98.事なかれ主義者は飛んでみた
つるつる頭のままのアルヴィンさんに良い笑顔で見送られてから数日後。不毛の大地をのんびりと進みドランに戻ってきた。あっち行ったりこっち行ったり面倒になってきたし、転移陣隠すのやめようかなぁ。でも勝手に街を出入りするのはまずいよなぁ。してたけど。
結局、周りに人がいない状況になるまではこのまま通うしかないか。
エルフとのゴタゴタが早く終わってくれればいいんだけど、原因は僕にもあるしなぁ。
「シズトさま、げんきない?」
「あ、アンジェラ。もう読み終わっちゃった?」
「んーん。シズトさま、ためいきついてたからしんぱい」
書斎で膝にアンジェラを乗せ、一緒に読書をしてたけど他の事を考えすぎた。
ちっちゃい子を不安にさせちゃだめだよね。
「ちょっといろいろあってねー。でも僕じゃどうしようもない事だし、考えても仕方ないねぇ。それにしても、アンジェラすごいね! もう絵本読めるようになったんだ?」
「たくさんおべんきょうしたの! アンジェラ、えらい?」
「偉い偉い、とっても偉いね~。いい子いい子」
「キャ~~~ッ」
アンジェラの頭を優しくなでると嬉しそうに叫びつつ、コアラみたいに抱き着いてくるアンジェラ。
勉強はこのくらいで切り上げてお菓子でも貰いに行こうかな、とか考えていたらエミリーとその後ろをついてきたパメラが部屋に入ってきた。心を読んだかのようにタイミングがいいのはこの屋敷のメイドの基本スキルなんだろうか。
「お菓子をお持ちしました」
「今日はポテトチップスデース!」
「あなたの分はないわよ」
「シズト様にもらうから問題ないデース!」
「アンジェラもほしー!」
「はぁ……ほら、ちょっと失敗しちゃった物がこっちにあるから、あなたたちはこっちにしなさい。シズト様、紅茶を準備しますので少々お待ちください」
「ありがと。ほら、アンジェラもお礼言って」
「エミリー、ありがとー! だいすき!!」
何だかんだ言いつつ、エミリーはアンジェラに甘いみたい。
アンジェラの頭を少し撫でで、ついでにお礼も言わずにバリバリと失敗作とやらを頬張るパメラの頭に拳骨を落とした。
エミリーに紅茶も準備してもらってから、綺麗に揚げられたポテトチップスを食べる。
塩味だけじゃなくて、スパイスが効いたちょっと辛い物もある。香辛料とか高いんだろうけど大丈夫なんかな。まあ、アルヴィンさんに売った『増毛帽子』が結構高めの値段で売られただろうから大丈夫か。
今だいたいどのくらいお金があるのかとか怖くてユキやホムラから聞かないようにしてるんだけど、お金足らなくなったら最悪世界樹の素材売ればいいや。
「食後の運動でもしよっか」
「賛成デース!」
「きょうはなにするの?」
「何しよう? とりあえずいい天気だし外出てから考えようかな」
「じゃあすぐに外に行くデース!」
アンジェラをひょいっと持ち上げてバサバサと窓から外に飛び出すパメラ。アンジェラは慣れた様子で叫ぶ事もなく運ばれていく。
空飛べるっていいよね。空飛ぶ魔道具とか使えたら楽しそう……って、そもそも浮遊台車がほんの数センチだけど浮いてるし空飛んでるって言っても過言ではないか。
ただ、推進力がないから浮遊台車はその場に浮いているだけだしノーカウント。
「魔法の絨毯とか、空飛ぶほうきとか? 有名どころはそこら辺だよね。後は気球?」
「シズトさまおそーい!」
「新しい遊び考えてるデスか?」
「いや、空飛ぶ方法」
「翼生やせばいいと思うデース」
「人間にはそれは無理……でもないのかな? 魔道具使えば翼の代わりのもの作れるか」
いろいろ考えて結局、有名な空飛ぶほうきを作る事にした。浮遊と飛行の違いはあれど、魔法陣さえ付与してしまえば魔力を流すだけで誰でも使えるって便利だよね。
さて、実験をしましょう、とほうきに跨って魔力を流すと魔力が多すぎたみたい。
すごい速さで景色が後ろに流れていく。ぐんぐんと目の前の壁との距離が縮まっていき、何とか制御して上昇しようとしたんだけど――。
「シズトくん、ちょっとこれは危ないとお姉ちゃんは思うの」
「ご、ごめんなさい」
眉間に皺を寄せたルウさんが僕をいつの間にか抱き留めていた。
ほうきはすごい速さで別館の壁に突っ込んで壊れてしまっている。その粉々になった物を見ると冷や汗が止まらない。
ルウさんは僕が謝っても険しい顔を止めず、その顔のままパメラの方を見た。
「パメラ」
「は、はい!!!」
「あとでホムラちゃんから話があると思うわ。覚悟しときなさい」
「わ、分かったデス……」
「シズトくんはちょっとお姉ちゃんと一緒にお話しましょ?」
「はい……」
ルウさんルウさん、そんなぎゅっと抱きしめられるとお胸がですね? え、怒ってるから離さない? ご褒美になっちゃうんですけどいいんですかね。
結局その後、屋敷に戻っても解放される事はなく、抱きしめられたまま説教された。めちゃくちゃ恥ずかしいし、良い匂いだし柔らかいしで緊張しすぎて説教どころじゃなかったけど。
その説教が終わった後の皆との話し合いの結果、魔道具の実験はノエルがする事になった。
「とばっちりっす!!」
「ごめんて」
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