第137話 分岐点
ボムゴーレムの一斉爆破によって地上にいた他のゴーレムは消し飛んで粒子となった。そして一部の足場からは溶岩が溢れ出ているので、足場が制限されてしまう。ダリルやアーミラはハンナ同様フライで飛び、ディニエルは射撃を安定させるため狭まった足場に居座った。
マウントゴーレムは十五体ほどのゴーレムを生成して地面に落とすと、それ以上生み出すことはしなかった。しかしゴーレムを生み出す数が少なくなるだけ、マウントゴーレム自身の性能は上昇していく。
「コンバットクライ!」
ヘイストを付与してもらったハンナは改めてマウントゴーレムのヘイトを稼いで攻撃に移る。赤い体表面は近づくだけで熱を発していることがわかるほど熱く、とても素手では触れそうにない。ハンナは両手に装備しているナックルを強く握り締め、連撃を叩き込む。
身体の赤みが増していくごとにマウントゴーレムの動きはどんどんと速くなっていく。今の状態ならダリルがギリギリ避けられるくらいだろう。しかしハンナを捉えるには至らない。
「ストリームアロー」
ディニエルの強烈な氷属性攻撃にさらされた場所は黒ずんでいく。ハンナはその場所を中心に狙って打撃を加える。マウントゴーレムは身体が大きく何処でも攻撃できるため、スキルコンボが切れることはない。そのおかげでカウントバスターの威力はどんどんと上がって行きヘイトを稼げるので、ストリームアローを連発で入れない限りマウントゴーレムがディニエルに向かうことはない。
「ウォーリアーハウル!」
ダリルとアーミラは先ほどよりも少なくなったゴーレム集団を引き付け、ハンナが飛び道具を気にせずマウントゴーレムと対面出来る状況を作っている。その数は十五体ほどしかいないため、引き付けることは容易だった。
時間が経つごとにゴーレム集団の数は一体ずつ減っていき、マウントゴーレムの素早さが上がっていく。その速度はもはやダリルでは全て避けきれないほどには上昇していた。
「メディック」
ダリル側の支援回復にそこまで意識を割かなくて良くなった努は、空を駆け巡っているハンナを中心にヘイストとメディックを送る。ハンナのスタミナは女性にしては異常に高いが、それでもこの高い気温の中激しい動きをすればすぐに尽きてしまう。
しかしメディックを多く当ててやればその分だけハンナは楽になる。置くスキルで努はハンナが動く先を予測してメディックやヘイストを置いてやり、彼女が意識せずとも支援回復を継続させていた。
「はっ、はっ」
ハンナは軽く息を乱しているが、集中は全く途切れていない。目の前に浮いている蠅でも捕まんとばかりに両手を振ってくるマウントゴーレムを一人相手にしているが、まだまだ捕まる様子は微塵も感じられなかった。
ハンナは頭上を通り過ぎていく音色を放つ矢を確認すると、マウントゴーレムを出来るだけ動かさないように引き付けたまま退避の体勢を取る。
「ストリームアロー」
そして精神力を回復したディニエルの強烈なスキルが放たれ、ハンナはそれを察知して退避。その繰り返しで確実にマウントゴーレムを削っていく。このままこの行動を順調に繰り返して行けばマウントゴーレムを完封して倒すことが出来るだろう。
しかしマウントゴーレムもただハンナを手で捕まえるだけではない。半分の体力が削られたことにより、新たな行動が追加された。
マウントゴーレムの顔部分にある、赤く輝く目が強烈に光り始める。努はそれを見るとすぐに叫んだ。
「光線来るよ! 避けて!」
努の声の後にマウントゴーレムの両目から赤い光線が発射される。ハンナは身体を反射的にビクつかせた後すぐに光線を避けた。そしてその隙を狙うように振られた両手も背中の翼をはためかせて避ける。
虫でも潰すかのように平手を打ち合わせたマウントゴーレムは、手の中を確認するとすぐに動いてハンナを付け狙う。目からの光線攻撃が追加されてハンナは更に動かなければならなくなる。
