138.事なかれ主義者は魔剣を作った

 魔剣とは、所持者の魔力を使って特別な力を生み出す剣の事だと以前読んだ本に書いてあった。

 極稀にダンジョンから手に入るそれを作った人は未だにいない。

 鍛冶師として、ドフリックさんはいつか作りたいと思っていた物の一つだったらしい。

 武器を作るのはあんまり気が進まないけど、ドフリックさんが責任を持って管理し、売る相手をしっかりと選んでくれるとの事で作る事にした。

 ドフリックさんの依頼を受けてから六日が経ち、僕の前にはミスリル製の片手剣があった。

 ドフリックさんから納品されたそれにどの魔法を付与すべきか悩む。

 と、いう事でお目付け役のラオさんが後ろに控えている状況でノエルを庭に呼び出した。


「魔道具の性能テストに付き合って」

「なんすか。また危ない事でもするんすか? 空を飛ぶのはもう嫌っすよ?」


 空飛ぶ魔道具の時に酷い目に遭ったからか、半目で僕を見てくるノエル。

 でも大丈夫。今回はそんなに危なくないと思うから。

 疑わしそうな様子で僕を見ているノエルは置いておいて、【加工】で作っておいた長机の上に、アイテムバッグから作り出した鉄製の魔剣を並べていく。


「……魔道具って、まさかこれじゃないっすよね?」

「これだけど?」

「ボクにはこれ、魔剣のように見えるんすけど、まさかシズト様が作ったわけないっすよね!?」

「作りましたとも。……あ! 僕、なんかやっちゃ痛い!?」

「量産しすぎだバカ」


 えー?

 これでも結構少ない方なんだけどなぁ。

 最初の方は実験的意味合いが強くてどんな魔剣ができるのか試行錯誤していた。

 炎の魔剣を作ろうとして、おもちゃでありそうなライター機能が付いた剣ができたり、舐めたら味を感じる剣を作ってみて何かに有効活用できないか考えたり、SF映画に出てきそうな光の剣を作ろうとして失明しかけたりしていろいろ大変だった。

 実験は危ない事をしても止めなさそうな人が世話係の時にしていたんだけど、流石に失明しかけたのはシャレにならない出来事だったらしく、その日の夜はこっぴどく皆に怒られた。

 色々とあったけれど、とりあえずこんな魔剣作ったら面白……強そう! と思った組み合わせを付与したのがノエルの目の前に並んでいる鉄剣だ。

 ノエルは一つ一つ、顔を近づけて穴が開くほど凝視しているが、あの反応的に複製は無理そうだ。良かったような、悪かったような……何とも言えない。


「それじゃ、ノエル。まずはこの剣ね」

「……本当に大丈夫なんすよね?」

「僕の言う事をしっかり聞いていれば何も問題は起きないよ」


 言う事聞かなかったら何が起こるか想像もできないけど。

 僕がニコッと笑顔を浮かべると、つられてノエルもニコッと笑って「全然安心できないっすー」とか言う。

 ただ、ノエルの体は正直で、差し出された魔剣は両手で大事そうに受け取っている。

 ノエルが持っている鉄剣は、まだ魔法陣は複雑じゃない方だ。剣全体に【付与】をしたからか、複雑に線が入り組み、装飾のようになっている。


「これは何なんすか?」

「自動修復と身体強化を付けてみたー」


 身体強化は魔力を多少扱える人だったら使える戦闘技法だ。

 冒険者の中でもランクが高ければ高いほど洗練された身体強化を使う人がいるらしい。

 だからぶっちゃけ、身体強化はオマケの様なものだ。


「身体強化、全然おまけなんかじゃないっすからね?」

「身体強化すらうまく使えない奴も、人並みに戦えるようになるからな」

「自動修復機能は言わずもがな、重要なのは分かるっすよね」


 そうだね。以前、ダンジョンに行った時に改めて思ったよ。自分の武器が壊れてしまったら大変な事になるって。だから今回準備した魔剣すべてに自動修復機能を付けてるんだけどね。

 あの人たち元気にしてるかなぁ。

 僕がボケーッと過去を振り返っていると、ノエルは魔剣を抜き、魔力をそれに流した。

 すると、淡い光が彼女と、刀身を包み込む。


「無事身体強化と自動修復が発動してるみたいだねー」

「……見えるっす」

「なんで手を見て震えてんの? そんな事してないでちょっと軽く跳んでみてよ」

「嫌な予感がするから嫌っす~」


 何だか分からないけど、ノエルが剣を持った状態で身動きせずに嫌がる。

 その様子を見て、後ろに控えていたラオさんがため息をついた。


「ノエル、地面を踏みつけてみろ。それなら危なくてもアタシが何とかしてやっから」

「ほんとっすか?」

「ああ」

「ほんとっすね? どうなっても知らないっすからね!?」

「軽くにしとけよ」

「当たり前っす!」


 大きな声で言い返したノエルが地団太を踏むと、ノエルの足を中心に大きく地面が割れた。ひび割れがノエルを中心に広がっていき、畑まで被害が及ぶ。

 僕はラオさんに後ろから抱えられて難を逃れ、ラオさんも高く跳躍して問題なかった。

 どこがいけなかったのかなぁ。ちょっとの魔力でも発動しやすいように増幅機能を付けたところかな、やっぱり。試作中、途中からルウさんに実験を止められたしなぁ。

 もうラオさんに抱えられるのも慣れてしまって、何も思わずに眼下に広がる事を引き起こした魔剣の改良案について考える。


「……これ、やっぱりやばいやつっす」

「もう少し性能を落とせ、バカ。後、他の魔剣も没収だ。いいな?」

「えー、ちょっとだけでも試してみようよ~」


 他の物はそこまでやばくないと思う。……たぶん。


「い、い、な?」


 ……ラオさんが怖いので、大人しく頷いておく。

 ラオさんの説教もきついけど、畑が大変な事になってしまった様子を見て、しょんぼりしてしまったレヴィさんを見るのが一番辛かった。

 今度から実験は不毛の大地でやろう。


「それでも性能は落とせよ」

「えーーー」

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