【超長編】クレイジーブーツと魔眼の男

ふろたん/月海 香

第一章

プロローグ

 男は月を写した銀の瞳で星を見上げていた。

肌を切りつける鋭い寒さが芝を撫でていく。小さな花がちらほらと咲き始めたその時期に現れるには、男は不自然なほど軽装だった。銀糸で彩られた星と月の紋様が滑らかな白いローブの縁を飾り立てている。聖職者を思わせる白い一枚着の腰元は剣帯で区切られ、濃灰色の革には月光を切り取ったような大振りの剣が一つ巻き付けられていた。

月の瞳を持つ剣士がミルキーウェイを見上げていると、同じような白いローブに白い一枚着の女性が丘の向こうから姿を現した。


 彼らの間に言葉があったのは三千年も前の話。星の明滅を読み、これから起こる未来を脳に描きながら星を見上げる彼らを、人々はいつしか暁星ぎょうせいの民と呼んだ。


 月の瞳の剣士と違って女性の白いローブは控えめに銀糸で彩られ、素足は石ころや野草で傷付きながらも血や痣はなかった。剣士は女性に気付くとジャリ、と小石混じりの土を濃灰色のブーツで踏みしめた。

女性と剣士は言葉を用いず意思を通わせた。星の動きが確かならば剣士はここから南にある町ナッツヒールを目指さなければならない。剣士は薄灰色の瞳の乙女と頷き合うと南へ向かって歩き出した。二人の姿はそのまま、丘の向こうへ消えた。

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