第255話 ギルド長への相談

「龍化結び」



 ハンナの首元を掴んで龍化結びを行っているアーミラが少しアップで映っている、ギルド内の三番台。そんな神台をエイミーは思わず猫目になりながら観戦していた。



(アーミラちゃんも、大分ギルド長に似てきたなぁ。下手すればもう越えてるかも……)



 レベルも七十を越えてステータスが上がってから更に攻撃力は増し、その大剣の振りを実際に見ている努も感心したような顔をしている。最近は龍化も大分安定して意識を失うことはなく、使いこなしていると言ってもいい状態になっていた。



「サラマンダー、頼みます」

「ビャー」



 精霊術士であるリーレイアも精霊を契約させての立ち回りに磨きをかけ、まさに遠近こなせるアタッカーとして八十一階層でも活躍しているようだ。今は努をシルフと契約させての連係攻撃を試しているようだが、時間を見てハンナやゼノにも契約をさせているようだ。


 それに闇属性のモンスターには火と水、光属性のモンスターには土属性の魔法が効きやすいことがアルドレットクロウによって解明されている。そのため精霊術士のリーレイアは今回の階層と相性が良いだろう。


 親友であるディニエルは今もクランハウスで寝ているだろうが、正直越えられる気がしなかった。今でこそあんな様子だが、それでも彼女は八十年近く弓術士としての研鑽を欠かさず行ってきた。それに加えて神のダンジョンの探索者としても自分より古参である。


 そして冬将軍戦を見た時からわかっていたが、アーミラとリーレイアも基礎スペックが高すぎる。このままではすぐに抜かれることはエイミーにもわかっていた。だがエイミーは今自分が何をすればいいか、迷っているところだった。



(アルドレットクロウの一軍に双剣士が出てきたけど……何だかなぁ)



 一番台に映っているアルドレットクロウの一軍PTには、先日の査定でソーヴァを退けた双剣士の男性が映っている。彼はレベル八十を越えている双剣士で、エイミーも参考になるような動きはしている。しかし、目新しいスキルは使っていない。つまり八十レベルで獲得したスキルはそこまで実用性のないものだったのだろう。


 そのため現在七十一レベルであるエイミーは、レベルを上げてもステータスしか上昇しないという未来が見えていた。なのでレベルを上げての新しいスキルに頼ることも出来ないため、何か武器を作ったり磨かなければいけない。



(何か一軍ヒーラーちゃんはツトムと一悶着あったみたいだけど、今はそこまででもないのかな。それにしても、ほんとそっくりだ)



 それとギルド内で騒ぎを起こしていたステファニーは、特に変わらず一軍PTのヒーラーをしていた。努の立ち回りを良く見ていたエイミーならばよくわかる。ステファニーの動きは努そっくりであり、更にPTメンバーの動きにも合わせて立ち回りを変えていることに。


 今では努よりステファニーの方が実績も立ち回りも優れていると言われ、三大ヒーラーの中で努は最下位である。その記事を見て少し不機嫌にはなったが、肝心の努はそこまで気にした様子はなかった。


 ただ幸運者騒動の時にわかったことが、努は顔に出さないだけでそのこと自体は覚えている。そして必ず言われっぱなしで終わらないことも知っている。



(九十階層はコリナが一軍になるかもって記事で言われてたけど、ないだろーなー)



 九十階層主がよほど祈祷師に有利なモンスターなら別だろうが、単純な実力で努がコリナに負けるとは思わなかった。なのでエイミーも何とか一軍を目指そうと、改めて気合いを入れた。



(シルバービーストも、まさかここまで伸びてるとは思わなかったなぁ)



 そして三大ヒーラーの中で最も評価されている人物が在籍している、シルバービーストというクラン。二番台に映っているシルバービーストのPTは、他と比べるとかなり尖った編成をしていた。


 避けタンクに転向した赤と青の鳥人二人に、クランリーダーのミシルと呪術師のアタッカーが二人、そして走るヒーラーとして名高い兎人のロレーナのPT。避けタンク2アタッカー2ヒーラー1という編成である。


 避けタンクは様々な者たちが真似をして今では一つのタンクとして立場を確立しているが、その中でもシルバービーストは取り入れるのが早かった。避けタンクは一発が怖い不安定さはあるが、普通のタンクと比べて火力は増すのでその分戦闘時間も早く終わる長所がある。


 その中でも兎人の脚力を活かして避けタンクばりに動くロレーナは、まさにシルバービーストを象徴するような人物になっていた。彼女はエリアヒールなどを使わずに直接触れてヒールを行う立ち回りをしているため、その分支援効果時間に余裕が出来ている。


 それに普通避けタンクを導入するならば支援を送りやすい祈祷師を入れることが多いが、ロレーナはその恐るべき運動量で全体をカバー出来た。白魔道士であるにも関わらず前線に立つその動きはとてもリスクが高いが、長い耳で音や気配を察知する危機管理能力が彼女はとても高い。そのため前線を動き回っても死なずに立ち回れていた。


 そして避けタンク2という諸刃の剣をPTに採用している中、冒険者という比較的珍しいジョブであるクランリーダーのミシルはアタッカーとタンクを兼任した立ち回りで非常に安定感があった。彼が不安定な三人を上手く調整しているおかげで、一つのPTとして成り立っていると言ってもいい。


 そんなシルバービーストは現在アルドレットクロウに到達階層が並んでいて、今最も注目されているクランと言ってもいいだろう。アルドレットクロウと違い不安定さは目立つが、それ故に観衆から応援されている。



(ぐぬぬ……)



 無限の輪だけでなく、他のクランも伸びてきている。そんな中で自分だけ置いて行かれているような気がして、エイミーは歯噛みしながら神台を見上げていた。


 するとそんなエイミーが座っていた席の前に、綺麗な赤髪を揺らした女性が腰を下ろした。



「待たせたな」

「おそーい!」

「会議が長引いてな、すまん」



 お茶目にウインクをしながら手を合わせて謝ったのは、ギルド長であるカミーユである。エイミーは何処か八方塞がりな気持ちが拭えなかったため、今日は神のダンジョンには潜らずカミーユに相談することにしていた。


 藍色の制服を身につけているカミーユは前に座ると、自分の娘が丁度映っている三番台に目を向けた。



「おっ、アーミラじゃないか。今日も頑張っているようだな」

「…………」

「くくく、随分と不機嫌そうじゃないか。だが今日はわざわざギルドまで相談しに来たのだろう?」



 わざわざエイミーがギルドにまで会いに来たのは久々だったので、カミーユは上機嫌そうに胸を張りながら今か今かと待っているようである。自分より子供っぽいカミーユに一つため息をついた後、言葉を切り出す。



「……ユニークスキルもなければ、遠距離もこなせるジョブでもない。そんなわたしでも、無限の輪の一軍になれる方法が知りたい」

「……ふむ」



 真剣みのある顔で相談されたカミーユは、少し含みのある笑顔を見せた。



「それならば、もう一人加えて相談を聞いた方が早そうだな」

「え? もう一人?」

「エイミーの後ろにいる男だよ」



 カミーユが目線で後ろを示してきたので振り向くと、そこには目立つほどの長身に藍色の犬耳を警戒するように立て、露骨に嫌そうな顔をしているガルムが立っていた。

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