31.事なかれ主義者と大掃除④

 壁に穴が開くハプニングはあったけど、きっちりと穴を修復したので壁に穴をあけたことはバレてない。

 猫の目の宿の壁を修復する時に作った魔道具『なんでも穴埋め袋』を使って穴を埋めた。袋が穴を埋めるわけじゃなくて、袋の中に入れた土とかを魔法の力で特殊な粘土に変えて、それで穴を埋める感じ。

 色が違うので、その後は『色写しローラー』をころころ転がして、見ただけではどこに穴が開いたか分からなくなった。

 その後はきちんと安全確認をしつつ、距離を取って外壁を掃除した。

 ある程度の距離が離れていると穴が開く事はなかった。水で綺麗にされた壁は本来の白さを取り戻していた。

 ただ、ちょっと想定外だったのはとっても大きな屋敷だったから、外壁清掃作業が1週間以上かかった事だろうか。

 外壁に纏わりついていた蔦に関しては、全自動草刈り機を少し改良して鎌ではなく、ローラーを付けた。ローラー部分は網目状になっていて、お父さんが使っていた電動シェーバーみたいに壁に残っている蔦の残骸を取ってくれる。

 平面じゃなくて凹凸がある部分はどうしようかな、なんて考えていたらドーラさんが業者を呼んで処理してしまった。

 ……最初っからそうしておけばよかったじゃん。

 外観が綺麗になった屋敷に満足しつつ、不要になってしまった全自動草刈り機をホムラに託す。


「なんかいい感じに売っておいて」

「はい、マスター」


 高圧洗浄機はちょっと壁に穴をあけれるレベルという事を知ってしまったので売りには出せないけど、こっちならまあ大丈夫でしょう。『なんでも穴埋め袋』と『色写しローラー』は今後も多分使うだろうから今回は売らない。

 ホムラは素直に受け取って、部屋から出ていくかと思っていたら同じ部屋にいたドーラさんに持って行って、「金貨5枚」と言って売りつけていた。

 ホムラを仲介する意味、あるのかなぁ。

 なんて事を考えながらベットでごろごろする。自分でDIYした思い入れのある、狭い部屋ではない。3階にあるとても広い寝室のベットの上で。

 ……ええ、マイルームはラオさんに却下されましたとも。

 警護の面で、準備が整うまでは同じ部屋で寝るとも言われて諦めました。

 ホムラとラオさん、ドーラさんの3人が組んで寝かしつけ(物理)をしてくるんだからもう諦めましたよ。


「……防衛の魔道具を作れば自分の部屋を持てるのでは?」

「また何かやらかしそうだなぁ、おい」


 え、僕まだやらかした事なんてないと思うんだけど? ちょっとラオさん、またってどういう意味ですかね?

 ラオさんを見ると、呆れた表情でため息をついていた。腕をそんな風に組むと、大きなアレが強調されるのでやめてください。健康的な男の子にはそれは刺激的すぎるんです。ただでさえ、今薄手のタンクトップにズボン履いてないんですよ? もう少し僕を男として考えてもらえませんかね。

 ゴロゴロとベットの上を転がっていると、ラオさんがため息をついた。


「そんなに自分の部屋が欲しいのか?」

「欲しい!」

「いつにもまして積極的だな?」


 いや、だって自分の部屋だよ? 今まで自分の部屋を持ったことがなかったから憧れてしまうのは仕方ないでしょう?

 ただ、広すぎると落ち着かないから、ドーラさんが「物置」と呼んだあの部屋くらいの広さの自室が欲しいんだよ!

 ほら、いろいろと女の人と一緒だと不都合がありましてね? 溜まっちゃうものもあるわけでしてね?

 じっと、ラオさんを見ていると、ラオさんが折れてくれた。


「ドーラ。そっちで警護強化とかしてねぇのか?」

「屋敷周りはしてる。中はしてない」

「ああ、こいつの事もあるか」


 ラオさんとドーラさんが僕の方を見る。

 いや、視線が僕の後ろを見ているようだったから、ホムラを見ているようだった。

 最近忘れがちだけど、ホムラは魔法生物。僕には分からないけど、それに何か問題があるのかも……って、ちょっとホムラ。僕の頭を膝に乗せようとするのやめて。


「口が堅いほうがいい」

「ってなると奴隷とか――」

「ちょっとホムラ!いい加減にしないと怒……」


 起きたら朝でした。

 最近のホムラは膝枕にご執心の様で。

 ちょっとホムラ。

 頭グリグリするからこっち来て。

 ホムラの頭を両腕でぐりぐりしていると、最近聞いてなかった音が部屋に響く。

 ドーラさんが全身鎧を身にまとい、大きな盾を持っていた。


「あれ、ドーラさん。どこか行くの?」

「仕事」

「そうなんだ、行ってらっしゃい」

「ん」


 短く返事をして、彼女は部屋から出ていった。

 それと入れ違うように、ラオさんが部屋に入ってくる。

 外で朝食を買ってきたようだった。

 机に雑に置いて、自分はすぐに食べ始めるラオさん。

 僕はそんな彼女に挨拶をしつつ、ご飯をもそもそと食べた。

 その日の夜、ドーラさんは屋敷に帰ってこなかった。

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