137.事なかれ主義者は二度叩かれる

 ドフリックさんと一緒に打たせ湯を堪能していると、ドフリックさんが小さな声で何かを言った。


「すみません、良く聞こえなかったんですけど」

「…………なんでもないわい」

「そうですか」


 そっぽを向いてしまったドフリックさん。

 しばらく待ってみたけど、結局ドフリックさんは何を言ったのか教えてくれなかった。

 その後は水風呂も堪能してもらって、一緒に風呂から上がる。

 普段だったら風呂の後は寝間着に着替えるけど、今は客人がいるからさっきまで着ていた服をもう一度着た。違和感ヤバイ。

 ドフリックさんは着替え終わっても何も言わず、僕に合わせて動く。

 二人で一緒に脱衣所から外に出ると、モニカが控えていた。


「お食事の準備ができておりますが、いかがなさいますか?」

「もちろん食べるよ」


 どうしてわざわざ聞くんだろう?

 なんて思ったけど、そう言えばドフリックさんがいたわ、とモニカの視線で思い出した。


「ドフリックさんも食べますか?」

「そうじゃな……頼みたい事もできたから明日また出直すわい。朝食後の時間でどうじゃ?」

「いいですよ」

「ドロミーはどこじゃ?」

「ドロミー様は現在、卓球を楽しんでいらっしゃいます」

「卓球もどきね。アレは卓球じゃないと思う」


 ボールもラケットも現代の物には出来なかった。素材が分からないんだもん。

 ただ、以前の勇者が似たような物を作っていたので、その話を参考に作った物が遊戯室にある。

 遊戯室と言っても、ただ記憶を頼りに作った遊び道具をたくさん詰め込んでいるだけの部屋なんだけど。

 昔、何に使っていたか分からない二階の広間に移動すると、コンコンコンコンと部屋の中から聞こえてくる。

 モニカが扉を開けると、部屋の中では台を挟んでドロミーさんとドーラさんが打ち合いをしていた。ボールは随分と山なりの軌道を描いているが、勝負じゃなくて何回続けられるかを試しているみたいだ。


「ドロミー、帰るぞ」

「もうちょっと待って、パパン」

「ダメじゃ。明日も来るのじゃから、明日やればいいじゃろ。……あと、親方と呼べ」

「パパンのケチー」

「親方」


 楽しそうに遊んでいたドロミーさんを、ずるずると引っ張って出て行くドフリックさん。その後をモニカがついて行った。

 見送りは不要、という事でドーラさんと一緒に食堂に向かう。


「明日も来る?」

「うん。なんか頼みたい事があるんだって。付与について話をした後だから、魔道具関係じゃない?」

「……魔剣かも」

「かもね。まあ、明日になれば分かるでしょ。皆は、……まだ戻ってきてないみたいだね」


 食堂にはエミリーしかいなかった。

 いつもよりも早い時間だからかもしれない。


「お待ちになりますか?」

「いや、もう先に食べちゃうから配膳してもらっていい?」

「かしこまりました」


 エミリーがせっせと準備をした夕食を食べ終える頃に、ホムラとユキが戻ってきた。

 僕とドーラさんが僕の部屋に向かうと、二人は食事をせずに着いてくる。

 そもそも、食事をしているのも僕が「一緒にご飯を食べる事」と言ったからで、食事をしなくても困る事はないらしい。大気の魔力を取り込んでいるとかなんとか説明してくれたけど、あまり興味がなかったので忘れた。


「もう寝る?」

「うん。嘘発見水晶をいくつか作って、魔力切れで寝ようかな、って」

「それは気絶」

「まあ、その後寝てるし似たような物でしょ」

「魔道具を作るなら他にも作っていただきたいものがあります、マスター」

「ご主人様、リストを作っておいたわ」


 ユキがニコニコしながら僕に渡してきた紙を見て、こりゃ大変だ、と思った。


「その魔道具の他に、依然として腹巻と魔力マシマシ飴の発注が増えています、マスター」

「優先的に作った方が良いのとかある?」

「特にはないわ、ご主人様。ご主人様が思うがままに作ればいいと思うわ」


 そうは言っても、予約されてるならできるだけ早く、順番通りに作らなければ。

 とりあえず水晶玉に【付与】を行い、後は依頼を受け付けた日時を参考に少しだけ作って、気を失った。




 翌日、約束通り朝食を食べ終わった少し後にドフリックさんとドロミーさんがやってきた。

 今日のお世話係のラオさんと一緒に応接室に行くと、今回は無事、ドワーフ親子が揃っていた。

 クーは約束を守ってくれているようだ。

 モニカが用意してくれた紅茶を一口飲んでから、話を聞く。


「それで、頼みってなんですか?」

「開口一番それはどうなんじゃ? 単刀直入過ぎじゃ」

「そうは言っても共通の話題とか思いつかないですし、先に済ませてからの方がのんびりお話しできるじゃないですか」

「まあ、それはそうなんじゃがな」

「パパンだっていつもそう」

「黙っておれ。あと、親方じゃ。……シズトへの頼みについてなんじゃが、魔剣作りに協力してほしいんじゃ。材料はこちらで準備を済ませるし、ワシが渾身の剣を作る。それを魔剣にしてほしいんじゃ。魔道具と似たような物なんじゃないかと思うんじゃが……できるか?」


 想定通り、魔剣の共同作成の依頼だった。

 んー、どうしようか。

 これ、なんかやらかす気しかしない。

 俺、何かやっちゃいました? って素で言えるかも?


「……馬鹿な事考えてないで真面目に考えろ」


 コツン、と背後に控えていたラオさんが、僕の頭をグーで叩いた。

 読心の魔道具持ってないし、僕の顔を見てないのに……ラオさんって超能力者?

 ラオさん、聞こえますか……今、あなたの……痛い!!

 ゴツン、と今度は強めに叩かれた。

 ドフリックさんとドロミーさんがきょとんとした表情で僕を見つめている。

 流石に三回も叩かれたくないので、真面目に考えた。

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