92.事なかれ主義者は収穫した

 不毛の大地からドランに戻ってきた翌日。朝ご飯を食べている時に、いつもの長袖長ズボンの格好のレヴィさんがふと思い出したように口を開いた。


「そういえば、イモはいつ収穫するのですわ?」

「え、育てた事ないから分からないけどまだまだ先じゃない?」


 ジャガイモを育てた事がないから分からないけど、昔保育園で育てた記憶がうっすらとあるサツマイモは一カ月で収穫はしてなかったし。ああ、でも加護とか肥料とか諸々突っ込んでるし、成長スピードが速くなってるだろうから収穫しても大丈夫なのかな?

 うーん、と首を傾げて悩んでいると、壁付近に控えていたエルフのジュリーンが口を開く。


「そろそろお伝えしようかと思っていましたが、シズト様の畑の作物は茎が黄色くなってしなびれ始めてるので収穫してもよろしいかと。肥料の影響もあるのか、順調に育っているようです」

「あとは加護の力も大きいだろうな。世界樹をあんなにすぐに大きくできるんだから、やろうと思えば植えてすぐに収穫もできるんじゃねぇか?」


 食後のラオさんが胸元を払いながら言った事を考えてみるけど、たぶんできるような気もする。まあ、そこまでする必要性を感じてないからしないけど。


「収穫後は別館の一室にとりあえず保管する予定ですが、管理をしやすいように食糧庫を作った方がいいかもしれません。他の畑もシズト様ほどではありませんが、順調に育っているのでそろそろ収穫時期ですし」

「商人を見繕っておきましょうか?」

「んー、とりあえず収穫してから考えようかな。その時にまたモニカにお願いするかも」

「承知しました」

「それよりも、腹巻と育乳ブラを作れるだけ作るつもりだからある程度の量集めておいて」

「かしこまりました。失礼します」


 丁寧な動作で綺麗にお辞儀をするモニカ。その後、一足先に食堂から出ていった。

 今日は魔道具作成をがっつりやらなきゃだから、【生育】の方はやらないか、少し抑えめにしよう。ごめんね、ファマ様。




「たくさん掘るのですわ!」

「レヴィア様、走ると危ないですよ」

「おにいちゃん、おいもたくさんほろうね!」

「一緒にジュリーンの説明聞いてからやろうか」

「お任せください。手取足取りお教えします。ダーリア、パメラの見張りしっかりしなさいよ」

「朝から……きつい……」

「競争デース!」


 黒い翼を大きく広げて先に走って行ってしまったレヴィアさんを追い抜いたパメラをだらだと追いかけるダーリア。僕の手を握ってとことこ歩くアンジェラのピンク色の頭を視界に入れつつ畑に向かって歩く。

 ドーラさんとラオさん、ルウさんは僕たちの後ろをついて歩いてきている。みんな畑作業をするためにラフな格好だ。

 ホムラはユキに「私だけお手伝いできないのは納得いかないわねぇ」と言われ、サイレンスに引っ張られていった。ホムラは借りてきた猫のようにおとなしく引っ張られていったのでまあ、大丈夫だと思う。

 畑に到着すると、確かに僕の畑だけ葉っぱが緑色じゃなくなっている。毎日【生育】を使っていた影響か、一番育ちが早かったのかもしれない。他の畑も時々使ってるし、肥料の影響か育ちがいいらしい。

 ジャガイモは傷がつくといけないから、と収穫の仕方の注意点をアンジェラと一緒に聞く。

 その説明を聞かずに数を競い合うかのようにレヴィさんとパメラがジャガイモを収穫していた。僕たちの分も残しておいてよ!


「競争に情けも容赦もないのデース」

「負けられない戦いがここにあるのですわ! セシリア、あなたも手伝うのですわ!」

「それはズルデース! ダーリア、協力するデスよ!」

「眠い……パス……」

「起きるデスよ! そんなところで寝たら死ぬデスよ!?」


 何事かと思ってちょっとダーリアの方を見たらジャガイモが集められている場所のすぐ近くで横になっていた。崩れたら埋もれそうだけど、死ぬ事はなさそうだからまあいいや。


「説明はこのくらいですね。収穫した後の事はまたその時に言いますので、とりあえず始めましょうか。じゃないとすぐになくなっちゃいそうですし」

「はーい! シズトさま、はやくやろー」

「はいはい、ちょっと待ってね」


 のんびりと丁寧に収穫をしていく。アンジェラが小さな手で掘るのを頑張っているので、そのサポートをするだけだけど。

 ラオさんとルウさんはちょっと細かな作業が苦手、という事で他の畑の水やりをしている。ドーラさんはぷちぷちと雑草を抜くのが楽しいらしく、不参加。

 少し時間がかかってしまったけど、ほとんど収穫できた。種芋の選別は以前世界樹の測定で作った虫眼鏡型の魔道具を使う予定だけど、今は魔力をあまり使いたくないのでまた今度。とりあえず収穫したジャガイモの土を払って傷がついてないか見ているけど……。


「パメラ、もうちょっと丁寧に収穫しようね?」

「ご、ごめんなさいデス……」


 しゅんとしているパメラ。その隣で同じように元気のないレヴィさんはセシリアさんにちょっとお説教されたようなので僕から言う事はない。

 収穫したジャガイモの保管などをジュリーンに任せて三つ出来の良いジャガイモを手に取り、祠にお供えをする。アンジェラもひょこひょこと後ろをついてくる。


「おいのりするの?」

「そうだよ。いつもありがとーってね」


 あと、今日は生育の加護を使わない事にしたからその事も謝るけどね。

 アンジェラと一緒に祠の前に立って、手を合わせお祈りをする。

 アンジェラの可愛いお礼の言葉を耳に入れつつ、僕も口には出さないけど祈る。

 いつも力を貸していただきありがとうございます、と。あと、今日は加護を使わないのでごめんなさい、とも。

 ……特に周囲に変化はないので許されたみたい。

 モニカの準備が終わってるか分からないけど、ここは任せて魔道具を作りに行こう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る