129.事なかれ主義者は宣伝した

「それで? 本題は何なのですわ?」


 部屋にいる全員の紹介が終わり、向こうの自己紹介を丁重にお断りして、三杯目の紅茶を飲んでいるとレヴィさんが話を戻した。

 そうだよ、そもそも陽太たち何の用で来たんだよ。会いたいとしか聞いてないよ。

 自分たちの紹介をし始めようとしていた明の話の腰を折ったからか、何とも言えない顔で僕を見ていた彼だったけど、レヴィさんの質問で切り替えたようだ。


「できればシズトと僕たちだけで話したいんですけど」

「別に聞かれて困る事は僕にはないし」

「こちらにはあるんですよ」

「別に勧誘なら目の前でしてくれても構わないのですわ」


 お、図星のようですな。レヴィさんが魔道具を使って指摘すると明が一瞬顔を顰めた。


「ドラゴニアとしては、世界樹を今後もシズトが育ててくれて、ある程度素材を国に融通してくれればシズトがどこに行こうといいと考えているようですわ。ドラゴニアの領土で育てているのですから、融通くらいはしてほしいと考えているようですわね。今ここにいる私はシズトの友人としてここにいるのですわ。だから、別に目の前で勧誘してくれてもいいのですわ。私は立場的に自由に国外に出ることができないですので、寂しいですけれどシズトが望むなら仕方ないのですわ。ファマリーの家に住んで、シズトがやってくるのをのんびり植物を育てながら待つのですわ」

「なんか話の流れ的に僕がドラゴニアを出る事になってそうだけど、行かないからね?」


 レヴィさんの目が潤んでいたので慌てて言う。

 慌てて言っちゃったけど、ちゃんとこの話の可能性もある事を踏まえて、真剣に考えてきた答えだ。


「今よりも待遇の良い環境を整えると向こうが提案していてもですか?」

「いや、だって今回の事で確証もないのに動いちゃうとこだって分かっちゃいましたし? あんまりいい印象ないですし」


 あとこのドラゴニア国王やドラン公爵とは仲良くしてもらってるし、気をだいぶ使ってもらってるみたいだし。エンジェリア帝国の……王様? 皇帝? はそこら辺どうなのか謎だしなぁ。


「まあ、でしょうね。この件は諦めましょう」

「……おい、いいのかよ」

「別にいいんじゃないですか? 勧誘して来いと言われましたけど――」

「強硬手段を実行しないのは褒めてあげるのですわ」


 レヴィさんが嬉しそうに緩んだ口元を扇子で隠しながら陽太と明の話に割って入ると、陽太が動揺した様子を見せた。もう少しポーカーフェイスとかできるようになった方がいいと思うよ。


「一度行ったところに転移できる魔法は便利ですわね。ただ、それを使ってシズトの意思を無視してエンジェリアに連れて行ったら……今度こそ戦争ですわ。ドラゴニアの武力に関してはちゃんとエンジェリアから聞いているのですわ? ……せいぜい、眠れる竜を起こさない事をお勧めするのですわ」

「そうします」


 ドラゴニアって結構強いんかな、なんて事を四杯目の紅茶を飲みながら思う。

 ……お腹タプタプしてきた。


「ああ、でももう一つの目的に関してはお父様に相談するといいのですわ。条件次第で手伝ってくれると思うのですわ」

「もう一つの目的って?」

「亡命ですわ。勇者に逃げられた国、って汚名が向こうについてしまうから、その場合も戦争になってしまうかもしれないですわね。迷惑をかけられる以上、それ相応の対価を支払ってもらう必要だと思うのですわ」

「戦争かぁ」

「こればっかりはシズトが嫌がってもやるしかないのですわ。幸い、魔物退治のために南北に軍が集結しているのですわ。勇者が国を出てしばらくの間は軍を待機させておけば、ファマリーの時の様な奇襲を受ける事はないと思うのですわ」


 なんで陽太と姫花も驚いて明を見ているのか謎だけど、明は特に何も言わずに紅茶を飲んでいる。

 明は一息つくと、僕の視線に気づいて肩をすくめた。


「レヴィア王女殿下が仰られた通り、僕は転移の魔法が使えます。一回でエンジェリア帝国からどこか他国に行くのはまだ難しいですが、今回は転移先の選択肢を増やすために訪問した、という面もあります。皇帝陛下はちょっと野心のある方の様なので、そろそろ巣立って護衛という監視のいない状態で見聞を広めようかと」

「いいと思うのですわ」

「戦争の可能性もありますし、もう少し時期を見てから行おうと思ってましたけど、二人に知られてしまったので……ちょっとここで話し合ってもいいですか? この屋敷の外に出たらまた監視がついてしまいますし、どうやらこの屋敷の中は外からじゃ魔法で覗けないようになってるみたいですし」

「好きにすればいいのですわ。帰る時はきちんと屋敷の門から出ていく事をオススメするのですわ」

「腕輪を外してもらわないといけないので、そこはきちんと歩いて出て行きます」


 レヴィさんに促されて部屋を後にする。

 部屋を出る際に振り返ると、明が僕を見ていた。


「……サイレンスって言う魔道具が売ってる店行ってみるといいよ。逃げるのに便利なものが売ってるから」

「分かりました、探してみます」


 ありがとうございます、とお礼を言う明にちょっと罪悪感。

 ただの宣伝なんだよなぁ。まあ、便利なものがあるのは本当だけど。

 とりあえず、ホムラとユキに話を通しておこっと。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る