第172話 古株の訪問
「たのもーっ!!」
「お、来たか」
朝早くに外から聞こえてきた明るい声に努は気づき、オーリに中へ入れるように言った。今日は休日なのでクランメンバーもゼノ以外は常駐している。紹介する良い機会だろうと思って努はリビングにみんなを集めさせた。
すると二人がオーリに連れられてリビングへ入ってくる。猫人のエイミーは白髪を跳ねさせながら努に弾けるような笑顔を向けた。
「ただいまぁ!!」
「おかえり。取りあえず荷物を二階に置いてきて下さい。その後みんなに紹介するので」
「わかった!!」
身体にエネルギーを溜め込んで今にも爆発してしまいそうなほど元気なエイミーは、そう言うとオーリに付いていく。
「やっほー、ディニちゃん!」
「おー」
大きめのマジックバッグを肩にかけているエイミーは、その途中で相変わらずやる気のなさそうなディニエルとハイタッチした。
そんなエイミーを見送った努は、その後ろにいた白い兎耳が特徴的な女性を訝しげな目で見た。
「何ですかその目は! いらないですか!? 私いらない子ですか!?」
「いや、てっきりガルムかと思ってたんで。まぁでも、一緒に来そうにはないか。ロレーナさんはどうしてここに?」
「歩いていたら角でエイミーさんとぶつかったんですよ。その後は、なんか流れで来ちゃいました」
シルバービーストに所属している兎人のロレーナ。三大ヒーラーの一人と数えられている彼女は頭の後ろに手をやって照れたようにしている。そしてすぐに表情を変えて努へ詰め寄った。
「だってツトムさん誘っても全然うちに来ないんですもん! もうこっちから出向くしかないと思って来ました!!」
「あぁ。社交辞令か何かかと思ってました」
「違いますよ! 空いてる日を教えて下さい!! こっちから行くので!!」
長い兎耳で顔を突かれて努は数歩引いた後、考えるように少し上を向いた。
「最近だと明日と、一週間後も空いてますけど」
「じゃあ明日迎えに来ますね!! では明日!!」
ウインクと同時に兎耳も片方折り曲げたロレーナはすぐにクランハウスから出て行った。何だったんだと努がぼやく頃にはエイミーが荷物を置いてリビングに降りてきた。まるで転校生のような様子のエイミーに努が近づくと、みんなの視線を集めさせた。
「はい。じゃあ自己紹介をお願いします」
「エイミーです! よろしくね!!」
エイミーのことをよく知っているコリナやハンナは素早く拍手し、他の者たちはまばらだ。だが見習いの者もエイミーだけは知っていたのか、有名人を見るような目をしていた。
「エイミーのジョブは双剣士で、アタッカーの枠で入るかな。今日ガルムも来るらしいから、全員集まったらダンジョンで動きを合わせてみよう。エイミー、それまでは待機でよろしく」
「はーい。ディニちゃん! 部屋の片付け手伝って!」
「えー」
まだ部屋は片づいていないエイミーはディニエルに救援を要請し、しゅたたっと階段を上がっていく。ディニエルは面倒くさそうに目を細めたが、いそいそと二階に上がっていった。
「おぉー……。本当にエイミーが来ましたねぇ。凄いですぅ!」
「そうっすねぇ……。何か、実感が湧かないっすね。エイミーさんと同じPTっすか」
元からエイミーのことを神台で良く見ていた二人は感慨深そうにしている。リーレイアとアーミラはそこまで詳しく知らないのか反応は薄く、ダリルは何度か冷たい態度で接されたことがあるので少し怯えるような顔をしていた。
「あ、リーレイア。今日も契約よろしく」
「はい。
ここ最近努はずっと精神力を一段階上昇させることの出来るウンディーネと契約し、その状況下での立ち回りを試していた。ただ彼女とPTを組まずに神のダンジョンへ潜ると契約は解除されるため、PTにリーレイアがいる時限定の立ち回りとなっている。
努の手の上にべちゃっと着地したスライムの形状を取っているウンディーネは、その後努のローブにあるポケットに仕舞われた。もはや定位置となっているこの場所をウンディーネも気に入ったのか、最近は大人しく収まっている。
努は他にも妖精のような見た目をしたシルフや、赤トカゲのサラマンダーと契約を交わしている。ただその精霊たちはリーレイアが使うことが多いため、あまり契約することはない。ノームに関してはVIT上昇なので努からすればいらないため、一度も契約すらしていない。リーレイア曰くノームは仲間外れにされて悲しんでいるとのことだが、今のところ使い道がないのでしょうがなかった。
(エイミーは誰と組ませるか)
アタッカーとしての相性ならば仲の良さそうなディニエルと組ませるのが無難であるが、他の組み合わせも色々と試せる。特にアーミラやリーレイアとの相性は見ておきたい。
タンクに関してはハンナとの相性が良いと思うが、他の者が合うかは不明だ。ガルムとは十中八九いがみ合うし、弟子のダリルに対しても少し冷たい。ゼノとの組み合わせは未知数なのでわからないが、恐らく合わないだろうなと努は思っていた。
コリナに対してはギルドで祈祷師とPTを組んでいたこともあったので、意外に上手く立ち回れそうではある。その辺りも実際に一度PTを組んでみなければわからないだろう。
努は事前に考えていたPT構成をあれこれ引き出しながら、ガルムがクランハウスに来るのを待った。
―▽▽―
午後を回る頃にクランハウスの呼び鈴が鳴った。するとオーリが二人を出迎えてリビングに連れてくる。
