63.事なかれ主義者と年の離れた友人?

 ドーラさんに連れられてやってきた領主の館は今住んでいる屋敷よりもとても大きかった。

 若干、挙動不審になっていた僕だったけど、強い味方に付いてきてもらっているので大丈夫!


「シズト、落ち着くのですわ。取って食われたりしないのですわ」

「レヴィさん、頼りにしてるからね! なんかやばそうな時助けてね!」


 僕の強い味方、レヴィさんだ。

 第一王女が同席している状況で変な事は言ってこないんじゃないかなぁ? っていう淡い期待を込めて同席を懇願しようと考えていたら、すでに呼び出しをされた事を知っていたらしく、朝には王女様がやる気に満ち溢れて待っていた。

 最近の普段着でついてきてるけど、セシリアさんも誰も何も言わないから大丈夫なんだろうか。

 いつもと違うのは加護を封じる魔道具を指にはめていない事くらいだけど……。

 まあ、ルウさんとラオさんやホムラと僕の格好の中でレヴィアさんだけドレスって言うのはそれはそれで目立つだろうし、それのせいかな。

 そんな事を考えている間に、奥へ奥へと案内されるままに進んでいたのだが、ぱっと見書斎の様な場所に通された。

 部屋の主であろう人物は椅子に座っていたが、僕と視線が合うと立ち上がって近づいてくる。

 短く刈り上げられた金色の髪に鋭くこちらを睨みつけるかのような青い瞳が特徴的な男性だ。


「よく来てくれた。俺はラグナ・フォン・ドラン。ラグナと呼んでくれればいい。レヴィア様も一段と逞しくなられて、王城でべそをかいていた頃が懐かしいですな」

「昔の話をしに来たわけではないのですわ! シズト、最近はべそなんてかいてないですわ!」

「え、うん、そうだね。こけた時も涙目だったけど、泣いてなかったし」

「余計な事は言わなくていいのですわ!」


 ぷりぷり怒っているレヴィさんを軽くあしらってドラン公爵がローテーブルの奥側の椅子に座るように促してきたので促されるままそこに座る。

 レヴィさんはすぐ隣に腰かけて、その反対側にホムラが座る。ルウさんとラオさんは椅子のすぐ後ろに控えていた。

 目が合うと、ラオさんは「前を向け」と言い、ルウさんはなんか手を振ってきたので振り返しておく。


「魔道具師殿のおかげで外壁工事は順調そのものだ。路上生活をしていた子どもたちでもたくさんのレンガを運ぶ事ができる浮遊台車を納品してもらえてとても助かっている。まずは感謝を伝えさせていただこう」

「い、いえ、仕事をしただけですので……」

「そう固くならなくていい。勇者様たちの世界では貴族や王族と関わる機会がないと伝え聞いている。多少の不作法は目を瞑るのが慣例だ。何より、これは非公式の会談だ。友人と話すように気楽に話してくれればいい。それで、魔道具師殿の名前を聞いても?」

「あ、すみません。シズトです。音無静人おとなししずと

「オトナシがシズトの家名なのですわ? 初めて知ったのですわ」

「家名までいうと貴族と間違えられるかなぁ、って思って。あと言う必要性が今までなかったし」


 あいつらに会う時くらいしかこっちの世界じゃ呼ばれる事ないだろうし。


「なるほど。無用な混乱を避けるため、か。それにしては、いろいろ派手にやってるみたいだが?」

「派手、ですか?」

「魔道具だけではなく、世界樹の事もドーラから聞いている。戦闘系の加護を持っていない、という事で積極的に介入はして来なかったが、世界樹まで育て始めると流石に何もしないわけにはいかん。ドラゴニアの貴族は私と王家で抑えるが、エルフ共はいつか何かをしてくるだろうしな」


 世界樹に異変が起きてるらしいですもんね。

 それにしても、ドーラさんとどういう関係なんだろう?

 全身鎧を身に纏ってドラン公爵の後ろに控えて立っているドーラさんに視線を送ると、レヴィアさんが隣でこそっと「異母兄妹なのですわ」と教えてくれた。

 ……めっちゃ歳離れてません?


「それで、具体的な介入……というか支援を考えていたわけだが、店を持ちたいそうだな?」

「あ、はい。魔道具店を持とうかなぁ、って考えてます。ドーラさんからお店貰えるって聞いたんですけど、本当にいいんですか?」

「浮遊台車の件と、王家に貸しができた礼もある。さっきも言ったが、世界樹の事もあるし、これくらいで恩義を感じてくれるなら安いものだ」


 そんな馬鹿正直に僕に言って大丈夫なの?


「隠し事をしてもレヴィア様には筒抜けだからな。レヴィア様がそちら側についてしまっている以上、下手に隠すよりも全部伝えて考えてもらった方がいいだろう」


 そっと膝の上で強く握りしめていた拳が撫でられて、隣を見ると優しく微笑んでいるレヴィさん。

 レヴィさん、嘘見分けるのが上手いとかそういうのかな? それか、王家だし諜報能力がすごいとか。うん、あり得そう。


「ぶっちゃけた話、先行投資だ。ダンジョン産の魔道具だけでなく、量産される魔道具が売られ始めたらより遠くから人がやってくるだろう? 浮遊台車の件もある。予想とは全く異なる利益をもたらしてくれるかもしれんしな。あと、世界樹の件で今後起こり得る事は予測ができんが、一目見ようと遠方から来る者たちも出てくるだろう。人の往来が激しくなれば面倒事も出てくるが、繁栄にも繋がるからな。こっちにもメリットはあるんだ。店の土地の権利も合わせてやるから自由にやるといい」


 ラオさんの方を振り返ると、ラオさんが「好きにしろよ」と言い、レヴィさんを見ても「シズトが思うままにすればいいのですわ」と言ったので、とりあえず有難くお店を貰う事にした。


「では、誓文書等を準備している間に、親交を深めるために食事でもしよう。レヴィア様も、護衛の方々も一緒に楽しんでくれ。その方が、シズト殿もリラックスするだろうしな」

「有難くいただくのですわ」


 そう言って共に部屋から出ていく二人をぽかんと見送ったのだが、ひょいっとルウさんに持ち上げられて後を追う事になった。

 ルウさん、自分で歩けるので下ろしてもらっていいですか? ダメですか、そうですか。

 すれ違う使用人さんたちが何にも反応してこないのはさすが公爵様の使用人って思えばいいんですかね……。

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