「ハンナ! キツかったらダリルと代われるから、無理そうなら何か合図して!」
「わかったっす!」
マウントゴーレムは強烈な攻撃が多いためダリルとの相性は悪いが、踏み潰されて溶岩に落とされたり、握り潰されたりしなければ受けられる。恐らくハンナの休憩時間を稼ぐくらいのことは出来るだろう。
アーミラとダリルの方はゴーレムの数がだんだんと減っているのであまり問題はなさそうだ。ゴーレムの数が十体を切った場合は、ディニエルがストリームアローを打つ間に処理出来るためアーミラも攻撃に参加することになる。
ハンナはスピードが上がっていくマウントゴーレム相手に一人、大立ち回りをしている。マウントゴーレムの攻撃は避けつつ、自身で攻撃してヘイトを稼ぎながらタンクを務める。ダメージを与えながら引き付けもこなせる避けタンクの理想的な立ち回りだ。
非常に安定したPTの立ち回りでマウントゴーレムを削っていく。しかしマウントゴーレムの熱線が辺りに飛び交うため、気を配っていないと中々危険だ。
実際にゴーレム集団を相手にしているアーミラは一度腕にかすり、支援回復をするため距離が近い努は避けられずに当たってしまった。
(よし、問題ないな)
しかし努はボルセイヤーの宝箱からドロップする灼岩のローブを着ているおかげで、熱線は無効化出来る。なので熱線を気にせずにハンナから離れず支援できるため、ヘイストを切らすことはない。
ハンナもヘイストが切れなければマウントゴーレムに捕まることはない。ハンナは気づけばヘイストとメディックをもらい、楽しそうに連撃を加えていく。するとディニエルの鏑矢が飛んできて合図を送ってきたため、ハンナはすぐに離脱の準備をし始める。
そしてディニエルがストリームアローを射ってマウントゴーレムの体力を削っていく。それを何度か繰り返していると、フライで浮かんでいる努の方にディニエルの鏑矢が飛んできた。
努は支援回復に気を配りながらディニエルの方に近寄ると、彼女は青ポーションの入った瓶から口を離した。
「多分ハンナ疲れてる。そろそろ変えた方がいい」
「え? そう?」
努から見ればハンナの動きはまだ鈍っていないし、顔に疲れも見えずむしろ楽しそうである。まだまだ戦えるだろうと努は思っていたが、ディニエルが静かに首を振った。
「合図に対して反応が悪い。そろそろバテてくる頃だと思う」
「……なるほど、わかった。じゃあダリルに一旦代えさせよう」
火山階層で長く練習に付き合わされたディニエルは、ハンナの疲れる兆候をよく知っている。努は彼女の提案を受け入れると青ポーションを追加で渡した後、ダリルの元へ向かいタンク交代を告げた。
「ダリル。ハンナとタンク交代だ」
「はい。わかりました」
ダリルは努の言葉に頷くと、マウントゴーレムの方へ槍のように研ぎ澄まされたコンバットクライを放った。それにウォーリアーハウルやシールドスロウを使ってどんどんとヘイトを稼いでいく。
純粋なスキルでのヘイト取りは重騎士であるダリルの方が上だ。なので青ポーションを使えばダリルは苦労することなくハンナからヘイトを取れる。
努はそろそろダリルがマウントゴーレムのヘイトを取れると感じると、青ポーションを飲んでいる彼の背後に回って氷魔石を補給しながら話しかける。
「掴まれたり溶岩に落とされなければある程度は耐えられる。最悪死んでもすぐ蘇生出来るから、気楽にね」
「はい!」
「よし、いってこい」
氷魔石の補充を終えた努はダリルの背中を押してマウントゴーレムの方に向かわせた。フライで近づいていったダリルは一番ヘイトの稼げるタウントスイングを使い、ハンナから視線を外させる。
「ハンナ! 一旦戻ってきて! アーミラは少し休憩していいよ!」
努の拡声器を使った指示にハンナは全力で飛んでくると、すぐに彼の前へ到着した。その顔は遊び場を取られた子供のようにむくれている。
「師匠! あたしまだまだいけるっすよ!」
