第644話 三軍候補
(帝階層終わったらしばらく野良PTでも組みたいな。僕、ヒーラー上手すぎぃ~)
努は暗黒騎士のホムラと組んだ翌日の朝刊による好評価で、自分の頭の中で想像した立ち回りが再現できることを再確認して惚れ惚れしていた。そんなにっこにこの努の隣にいるハンナは競売にでもかけられているようにびくびくしている。
リスクリワード運用については流石に祈禱師のカムラには敵わなかったものの、ブラッド運用では一歩抜きん出た立ち回りを披露することが出来た。ぼくのかんがえたさいきょうのあんこくきしがホムラにも迷宮マニアにも認められたのは喜ばしいことだ。
(たまには野良PTで遊ぶのもいいんだよな~。せっかく同盟組んでるんだしシルバービーストの知らない奴らと組むのも面白そう。帝階層でステファニーPTと競うの息苦しいよ……)
努が二軍の暗黒騎士ときゃっきゃしている間にステファニーPTは驚異の18時間耐久で千羽鶴をも下し、黒門を封じる南京錠を鎖ごと消滅させて先の階層へと進んでいた。ただエルフのディニエルにはその無理が祟ったようで、今日は臨時休業らしい。
(これには神運営もしょんぼり。初めから想定外のクリア方法するなってね)
「無限の輪にでも移籍するような褒め具合だな。実際に押しかけてきたらどうするのだ?」
そんな努と同じ新聞を読んでいたガルムは、ホムラが彼をべた褒めしている記事を見てそう尋ねた。すると努は目を爛々と輝かせる。
「どちらにせよ帝階層終わったらディニエル帰ってくるんだし、それ以降なら三軍作っても問題はないんじゃない? そうなったら騎士コンプリートじゃん!」
無邪気な努の提案にハンナが気まずそうに口を引き結ぶ中、エイミーはサラダをざくざくフォークで刺しながら指折りで数える。
「そうなるとまずソニアクロアホムラ……女の子ばっかだねぇ」
「カムラと男のタンク入れればいいよ。……ビットマンとか?」
「それが出来れば苦労はしないというやつだな」
「ガルム、また弟子連れてきてよ。ダリルくらいのやつ」
「無茶を言うな。そういうツトムが育てればいい。それこそあの孤児はどうなのだ? 双剣士の」
「……絶対無理とは言わないけど、無限の輪に入れる可能性はないだろうね。エイミーの下位互換だし」
努が神のダンジョンで初めて間接的に殺したオルファンのモイという少女。その時の戦闘前に交わした交渉がささくれのように残っていたので、努はシルバービーストに頼んで彼女をひっそりと迎え入れさせていた。
とはいえ努の言葉に嘘はなく、モイに探索者としての才覚はない。双剣士としても刻印士としても微妙であり、最前線に出てくることはないだろう。
ただずば抜けた才覚がなくとも、人並みに稼いで食っていくことは出来る。シルバービーストで孤児を何十人も送り出してきた職員から見ても彼女は真っ当な道に戻ろうとしているとは聞いているので、このままひっそり自立してもらえると偽善で守れない取引を持ち掛けたことにはならず、人殺しの罪悪感も多少は薄れる、
「シルバービーストから生え抜きを掠め取るわけにもいかないしねぇ。数百人くらいは見ないとダイヤの原石は見つからないだろうし」
「わざわざ孤児の中から選ぶ道理もないだろう。不遇な環境から成り上がる精神が構築されるのはいいが、それが良い方向に作用する確証もない。本気で探すならギルドで募集した方が早いだろうな」
「でも素質があって成果も出してる人は採用競争も激しいし、駆け出しの頃から唾つけとく方がよくない?」
「…………」
言外に二人から数百人の逸材だと言われたダリルは平静を装うとしているものの、我慢が効かずによによしていた。それをコリナは微笑ましく見つめ、リーレイアは犬でも食わなそうな顔をしている。
そして先ほどから具合の悪そうな顔をしているハンナに追い打ちするように、アーミラは両手を大きく広げた。
「どうせなら夢はでっかく持とうぜ。ヴァイスミナレオン連れてくればそこに俺とコリナ入れて夢のユニークスキルPTだぜ? ディニエルの入る隙間もねぇ」
「絶対纏まらないですぅ……」
「おめーを筆頭にな」
ドリームPTを語る彼女にコリナはげんなりとした顔でポテトサラダをつまみ、アーミラは誰がものを言ってるんだと突っ込む。その語り草を前に努は考察するように顎へ手を当てる。
「そういえばヴァイス、ジョブ的にタンクも出来るのか。ソーヴァもやってたし。ユニークスキルで自動再生付きのタンクとかチートか?」
「あいつにタンクの才はまるでないがな。元々一人でどうにかするような気質だ。全体を見ることがまるで出来ん」
「ユニークスキルがあるだけ恵まれてるんだけど、強すぎる力をPTに合うよう使いこなすのは難しいからなー。ねぇ、ハンナもそう思うよね?」
「……おっす」
PT内で作り上げた仕組みの裏をかいては怒られ、他のPTで好き放題やっても千羽鶴を討伐できなかったハンナ。だがディニエルのPTは千羽鶴を討伐してみせたことで、彼女はようやく自分の驕りを理解させられていた。
それに昨日カムラのPTの方が良かったと自分で言ってから努の目が据わり始めていたので、本当にアルドレットクロウへの移籍手続きが始まるのではとハンナはびくびくしてクランハウスに引き籠り梃子でも動かぬ姿勢を見せていた。
「帝階層で挽回できなきゃ三軍確定だから、今日から気張れよ~」
「……おっ、無限の輪には置いてくれるっすね?」
ただ努の言葉からしてクラン追放にはならないと思ったのか、ハンナは言質取ったと言わんばかりにささっと椅子を浮かして横付けしてきた。
「僕の方からメンバー除籍することは犯罪でもしない限りはないよ。他のクランに移籍したいってことなら別に止めはしないけど」
「あたしは生涯無限の輪っすーーー!」
「それはそれでどうなんだ? まぁ、仮に僕が亡くなっても続きはするか。現に三年持ってたし」
「もしそうなったのなら今度こそ解散だな。私は二度と御免だぞ、あの重責は」
「じゃあ次はエイミーで」
「ぜぇーーーったいやっ!」
そうこう雑談しながら朝食を進めていると、クランハウスのチャイムが珍しく鳴った。それに見習いの者が対応しリビングに帰ってくると、彼女は見慣れない封筒を努に差し出した。
「帝都からみたいです。一応中を改めても?」
「どうぞ。にしても来るの遅かったね」
それから何か変な内容物がないか見習いの者が離れて確認した後、その便箋が努に手渡された。その内容をざっと読んだ努は何とも言えない顔でガルムに横流しする。
「あっちもあっちで面倒臭そうだね。よかった、帝都行かなくて」
「行かせたのは実質的にツトムですけどね。ハンナも飛ばしたらどうですか?」
「やっす!」
「やっすってなんだよ」
リーレイアの提案を拒否しているハンナの言い草に突っ込みながらも、努は何やら面倒ごとに巻き込まれているシルバービーストの面々を夢想した。
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