く動かなくなってしまったので一緒に日向ぼっこ気分で待っている間にジュリウスが配下を呼び寄せて情報収集をしてくれていた。

 その情報から、もしかしたら夜に無理して活動しているから出て来ないのではないか? という可能性に至ったので、今日は長めに向こうで待つ予定だ。そのための準備もしっかりとしてある。


「赤ちゃんたちの事はお願いね」

「任せるのですわ!」

「あと、セシリアさんとディアーヌさんはほどほどにね」

「心得ております。ただ……」

「主が仕事を増やすから仕方ないんですよ、ねぇ?」


 やれやれ、と言った感じで同じタイミングで同じように肩をすくめた二人の事はラオさんたちにお願いすればいいんだろうか? そっと視線を逸らされたのでダメそうだ。


「もう出産してから三ヵ月も経っているし、産んでからずっと回復薬を飲み続けているのよ? いい加減、城で政務をしたいわ」

「ディアーヌさんが出産するまでは控えてもらう事は――」

「できる訳がないでしょ。いつまでも不在にしていたら敵対勢力に隙を与えてしまうから、例えシズトがダメって言ってもそろそろ城に戻るわ!」


 決心は揺らがないようだ。

 ディアーヌさんが急に動いたりしないように、最近ずっとゆっくりと動いてくれているみたいだけど、より一層注意してもらおう。


「えっと……私はどうすればよろしいでしょうか?」


 おずおずと挙手をしながらそう問いかけてきたのはオクタビアさんだ。

 エンジェリア帝国の女帝である彼女がここにいるのは、現在も小国家群を見て回っている事になっているからだ。ただ、肝心の僕がいないので小国家群に行くわけにもいかず、昨日はファマリーの根元で過ごしてもらった。


「今日も私と農作業を頑張るのですわ! 色々教えてあげるのですわ~」

「よろしくお願いします」


 座ったままぺこりと頭を下げるオクタビアさん。レヴィさんに任せておけば暇を持て余す事はないだろう。

 そんな事を考えながら、何やら窓の向こう側でそわそわしているドライアドたちが気になったので朝食を口の中に詰め込むのだった。




「人間さん、早く来て! だって~」

「れもーん!」

「ちょっとレモンちゃん、今日も向こうに行くからくっついちゃダメなんだって!」

「れももももっ」


 僕の力じゃ当然剥がせない。

 どうしたものか、とジュリウスを見たけれど、彼の場合はレモンちゃんにけがを負わせてしまうとの事だったのでなしだ。

 もういっその事髪の毛を切ってしまえば解決するのでは? なんて事を思う時があるけど、ドライアドたちにとって髪の毛が大事な物か分からないし、切っていいのかも不明だ。切ったら伸びなくなる、なんて事になったら申し訳ないので諦めるしかない。

 僕がため息を吐くとレモンちゃんは巻きつくのをやめて勝利の雄叫びをあげている。その様子を見ていた周りのドライアドが口々に話し始めた。


「レモンちゃんも連れてっていいよ~」

「私たちもついてく~」

「私も~」

「みんなでいこー」

「え、ちょっと待って! 歩き辛いし大きい子はいろいろとまずい気がするからダメだって!」


 僕の言葉をドライアドたちは気にした様子もなく、大きい子も小さい子も集まってきた。

 普段だったら小さい子だけなのに、なんて思いつつ纏わりついてくるドライアドたちを見ると、肌が白いドライアド――ユグドラシルに元々住んでいたドライアドたちばかりだった。褐色肌の子や小柄な子は見ていて「私たちも行く~?」なんて不穏な事を相談している。

 これはもう彼女たちの言うがまま、連れて行ってしまおう。今日も世界樹の使徒だけが着る事を許された正装を着ているので、魔道具化した服のおかげで『身体強化』の魔法を使う事もできるし、このくらいだったら歩き辛いけど動ける。

 えっちらおっちらと歩きながら転移陣がたくさん置かれたところへと向かうと、真新しい転移陣が青白い光を放っていて、その周囲にドライアドたちが集まっていた。どうやらあれが青バラちゃんが新しく設置してくれた転移陣のようだ。


「ドライアドたちが良いっていいってるし一緒に行こうか」

「かしこまりました」


 ジュリウスだけを先に生かせても良いけど、その間にわらわらとついてくるドライアドたちが意を決して纏わりついてくる可能性もある。

 早く移動しなければ!

 使命感に似た何かに突き動かされながら、ジュリウスと引っ付いているドライアドたちと共にカラバへと転移するのだった。

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