134.事なかれ主義者は覗かない

 以前から使っていて分かっていた事だけど、加工にしても付与にしても、だいぶ僕のイメージに影響されるらしい。

 加工の加護は、金属や木などを自由自在に加工できる有難い加護だ。だけど、中身まで熟知していないから車は作れないし、家も簡単な小屋みたいな感じのものしか建てられない。

 生活していて家の見えない部分なんて見た事ないから想像で補うしかないんだけど、そういうのは苦手なので大工さんたちにわざわざ来てもらって、ファマリーの近くに建物を作ってもらっているのが現状だ。

 ドフリックさんはそれをすぐに見抜いたようだ。

 まあ、切られてしまった僕の剣を見れば分かる事だと思うけど。


「お主、名前は何と言ったかの?」

「シズトです」

「そうか、シズトか。ワシの作った剣に負けたからといって、お主に加護を授けた神を疑ってはならんぞ。おそらく、お主の経験不足に起因する敗北じゃからな。それに、お主が作った剣も悪くはない。ドワーフ製の物じゃなければ、ある程度耐えたじゃろう。鍛冶の神に愛されしワシらが作る物は人間共が使う物よりも質がいいんじゃ。まあ、今までワシが積んできた修練の結果でもあるわけじゃが」

「鍛冶の神様もいらっしゃるんですね」


 プロス様、キャラ被りしてません?

 だから信仰されてなかったのかな。


「どちらが優れているか比べるのは不敬じゃぞ。ワシらの神にも、お主の神にもな」


 そんな事を真面目な顔で言うドフリックさんにドキッとして、心の中でプロス様に謝罪する。

 その様なやり取りがあった後、落ち着いた様子で真面目に話をしてくれたドフリックさんだったが、結局話はつかずに終わってしまった。

 話の途中でフラッとやってきたクーが、ドフリックさんを転移させてしまったからだ。

 遠い所まで飛ばしてないといいんだけど……。

 そう思いつつ、労えとコアラの様に抱き着いてきたクーを背負い直して彼女の部屋に移動中だ。


「このまま毎日来られるのは、ちょっと困るなぁ」


 なぜか知らないが、昨日の様な強引さは途中から減ったけど、それでもこっちにも予定があるし。


「とっとと追っ払えばいいのですわ! 相手の話に付き合ってあげるのはシズトの良い所だと思うのですけれど、悪い所でもあるのですわ!」

「でも、ドフリックさんの言い分にも一理あるなぁ、って思っちゃったから」

「加工をするために使う労力を減らせるってやつですわ?」

「そうそう」


 労力、とはちょっと違うけど魔力を節約できるのは大きい。

 魔道具作成をするにしても、世界樹の世話をするにしても魔力が必要だ。

 今のまま、わざわざ魔法陣を刻むための物を加工して作っていると、その分世界樹に回す魔力が減ってしまう。そうするとユグドラシルが元通りになるまで時間がよりかかってしまうだろう。エルフたちはゆっくりで構わない、と言ってくれているけどさっさと終わらせたい。


「でも、あのドワーフは希少金属を使った物しか作らないのですわ」

「そうなんだよねぇ。鉄とかでも作ってくれたらいいんだけど」


 鉄製の物も作ってくれるならちょっと考えたんだけど、そういう物の作成依頼は息子たちに投げていたらしい。今回は違いを悟らせるためにわざわざ鉄で作ってきたらしいから、作れないわけじゃないんだけど。

 彼の息子たちは、今は王都で忙しく働いているからこっちに来れないらしいし、何よりも僕が加工の加護を使わなくなると今度はプロス様が僕を呼び出しそうだから、使わないという選択肢は僕の中ではなかった。


「まあ、でも今は希少金属はほとんど持ってないし……。アダマンタイトとか手に入ってから考えよ」

「シズトがそういう考えなら、そうするのですわ」


 三階にあるクーの部屋の扉を開けると、大きなベッドが部屋の中央に置かれていた。クッションやぬいぐるみが乱雑にベッドの上に転がっている。

 それ以外は脱ぎ散らかされた服が床に落ちているだけだ。机も椅子も何もない。

 脱ぎ散らかされた服の中には下着も落ちていたので、極力見ないように気を付けているとセシリアさんが素早く衣服を回収していった。


「クー、脱いだ服はちゃんと洗い物用の籠に入れておいて、って言ったでしょ」

「だって面倒くさかったんだもん。お兄ちゃんが毎日部屋に来て、クーを運んでくれたら考えるかも」

「自分の事は自分でしなさい」


 クーをベッドに下ろして、部屋を後にする。

 扉を閉める際に部屋の中を見ると、既に着ていたワンピースを床に放り捨てて下着姿だったクーと目が合う。

 ニヤッと笑って自分の体を隠すクー。


「キャー、お兄ちゃんのエッチ~」

「子どもの着替えとか見ちゃっても、どうとも思わないですー」


 静かに扉を閉めて自分の部屋に向けて歩く。

 隣を歩いていたレヴィさんが、僕の顔を覗き込むように横から見てきた。

 何だか悪戯っぽい笑みを浮かべている。


「私の着替え、興味あったら覗いてもいいのですわ?」

「健全な男の子ですし? 興味はありますけど? 覗きはダメだからしないよ」

「一緒にお風呂入ってるのだから今更な気がするのですわ」


 いやいや、着替えている所はなんか別じゃん?

 なんて言っても、またからかわれるだけなので、何も言わない。

 レヴィさんは隣でクスクスと笑っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る