「ディニエルストップかかったから駄目だよ。休みな」
「……ちぇ」
ハンナはまだ物足りないのか、マウントゴーレムに蹴り飛ばされているダリルを見て不満げな顔をしている。彼はハンナと違い地上からスロウゴーレムに岩も投げられているが、冷静に大盾で受け止めて防いでいた。
努はダリルに回復スキルを送った後に、塩飴や冷えた水を渡してハンナを休ませる。彼女は塩飴を口の中で転がしながら、後ろに熱線が向かわないように位置取ってマウントゴーレムの攻撃を受けているダリルをじっと見ている。
ダリルはハンナのようにマウントゴーレムの攻撃を全て避けることは出来ない。いくつかは避けられるが何回かは必ず当たってしまう。
しかし高いVITがあるので盾でしっかりと受ければ深い傷は負わない。熱線もドーレン工房で作成した鎧のおかげで多少は受けることが出来る。
ダリルは垂れているものの聴力は高い犬耳でモンスターの動きを察知し、広い視野で後ろに気を配りながらタンクを受け持つことが上手い。そのためハンナがタンクをしていた時よりも熱線が飛んでくることが少なかった。
「自信を持ちなよ。ハンナがいなきゃマウントゴーレムは倒せないんだからさ」
「……なんすか、いきなり」
「いや、ダリルの方がタンク上手いっすねぇ……とか思ってそうな顔してたからさ?」
「師匠、物真似下手っすね」
「…………」
口調しか似ていない物真似にハンナは真顔でそう返すと、努は言葉を失ったような顔をした。その表情を見たハンナはぷっと吹き出した。
「あっはっは! 師匠のそんな顔初めて見たっす!」
「……じゃあ僕は戻るから」
「ちょ、師匠、拗ねないで下さいよ~」
背を向けて全員の支援回復を行い始めた努にハンナは近寄って彼の肩を揺らした。肩を揺らされながら努は全員の支援をかけ終わり、ダリルの様子を注視した後に振り返った。
「その調子なら問題なさそうだね」
「おっす! ダリルには負けないっす!」
「じゃあダリルのヘイトが無くなった後は、キリキリ働いてもらおうか」
「……もしかして師匠、さっきのこと根に持ってるっすか?」
「死ぬまで覚えてるから」
「怖いっすよ!?」
「冗談だよ」
何処か裏のありそうな笑顔の努を見て、ハンナは思わず顔を引いた。そして努はダリルにヘイトを稼ぐことを止めるように指示をしてしばらくした後、動きたくてうずうずしている様子のハンナを送り出した。
攻撃を行いダリルからヘイトを取り返したハンナは、引き続きマウントゴーレムを引き付ける。ダリルは周りにいるゴーレムのヘイトを受け持った後、ボロボロに壊れた鎧を着ながら帰って来た。
「アーミラ! 下の奴頼む!」
「おう!」
ダリルが全てのヘイトを受け持っている間アーミラは休憩していたので、気力を漲らせてゴーレムの相手をし始める。努はフライで飛んで帰って来たダリルの重鎧を外して地面に落とすと、マジックバッグから新しい鎧を出して彼に着せた。
「凄い勿体無いですね……。せっかくドーレンさんが作ってくれたのに」
「あれだけボロボロになったら本望じゃない? よいしょっと。ヘイスト、プロテク」
予備の鎧をダリルに着せ終わり問題がないことを確認すると、努は支援を行き渡らせて定位置に戻る。その後は動きが最初とはまるで違うマウントゴーレムを注意深く観察しながら、支援回復に務めた。
――▽▽――
またスキルコンボを最初から溜め、カウントバスターの威力を高めているハンナと、マウントゴーレムの攻撃に参加したアーミラを努が眺めていると、遂にマウントゴーレムが必殺技と言える攻撃の前兆を見せ始めた。ハンナの方を向いていた赤目が上向いたのだ。
「範囲攻撃来るよ! 三人は全速力で離脱! ダリルはこっち集まって!」
マウントゴーレムの範囲攻撃はとても強力で、火竜のブレスを耐える赤糸の火装束でも防げない。にもかかわらず攻撃範囲が広く準備時間も三十秒ほどしかないため、AGIがB以上ないと範囲外に逃げることが難しい。
