64.事なかれ主義者は慰めてほしい

 人生で一番緊張したお昼ご飯も無事に終わり、物件をいくつか紹介してもらって、新しいお店を手に入れた。

 中央通りの一番目立つところにあった大きなお店は大きすぎたので辞退。

 あんな大きなお店を持ったとしても持てあますのが分かっていた。まあ、僕が接客するわけじゃないので別に大きさとかはどうでもいいとは思うんだけど。

 二つ目に紹介されたのは領主の館がご近所さんになるのでこれまた拒否。

 場所柄、貴族がメインターゲットになるのだが、僕個人としては、街の個人商店とか、知る人ぞ知る不思議なお店をイメージしていたのでだいぶイメージと違った。

 だから二つ目も断ったのだが、そのタイミングで、レヴィさんが物件を紹介してくれていた人に何事か伝えて案内されたのが今いるこぢんまりとしたお店。イメージぴったりでいい感じの雰囲気。

 中央通りから少し外れて、北西の住宅街の中に紛れ込んで建てられたかのようなそのお店は、一階部分の通りに面した部屋をお店として使う予定だ。その奥はトイレと台所と階段がある。ほとんど台所が占拠しているけど、急な階段を上った先は部屋が分けられていて、同じ広さの部屋が三つ。だいぶ昔、宿として使われていたらしい。


「本当にこちらでよろしいのでしょうか? 北区にほど近いので治安は良いですが、周りはドランの領民くらいしか住んでおりませんが……」

「くれるって言ってんだから、いっその事全部貰っちまえよ」

「それは名案でございますね! いくつか与えても構わないと公爵様から許可を頂いております。気に入っていただいたここだけではなく、他の二軒もぜひ!」

「んー、持てあます未来しか見えないから要らないかなぁ」


 と、いう事で手に入ったお店は明日手入れをするという事で世界樹に祈りを捧げるために不毛の大地に転移してきた。

 夕方になるとアンデッドたちも活発になってくるのか、結界の外はたくさんのアンデッドがいた。


「ちょっとノエルー。魔道具解析する前に外のアンデッド何とかしてからやりなよ」

「入って来れないって分かってるものの相手をするより魔道具の解析に時間を割きたいっす」

「神聖ライト使っていいからさぁ」

「それはもうジックリ観察させてもらった後のものだから必要ないっす。複製はボクには無理っすから、もう興味ないっす」

「マスターと喋る時の態度がなっていないようですね。マスター、申し訳ありませんがちょっと教育をしてきます」

「ホムラ様いたんすか!? 待つっす! ちゃんと受け答えしてたっすよね!?」

「よそ見をしながら話していたでしょう」

「魔道具の解析中だったから仕方ないじゃないっすか!」

「一度中断してマスターの方をしっかりと向いてお言葉を頂戴するべきです」

「ちょ、ま! 引っ張らないでほしいっす~~~……」


 強く生きて。

 右足首を持たれて引き摺られていくノエルを見て見ぬふりをして世界樹を見上げる。

 そろそろ結界の範囲を広げてあげないといけないなぁ、なんて思いつつ今日も【生育】を使いながら祈りを捧げた。

 すくすく伸びますように、と。




 翌日の朝、久しぶりに街を歩いて自分のお店予定地まで歩いていく。

 護衛としてついてきているのはルウさんとラオさん。

 今日のお世話係だから、とルウさんが僕を持ち上げて移動しようとしたのを全力で拒否して何とか街中で醜態を晒さずに済んでいる。

 ホムラは商人ギルドに行って、店を出す許可状を貰いに行っている。ドラン公爵からのお手紙を持って行っているから特に問題もないと思う。

 ドーラさんはノエルと一緒に世界樹の方に行ってもらった。流石にノエル一人で作業をさせるのは不安だから。もしも何かあった時のために全員に帰還の指輪を持たせているので、万が一アンデッドが結界を破ってきて集中しすぎたノエルが襲われそうになったとしても多分大丈夫でしょう。

 お店についたのでとりあえず中に入って二人に指示を出す。


「それで、埃箱のゴミ出しからやればいいのか?」

「埃吸い吸い箱ね。ラオさんとルウさんで手分けしてお願い。その後は拭き掃除をお願い」

「わかったわ」

「あいよー」


 僕は別の作業をするために木の板をいくつもアイテムバッグから取り出してその場に置く。

 がらんとした店内だが、好きにしていいと言われると悩む。

 とりあえず、強盗対策として考えていたものを作ろう、と奥に続く場所を避けて大きな大きな収納棚を作る。いくつもの引き出しを一つずつ作っていくのは面倒だけど、【加工】で作っているから微調整が簡単で失敗しても作り直せる。銭湯にあるようなロッカーでもいい気がしたけど、魔道具の中には大きなものがあるのでそれも入れる事ができるように大中小とサイズを分けて作っていく。


「……いい案だって思って作ってみたけど、全部を対になるように【付与】していくのって結構大変なんじゃ……」


 ちょっとくじけかけたけれど、店内を分断するカウンターを作ったり、お客さんの動線を意識して魔道具が入りきらない時に展示する机などを【付与】で作りながら戻ってきたラオさんとルウさんに愚痴る。


「何作ろうとしてるかは知らんけどよ。建物全体か出入口とかに何かしら【付与】しておけばいいんじゃねぇか?」

「そうですね……」


 ルウさん、頭撫でていいんですよ。今こそ慰めてください。

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