128.事なかれ主義者は紹介した
紅茶をのんびりと飲みながら、陽太たちの様子を見る。
姫花は相変わらずムスッとしていて、そっぽを向いていた。そんなに嫌ならもう帰っていいんじゃない? 謝罪は受け取ったよー。品物はまだだけど。
陽太はあからさまな視線をレヴィさんに向けている。レヴィさんというか、レヴィさんの胸に。うん、目が行っちゃうのは分かるよ。でもそんなガン見してると相手に失礼だと思うんだけど。
紅茶のカップを皿の上に戻すと、明が口を開いた。
「それにしても、静人は神様を相手に上手に交渉したんですね。二つも加護を持っている事には驚きました」
「二つ?」
「あれ、違いましたか? 鉄を操る魔法は確かにありますけど、詠唱をしていない様子でしたし、規模も段違いでした。てっきりあれも加護なのかな、と。それに加えて世界樹を育てる加護も持ってるじゃないですか」
なるほど、そういう感じに見えるのか。
加護については勝手に誤解させとけばいいかな。
いや、街中で聞き込みしたら僕が魔道具を作ってる事なんて、すぐ分かっちゃうだろうし、下手に隠さない方がいい?
僕が答えずに黙っていると、レヴィさんが口を開いた。
「いくら同郷の方であろうと、現時点で仲間ではない人に加護について聞くのはよろしくはありませんわ」
「そうですね、これは失礼しました。……ところで、あなたはどちら様でしょうか? 静人、いい加減紹介をして頂けませんか?」
「ん、そうだね。こちら、レヴィさん」
「そう呼んでいいのは親しい仲の方だけですわ。レヴィア・フォン・ドラゴニアですわ。……ええ、お察しの通り、この国の王女ですわ」
「こ、これは失礼しましたレヴィア王女殿下」
「別にいいのですわ」
レヴィさんはそれだけ言うと目を閉じた。
……沈黙が気まずい。
きょろきょろと助けになりそうな物を探す。後ろを見ると、ラオさんが僕の頭をむんずと掴んでグイッと正面に戻された。
明と視線があったが、眼鏡をくいっとした後、明の視線が僕の頭に移ってから背後に向かった。
「後ろの方々は? 護衛にしてはずいぶん気安い仲の様ですけど」
「髪が赤くて短い人がラオさん。ドランに来てから一番お世話になってる冒険者だよ」
「お前冒険者になったのか?」
今度はラオさんの体をじろじろと見ていた陽太が驚いたような声音で聞いてきた。気持ちは分かるけどもう少し隠そうよ。
「ちょっとだけやってたよ。今はもうほとんど活動してないけど」
いい加減何か依頼受けないとペナルティとかないかな、ってちょっと心配ではある。
「ケンカ嫌いだったお前がねぇ」
「格安で身分証が作れたからね。街の中の依頼をするだけだったらそんなに危なくなかったし」
「ダンジョンは?」
「行ったよ。ゲームの世界みたいだな、とは思ったけどそこまでワクワクしなかったよ」
「あの鉄を操る力を使えばある程度の魔物相手なら楽勝でしょうけど……。世界樹の管理をしてたらそれだけでお金はたくさん得る事ができますから、ダンジョンに行く理由が減ってしまいますもんね」
陽太は勿体ない、と言いたげな表情だったが、明は納得したようで頷いていた。明も基本的には暴力とか嫌いだもんね。力じゃなくて頭を使う方が好きだ、って言ってた気がする。
ちょっと話が脱線しちゃったけど、気を取り直して紹介を続けよう。
「髪が赤くて長い人がルウさん。ラオさんの妹さんなんだよ。そっくりだよね」
ルウさんは余計な事は言わないように、とラオさんから厳命されていたので、僕の視線の合図とともに軽く会釈をしただけだ。
陽太、どこを見て頷いているのかな? 僕は顔の事言ってるんだけどね、何かなその顔は?? なんで俺は分かるぜ、みたいな感じで頷いてるのかな???
陽太と無言のやり取りをしている様子を姫花がチラッと見て、鼻で笑った。
「結局、静人も陽太とおんなじじゃーん。力見せびらかして調子に乗って、女の人侍らせて……しかも胸が大きい人しかいないし」
「レヴィさんたちはそういう関係の人じゃないよ」
「あら、お風呂は一緒に入ってるのですわ?」
「そっちは湯浴み着を着てるでしょ!?」
口元を扇子で隠しながらクスクスと笑っているレヴィさん。
ピリピリしているよりはこっちの方がいいけど、誤解を招く発言はしないでほしいんですけど!?
「シズトはそちらのお猿さんと違って、極力見ないようにしているのですわ。別に、私は見られても一向に構わないのですけれど。あと、そちらの……名前を聞いてなかったのですわ。まあ、どうでもいいですけれど、小さいからって妬んじゃ駄目ですわ。なにより、そのシズトに対する態度……帰っていただいても構わないのですわ」
だよね。何か置いてさっさと帰ればいいのに。
そう思っていると、明が慌てた様子で頭を下げた。
「度々申し訳ございません。姫花、黙って大人しくしてる約束でしたよね」
「姫花そんな約束知らなーい」
二人のやり取りを呆れつつ見ていると肩をトントン、と叩かれた。
「私の紹介」
「あ、ごめん」
でも、ちょっと待って。向こうがそれどころじゃなさそうだから。
セシリアさんが空になってしまったカップに紅茶を淹れてくれたので、のんびりと紅茶を飲んで言い争いが終わるのを待つ。
……姫花に何言ってもやっぱり無駄だよな、って改めて思った。
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