この範囲攻撃には他のクランも手を焼いていて、アルドレットクロウは対策装備を作って瀕死になりながら何とか潜り抜け、シルバービーストはロレーナが兎人の特性で足が速いため、範囲攻撃から離脱してヘイト稼ぎを抑えて死んだ仲間を蘇生して凌いでいる。
無限の輪はディニエル、ハンナのAGIなら範囲外に逃れられ、アーミラも大剣を捨てれば逃げられる。しかしAGIの低い努とダリルはどうしても逃げられない。何も対策していないと二人が確実に死んで蘇生も出来なくなるため、ほぼ攻略は不可能となる。
ヘイストを受けた女性三人はすぐに離脱を始める。努はダリルと一緒に出来るだけ離れて下にいるゴーレムを引き離した後、灼岩のローブを広げてダリルに手招きした。
「それじゃあ丸まって」
「汗臭いですね」
「入れてやんないぞ」
「それは狡くないですか?」
少し汗に濡れた灼岩のローブの匂いをわざわざ嗅いでそう言ったダリルに、努はにべもなく言い返す。いつもの意趣返しをしたかったダリルはつまらなそうに眉を下げた後、膝を抱えて身体を丸めて努の懐に入った。
ダリルの重鎧は熱線対策もしてあるが、アルドレットクロウが対策装備を作っても完全には防げずVITの低いステファニーは瀕死寸前に追い込まれていた。なので念のため努は丸まったダリルを灼岩のローブで包みつつ、マウントゴーレムの攻撃を待った。
そして赤い目を上向かせて熱線を凝縮していたマウントゴーレムは、それを解放した。マウントゴーレムを中心に熱波が広がり、下にいるゴーレムたちは燃え崩れていく。
灼岩のローブをお互いに掴んで縮こまっている努とダリルにも熱波が襲いかかり、風で煽られる。フライで浮かんでいる二人はそれに耐え、風が止んでしばらくすると努はゆっくりと手を離した。
「よし、大丈夫みたいだね」
「うわぁ……」
努は安心したように息を吐き、ダリルはドロドロに溶けている一帯を見て恐ろしそうに口を押さえている。熱波を発したマウントゴーレムも燃えたぎるように真っ赤な身体になり、もうゴーレムは生み出さなくなった。
遠くに離れていた三人と合流するとハンナとアーミラはその光景に驚いていて、ディニエルは興味深そうに眺めていた。マウントゴーレムはまるで動力が切れたように項垂れて動かない。あの攻撃を撃った後は反動で少しの間あのような状態になる。しかし二回目の熱波を放つ時はもうあのように止まることはなくなる。これが最後の休憩するタイミングだ。
努は皆に水や塩飴、お菓子を配って休憩させながら話す。
「取り敢えず、ここまでは来れたね。もうゴーレムは出ないから、後はマウントゴーレムだけだ。動きが段違いに速いし、確認されてない行動もあるかもしれない。ハンナは警戒してね」
「了解っす」
「もう足場はほとんど使えないと思った方がいい。ディニエル以外は全員フライを使用すること。ディニエルは氷矢で足場確保しても構わないからね」
「うん」
一応地面に水や氷矢を放てば足場は確保出来るが、コストがかかるため他のクランはほとんどしていなかった。ディニエルはフライを使いながら矢を射ることも当然出来るが、やはり地面に立って射る方が命中率は良い。
「アーミラは龍化使ってもいいけど、無理しないこと。ダリルはハンナのサポートよろしく」
「あぁ」
「はい!」
「よし、そんなもんかな。ここを越えられたら七十階層も突破だ。頑張ろう」
「おっす!」
「おー」
ハンナが元気に返事をして、ディニエルがやる気なさげに片拳を上げる。するとマウントゴーレムがまるでマラソン選手のように腕を振って走ってきたので、努たちは散開した。
ディニエルは地表のあちこちに氷矢を射って足場を確保し始め、ハンナはマウントゴーレムのヘイトを取る。真っ赤になっている身体は先ほどより打撃が通りやすくなっているが、発せられる熱で近づきにくくなるため遠距離属性攻撃が欲しいところである。
