172.事なかれ主義者は悩む
翌日、いつも通り朝食を食べ終わるとユグドラシルへと向かう。
ファマリーを経由し、世界樹ユグドラシルの根元に着くと、ドライアドの青バラちゃんがいた。
日光浴をユグドラシルと一緒に楽しんでいたらしい。他の小さなドライアドたちも思い思いに過ごしている。
禁足地の中は今日も平和そうで何よりです。
「いつも通り最低限だけでいいの?」
「……いいって~」
チラッとユグドラシルの方に視線を向けた青バラちゃんがそう答えた。
ドライアドが言うなら多分大丈夫なんだろう。
だいぶ魔力総量が増えたので、正直これだけで大丈夫か心配だけど、成長期は既に終わっているからそこまで大量のエネルギーは要らないんだとか。
枝が切られたり、葉っぱが毟られたりしたら再生をするために必要らしいけど、最近はそういうのも少ないらしい。なんでだろうね。
「それはシズト様の承認がないからでございます」
「承認?」
「はい。世界樹の素材は世界樹の使徒が承認して初めて取り扱う事ができるものです。そのため、教会を建設するため以外では取り扱っておりませんでした」
「適当に切っていいよ」
「その場合、今までの国の仕組みを変える必要があるかと。混乱も少なからず起こるでしょう」
まあ、そうか。
困る人が出てきて恨まれるくらいだったら、承認くらいしてもいいかも。
「また、世界樹の素材を卸す相手も使徒様が選定しておりました。対価や関係性等を考慮して卸していたようです」
「みんな仲良く平等に、じゃ駄目なのかな」
「大きな商会もあれば小さな商店もありますので」
「じゃあ一つの所に全部卸して後は適当に任せちゃうのは?」
「あまりオススメはしません。ここしばらくの間は世界樹の素材がなくとも何とか回っていましたが、今までそれで生活していた者が多数いますので」
路頭に迷ったら面倒な事になるかも、か。そこまで行かなくても、生活水準は下がるだろうし……。
それに一つの所にばかり卸してたらそれはそれで後々面倒な事になるかもしれない。
出来ればそういう面倒臭そうな事はせずに、楽しく過ごしていきたいんだけどなぁ。
「ただ、シズト様がお望みであればどのような事をして頂いても構いません。私たちがお守り致しますので」
「んー、恨まれたくないし呪われたくもないからやめとく。面倒だけど頑張るしかないのかぁ」
「……いえ、他の方法もあります」
「そうなの?」
「代理人を用意してその者に任せるのです。他国からはユグドラシルの者がまた世界樹の素材を扱う事に何かしら言ってくるかもしれませんが、その様な者たちは相手をしなければいいだけですので」
「なるほど? ジュリウスさんが代理人になってくれるの?」
「私は奴隷の身ですので。奴隷がそのような立場になるのはあまりよろしくないかと」
あなたが自分からなったんでしょ。奴隷解放してしまおうかな。
僕の視線に気づいたジュリウスさんが、ぺこりと頭を下げた。
「選択肢として、既に代理人候補を集めております。もしも代理人を選ぶのであれば、その中から選んでいただければと思います」
ジュリウスさんに連れて来られたのは禁足地の近くに建てられた高そうな宿の一室だった。
木造建築で、室内は畳が広がっている事もあり日本を思い出す。
勇者がよく訪れていたという事もあり、日本人が好む部屋にしたらしい。
座布団の上に正座をして、机の上に置かれた湯呑に手を伸ばそうとした時に、引き戸が開けられて小柄なエルフのジュリーニさんが緊張した面持ちのエルフたちを連れてきた。
流石エルフ、どの人も顔立ちが整っていた。アイドルグループとかできそう。
「連れて来たよジュリウスー」
「シズト様の御前だぞ、ジュリーニ」
「はいはい。シズト様、お待たせ致しました」
全然待ってないよ。ほんとに。
お茶飲んでゆっくり待とうと思ったんだけど、手を引っ込めて太腿の上で軽く握りこぶしを作る。
「……もしかしてだけど、ほとんど女の人?」
「ほとんど、というか全員女です」
マジで!?
ほんとにエルフって顔だけじゃ男か女か分かんないや。
ジュリーニさんも小柄だし、女装したら女の子だと勘違いしちゃうね。
「男の人は代理人にしないの?」
「一応対外的な事を考えて、シズト様のお許しを頂ければ婚姻関係を結んでいただこうかと思いまして男は除きました。シズト様に忠誠を誓うであろう者たちは男にもおりますので、ご希望とあらば明日にでも集めますが……」
「いや、やっぱいいです……」
っていうか、やっぱり婚姻関係結ぶ感じになるのかー。
お許しを頂ければ、って言ってたけど今までの世界樹の使徒のやらかしを考えると、エルフが上に立ったらあんまりいい顔されないんかな?
それで僕と婚姻関係を結ぶ事によって、僕の代理人であるとアピールする感じかな。
んー…………悩む。
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