今日無限の輪に来る予定だった、藍色の犬人であるガルム。その後ろには紅魔団のクランリーダーであるヴァイスも何故か付いてきていた。
神のダンジョンが出来る前は単独でダンジョンを攻略することで有名だったヴァイス。その異様な雰囲気にコリナやハンナ、ダリルは思わず息を呑んでいる。努はデジャヴを感じて乾いた笑みを浮かべていた。
「今日はお客さんが多いね」
「すまんな。どうしてもと頼まれたから、ついでに連れてきてしまったのだ。どうやらツトムに話があるらしい」
「…………」
犬耳を畳んでいるガルムの横でヴァイスが無言で頭を下げる。努がどうしたのかと聞くと、ヴァイスはいつもと変わらない鋭い目で見返した。
「……アルマが、ツトムに直接謝罪したいと言っている。申し訳ないのだが、空いている日はあるだろうか?」
「そうですか。……なら明日の、夕方頃はどうです? その日が空いていないなら来週でもいいですけど」
「……問題ない。では明日の夕方、迎えに来る。よろしく頼む」
そう言ってヴァイスはまた頭を下げた後にすぐクランハウスを出て行った。いきなりのヴァイス訪問に固まっていたハンナやコリナは、安堵したように息を吐いた。
「怖かったっすねー」
「そうですねぇ。やっぱり本物は迫力がありますよねぇ」
ハンナとコリナが小さい声で囁き合っている間に、努はガルムに声をかけて荷物を二階に置いてくるように告げた。そしてエイミー同様に自己紹介をさせた後、午後から集合したゼノも合わせて昼食を食べることになった。
食卓にどんどんと大皿に入った料理が並べれていき、追加で買った椅子も付け足されて十二人が座れるようになっている。席にどんどんとクランメンバーが座っていき、オーリと見習いを含めて総勢十二人が揃った。
「いただきます」
「いただきまーす!」
努の声に隣のエイミーが反応し、他の者も一様に礼をした後にフォークで大皿から料理を取っていく。ガルムやダリルは量の多いスパゲッティから手をつけ、エイミーは魚料理。ディニエルやハンナは軽い前菜などに手を伸ばしている。
「おいしー!!」
エイミーの大好物である魚料理に、甘党のガルムに合わせてデザートまでも用意されている。いつの間に調べたのかと努がオーリの仕事に内心驚いていると、隣に座っているエイミーが顔を覗き込んできた。
「わたしの好物ばっかり! もしかしてツトムが用意してくれたのかな~?」
「いや、僕は」
「はい。ツトムさんから事前にエイミーさんの好物は知らされていましたので、ご用意させて頂きました」
「やっぱり! ありがとツトム! 凄い美味しい!」
エイミーはそう言った後に魚の炙り焼きをぱくぱくと食べ進めている。口を挟んできたオーリに視線を向けると彼女は微笑みを返してくるだけだったので、努は降参するようにフォークを置いて水を飲んだ。
それから食事が一段落つくまではエイミーとガルムを中心に話が進む。特にハンナやコリナ、ゼノがお喋りなのでその五人での会話が多かった。
「クリーム鼻についてるよ」
「ぬ、すまん」
そうして大皿にあった料理もほとんどなくなり、ガルムがシュークリームの中身を鼻先に付けていた頃。エイミーは満足そうにお腹を擦った後に努を見上げた。
「ねぇねぇ。午後からダンジョン行くんでしょ? わたしツトムと行きたいな!」
「そうですね。取りあえず今日はエイミーとガルムは確定で連れていく予定です」
「やった!」
ガルムやエイミーがギルドでPTを組み、ダンジョンに潜っているところを努は何度か見かけている。とはいえ実際にPTを組むのは久々なため動きは合わせておきたい。
「あとのメンバーは……」
「はい! ディニちゃんがいい!」
「ディニエルは却下で」
「えぇ!? なんで!?」
「いや、だって上手くいきそうじゃないですか。それはわかりきってるので他の人を連れていきますよ。あ、それと同じ理由でダリルも駄目ね」
「え!?」
何だかんだ最近ガルムと会っていなかったダリルは久々にPTを組めると思っていた手前、努の言葉にずーんと沈んだ様子を見せた。そんな彼の肩をハンナがポンと背伸びして叩く。
するとガルムはそんなハンナを見た後、努に振り返る。
「ツトム。私は一度避けタンクとPTを組んでみたいのだが」
「そうですか。じゃあタンクはハンナでいきますか」
「あ、おっす。ダリル。ごめんっす」
「いや、いいですよ……」
ダリルを励ました手前気まずそうにしているハンナに、彼は身体を起こしてそう言った。だが尻尾はいつにも増して下がっていることから、テンションが下がっていることは間違いない。
「アタッカーは、うーん。リーレイアにしようか。僕も少し試したいことあるし」
「了解しました」
緑色の長い髪を結んでいるリーレイアは頷く。精霊契約を使った努と彼女の立ち回りはこの二ヶ月で大分洗練され、中々様になっている。今回はそこにガルムとエイミーを入れての雪原階層探索となる。
「そんなわけだから、他の人はいつも通り休憩で大丈夫だよ」
「はーい……」
「そんなに沈むなよ」
「情けない」
「二人とも酷くないですか!?」
努とガルムに畳みかけられたダリルは反射的に詰め寄った。だがガルムに難なく説き伏せられて、ダリルは涙目で食器を片づける手伝いを始めた。
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