第7章 世界樹を育てつつ生きていこう
91.事なかれ主義者はさっさと作る事を決めた
世界樹ファマリーにお祈りするため不毛の大地を突き進み、ファマリーの周辺に張った聖域の中で過ごした二日間。聖域の魔道具に念のため魔石をさらに投入しておいて、ドランに戻るため出発したのが数日前。
ドランに入る時に何かしらチェックを受けるのかな、って思ったけど周囲にいた近衛兵のおかげか、それともこの馬車のおかげかは分からないけどそのまま通過できた。
街中も最優先で進めてもらえて、領主の館の敷地にそのまま入って行く。
馬車が館の前に着くと、外から扉が開けられてレヴィさんが我先にと下りていく。
僕もその後に下りると、レヴィさんがリヴァイさんに抱きしめられて近づけられる顔面をとても嫌そうに手で抑え込んでいた。
「ああ、ついにレヴィも反抗期か。昔は結婚の約束もしてくれたのに……」
「シズトが待ってるから早く離すのですわ!」
「シズト殿。そこの二人は放っておいて中で話をしよう」
「あ、はい」
「私も行くのですわ!!」
応接室に通され、目の前に魔道具ですぐに用意された紅茶が置かれた。
隣にはレヴィさんが座り、後ろにドーラさんとラオさんが控えている。ルウさんとホムラは一足先に家に帰ってもらった。今頃は不在の間に何かなかったか確認している頃だろう。
僕が紅茶を飲んで一息をついた頃を見計らって、ラグナさんが口を開いた。
「ある程度はドーラから報告は受けてるが、もう世界樹ファマリーから離れてしまって大丈夫だったのか?」
「そうですね、少しくらい離れても大丈夫だとは思います。これからは定期的に向こうに行ってお世話しようかな、って」
転移陣が使えればいいんだけど、あれだけの人数に見られたらすべてを隠し通すのは無理だろうし。ただ、面倒になってきたり問題が起きたりしたら遠慮なく使うけどね。そうなってしまった時の言い訳を考えておかなきゃかなぁ……。
そんな事を考えてちょっと憂鬱になっていたら、レヴィさんがそっと僕の太ももに手を置いてポンポンとしてきた。ちょっとした表情の変化を読むのが上手いのか、少しでも気持ちが落ち込むと最近よくポンポンされるんだけど、あなたのお父さんの前ではしないでほしいなぁ。お父さん嫉妬してそうだし。
「ごほんっ。周囲に建物を作って、その中で転移をすればバレる可能性を減らせるだろう。王女が寝泊まりしている場所を覗く度胸のある者がいればまた別の話だが」
わざとらしく咳をした後、リヴァイさんがそう言ってきたけど、建物はなぁ。
「どのくらい大きくなるか分からないのであんまり近くに建てるわけにも行かないんですよぉ」
「加護を使えばパパッと作れそうだと思ったが」
「確かにリヴァイさんの言う通り、作れますけど簡単な小屋くらいしか作れないですし……」
ちょっと頑張って祠くらいだけど、それも見える範囲で何となくこうかな? って感じでしか作ってない。見えない部分はどういう風にすればいいのかわからないから部屋数が多い建物は作れないし。
「まあ、世界樹に問題がないのならしばらくは定期的に通えばいいだろう。私がドランにいる間は近衛兵の一部をレヴィにつけるくらいはするからうまく使え」
「作業を手伝ってもらうのですわ!」
「レヴィさんレヴィさん。護衛として使えって意味だと思うんだけど」
「ご命令とあらば、お手伝い致します」
「しばらく放置してたら荒れてたのですわ。次に行くときにしっかり耕し直すのですわ!」
それでいいのか、近衛兵……。
我が家に戻ったのは夕暮れ時だった。ご飯の準備はすでに終わっていたのでそのまま食事をする。
相変わらず、ノエル以外の奴隷は一緒にご飯を食べる事はない。ノエルが異常なだけで、これが普通なんだとラオさんたちが言っていたのでそういう物なのか、と一緒に食べる事は諦めた。
食事をしながらモニカの報告を聞く。黒髪黒目で親近感が湧く彼女は、元々は貴族のご令嬢だったからかある程度の教育を受けているようで簡単な計算と文字の読み書きができ、とても助かっている。
「サイレンスの売り上げは上々です。仕入れ値が他の店と異なり格安なのでぼろ儲け状態ですが、シズト様はそこら辺お聞きにならないので飛ばします」
うん、分不相応なくらいたくさんのお金の話を聞くと落ち着いてご飯も食べられないから。それにそういうのはホムラに全部丸投げするつもりだし。
「貴族からダイエット関連の魔道具の在庫の問い合わせが来ております。入荷の予定がない事を伝えても毎日足繫く執事と思われる方々がいらっしゃってます」
「ダイエット用品ってあのめっちゃ筋肉痛起こすやつ?」
「腹巻の方です。飴もご所望されるのですが、情報と交換して渡しているので色々な話を聞いているようです。ですので、お時間のある時にまた腹巻を作っていただければと思います。あと育乳ブラ? という魔道具を求めるご令嬢が店の周囲にたむろしているようですね」
「ちょっとそれは困るけど……でも何でそんな急に? 最近は作ってないし売ってないよ?」
「あ!」
レヴィさんが唐突に大きな声をあげたからみんなの視線がレヴィさんに集まった。
頬をかきながら苦笑を浮かべて彼女が理由を教えてくれる。
「そういえばこの前お茶会があって、話をした事を伝えるの忘れてたのですわ」
……確かに、昔のレヴィさんを知ってる人が今の姿見たらそりゃそうなるよね。
女性の美容にかける情熱は怖いし、乗り込まれる前にさっさと作っとこ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます