第674話 環境バラバラPT
「うわ、勢揃いだ」
努たちPTがギルド第二支部に入り帝階層に潜るために受付列へ並ぶ中、その周囲にはアルドレットクロウの面々が席を陣取っていた。
先ほどぶりであるルークは存在をアピールするように全力で手を振っていたが、その後ろに控えているカムラの目は異様に鋭い。ソーヴァとセレンはそんな対照的な二人を前に呆れた様子で、この場にいないビットマンは神台ドームで家族サービス中である。
ただそんなカムラよりも異様な視線を見せているのは、アルドレットクロウの一軍であるステファニーである。桃色の瞳は努を追って離れず、彼の教えた練習法である小さなスキルの数々は暴れ回るように浮遊している。
その狂信者に追従している大剣士のラルケもまた穢れを見るような目をしており、傍らのディニエルは獲物を見定めるような目付きである。ただそんな彼女の視線から師匠を守るように立ち塞がったハンナに、興が削がれたのか視線を外した。
そんな中で一服の清涼剤かのような笑みを浮かべている暗黒騎士のホムラであるが、その目には何処か狂気が垣間見える。本当の清涼剤であるポルクはさして興味もなさそうに揚げたてポテトを貪っていた。
そんなアルドレットクロウの面々をアーミラは好戦的な顔で睨み返し、エイミーはジトっとした目でディニエルを見つめていた。その間に努はPT契約を済ませ、喧嘩腰の女子陣に唾液採取の用紙を配る。
「ツトム!」
両者剣呑な空気が流れる中、それを切り裂くように明るい声をかけたユニスは彼と同じ帝階層産のローブを着ていた。そして努が微妙な顔で振り返ったことにも構わず拳を突き上げる。
「頑張るのですよ!」
「……随分と素直な弟子に乗り替わったもんだね」
「お陰様で成長したのです!」
成鳥した姿を見せつけるようにでんと胸を張るユニスに、努はへいへいといった顔で視線を外した。そしてPT契約も済み魔法陣へと移動したところで、同じクランとして見送りに来たPT一堂の先頭に立つゼノが意気揚々と声を掛けた。
「いよいよだね! 果たして人型の階層主は来るのか! 楽しみにしているよ!」
「もし違ったらあの訓練費用がパァかな?」
すると努の後ろに控えていたガルムが鼻を鳴らした。
「そこらのモンスターと戦うより、ゼノの支援回復のあるコリナと戦う方が実戦経験としては何よりも深かっただろう。あの訓練が無駄になるはずもない」
「そうだとクランリーダーとしてもやった甲斐があるよ」
「こちらとしてもあのアーミラと真正面から戦えたのは収穫だったね。あのようなモンスターと対面することは中々ない」
ゼノたちがそうこう話している間にも、リーレイアやコリナはアーミラに何やら小言を挟み、クロアはエイミー相手にはすはすした様子である。余ったダリルはゼノの肩から話しかけたそうにぴょこぴょこしていて、ハンナから笑われていた。
「それじゃ、僕たちが帰ってきたら速攻潜っていいからね」
「勿論。階層主のお披露目こそ譲るが、180階層を一番初めに突破するのはこの私たちさ!」
「そうすればディニエルがいらない証明にもなりますからね。俄然やる気になるというものです」
リーレイアはそう言って切れ長の目で欠伸をしているディニエルをねめつけた。そんな彼女に猫耳を立てて威嚇しているエイミーを努は宥めた後、PTメンバー全員魔法陣に入っていることを確認し詠唱する。
「179階層に転移」
そうして努たちは帝階層に転移し、180階層への黒門に向けて探索を開始した。
――▽▽――
「黒門みっけ」
ハンナとエイミー、努とガルムとアーミラの二手に分かれて黒門を捜索し、彼は崖の先にあるそれを遂に見つけた。
それをエイミーたちに知らせるために打ち上げ花火を設置して火を着け合図を送ると、その爆音を嫌ってか犬耳を手で塞いで離れていたガルムが近寄ってくる。その間にアーミラはじろりと努を見た。
「……思いのほか余裕そうだなァ。こりゃ本当に逃げねぇか?」
「それはいざという時にならなきゃわからないね」
「おい」
「喉元過ぎれば熱さを忘れるって言うじゃん。三年も経ってるし」
「次見捨てたら、俺がぶっ殺してやるって約束を忘れたか?」
死の恐怖に怯えて逃げた努が爛れ古龍の認識をバグらせて単身で帰還した後、クランメンバーの前で交わしたアーミラとの約束。それを持ち出してきた彼女に努は今でも痛そうに額を擦った。
「ぶっ殺されないよう努力するよ」
「当然だろ。あの後に何も言わずに消えて三年も待たせやがって、また性懲りもなく集めやがったんだ。がっかりさせたら今度こそ頭かち割ってやる」
「神龍化結びが見られるまでは死にたくないなぁ」
「……てめっ、おまっ…………ちっ!!」
まるで父親みたいなことをぬかした努に皮肉の一つでも返してやりたいところだったが、アーミラは上手く言葉が出ずに舌打ちで誤魔化すしかなかった。そんな嬉し恥ずかしの様子にガルムも嬉しそうに頷き、彼女に八つ当たりの肩パンをされていた。
「よーし、じゃあ行きますかー!」
それから花火の音を猫耳で察知したエイミーたちも合流し、180階層に向かう黒門に入る構図を映す神の眼のセッティングを済ませた。そして何か言葉を期待するようなエイミーからの視線に、努は首筋を掻きながら黒門の前に向かう。
「このメンバーだとどうしても百階層に挑んだ過去が浮かぶけど、それじゃあ仲間外れのハンナが可哀想ってことで色々考えたんだ」
「っすね。延々身内ネタを話される身にもなってほしいっす」
「ハンナもこれ見よがしにわたしたちの知らないネタぶっこんでくるけどね……」
努が神竜人に冷水をぶっかけたことを人伝に聞いていたエイミーの突っ込みに、アーミラが下らなそうに笑う。
「僕が故郷に帰っている間に、エイミーは帝都、ハンナは森籠り、アーミラはギルド。ガルムはクランリーダーをしてたから、みんなバラバラの環境で過ごしてたんだよね」
「おー、そういえばバラバラPTっすね。……なんか共通点としては微妙じゃないっす?」
「とはいえハンナ以外の共通認識としては、僕の不死記録を落としたくないっていうのは大きいと思う、まぁ僕からすればモグリの時に死んでるし、百階層でも死んだ認識なんだけど」
そう話しながら心当たりのあるガルムとエイミー、アーミラの順に努は視線を移す。それに古参の二人は懐かしそうに含み笑いを漏らし、神竜人はけったいな視線を寄越す。
「そんな記録に意味なんてない。でも僕は、おいそれと死に晒すつもりもない。180階層の初見突破は命題だ。それにはPTメンバー皆の力が不可欠だ。頼むよ、皆」
「あぁ」
「もち!」
「おーっす!」
「けっ、臆病な奴」
そんな努の意気込みにガルムとエイミーは頼もしい返事で応じた。ハンナは梯子を外されたことにも気付かず高揚した様子を見せ、アーミラは吐き捨てるように愚痴る。
「そんなに心配しなくても、俺が全部ぶっ殺してやるよ。モンスターも、階層主も」
「いーやわたしがぶっ殺すから」
「あたしもぶっ殺すっす!」
「それじゃ、行こうか」
「私もぶっ殺す気概で行くぞ。主にツトムの死に賭けている奴らの財布をな」
神の眼に射殺すような視線を向けて言い残したガルムが先んじて黒門に入り、四人もそれに続いた。
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