更にマウントゴーレムの素早さはもう尋常ではない速さになっている。全力で羽虫を潰そうとする人間と動きはさほど変わらない。ハンナは先ほどよりも更に速い攻撃に冷や汗を流しながら攻撃を避けていく。
ぶんぶんと腕を振る事に風圧がハンナに襲いかかるが、彼女はその風に逆らわず一旦後ろへ飛ばされる。そして追撃の熱線は背中の翼を駆使して機動を切り替えて避け、マウントゴーレムの頭上に迫る。
「フェザーダンス!」
背中の柔らかい羽根を散らして敵にまとわりつかせるスキルであるフェザーダンスを使い、ハンナはマウントゴーレムの視界を阻害する。これによってマウントゴーレムは正確な攻撃が出来なくなった。
シルバービーストでも鳥人が使用していたこのスキルはマウントゴーレムと相性がいい。ただしハンナは避けタンクで数々のスキルを使うため、精神力との兼ね合いであまり多用は出来ない。なのでこの終盤まで取っておいたのだ。
まとわりつく青い羽根を
マウントゴーレムは暴走するように熱線を辺りに振り撒いたが、皆冷静に避けていく。努は灼岩のローブを羽織っているため、万が一でも死ぬことはない。ダリルも何回か当たってしまっていたが、冷静に顔への直撃だけは防いで鎧で受けていく。
非常に順調な立ち上がり。マウントゴーレムの体力も既に三割を切っているため、この調子ならば倒せる。支援を行っている努の頭にそんな思いが過ぎった時、マウントゴーレムが突然両手を広げた。
今まで見たことのない行動に努は目を細めると、マウントゴーレムはそのまま身体を大の字にして地面から飛んだ。
「うわっ!」
のしかかるように飛んできたマウントゴーレムを見て、ハンナは空中を蹴るようにして後ろに逃れる。しかし轟音と共に巨体が倒れたことによる大きな風圧で、彼女はくるくると回転しながら吹き飛ばされた。
「うおおぉぉ!?」
近くにいたアーミラも潰されはしなかったが、衝撃と風圧で吹き飛ばされる。努はそこまで近づいていなかったため、顔に腕を当てて強風を防ぎながら地面にのしかかったマウントゴーレムを見ていた。
「無茶苦茶するなぁ……」
『ライブダンジョン!』でも神台でも見たことのない行動に努はそう漏らしながら、地に手を当ててすぐに起き上がったマウントゴーレムを見据える。その赤い身体の前面には黒岩や溶岩などがくっついていた。
「うおー! 行くっすよー!」
「あ、ちょっと」
ディニエルに受け止められていたハンナは、止める彼女の腕を払ってすぐにマウントゴーレムの方に向かう。早くしなければスキルコンボが途切れてしまい、また最初から溜めなければいけなくなるからだ。コンバットクライを放って近づいていくハンナに努も止まるよう声をかけたが、夢中で聞こえていない様子だった。
(岩が、吸い込まれてる? ……体力でも回復するのか?)
マウントゴーレムの前面にくっついていた黒岩などが、ずぶずぶと溶けるように沈み込んでいる。努は初めて見たその行動を推察していると、マウントゴーレムは胸を突き出して腕を目に交差して構えた。まるで気合溜めのような動作。
「全員退避! 何か来る!」
努が声を発してダリルの傍に寄った同時。マウントゴーレムは腕を開放するように振り下げた。その途端に身体の前面から散弾のように岩が射出された。巨大な岩や細かい岩がマウントゴーレムの前方を中心に襲いかかる。
「バリア!」
努は飛んできた巨大な岩を何とか避けた後にバリアを使い、細かい石を防ぐ。幸いにもそこまで岩の数はなく、努はバリアを使うことで無傷だった。
近くにいたダリルもバリアで岩の弾丸を防がれて無傷。努はすぐに上空へ上がって状況を確認。風圧で飛ばされて遠くにいたディニエルとアーミラは細かい石に当たっただけなのか、軽傷のようだ。
しかしマウントゴーレムのヘイトを稼ぎに向かっていったハンナの姿はない。あるのは上空に立ち上っていく光の粒子だけだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます