1章-1 ビビオは欲しい物を手に入れる

ビビオはキューブをつまんでキラキラとした瞳で透かし見た。


「好きな物語の概要とタイトルを記録しておけばこのキューブは自分の好きな物だけ集めた小さな図書館になりますよ」

「はあ、本当に本が好きなんだな。俺だって嫌いじゃないがそんなことするほどじゃない」


肩をすくめたガランは購入品を妖精に確認してもらい、支払いを図書館に請求するようにしていた。


「これも図書館に請求をしていいですか?」

「うーん、これを経費として落としてもらえるか?」

「経費にしてもらえるようにします。呼び出されたら言いくるめる言い訳を考えています」

「お前、なかなか強欲だな」


ビビオも会計を済ませると、ガランはミルに交渉をしているところだった。


「今回の仕事は新人もいるから、ちょっとついてきてくんねえかな。とりあえず1週間で100000Cでどうだ?」

「いいわよぉ~わたしが快適な旅にして見せるわぁ」

「ミルさんにもついてきてもらうんですか?」

「ミルは旅の間、家事や雑用を引き受けてくれるんだよ。これが快適でなぁ、費用は自費になるから痛いんだが初めての部署に初めての外勤なんてハードだからな、少しでも楽をしようや」


これはガランからのおごりということらしい。ありがたくたかることにしたビビオは、ガランに礼を言った。


「じゃあ明後日の早朝に図書館前庭の噴水まできてくれ」

「りょうかぁ~い」

「気を付けて行けよ」

「親方もミルがいない間無理すんなよ」


そういって、二人は店を出て行った。



買い物を終えた二人は一度部署に戻ってきた。

中にいる同僚たちはビビオが入ってきたときと変わらず自分のことに夢中になっており、ポプリなどは風にゆられて寝ている。


「室長、リブスタレオス連合国に新しい種族がでたという報告がありましたので調査に向かいます。今のところ調べて帰るだけだとは思いますが国内で軽い内紛のようなことがおきているようですので、場合によっては日数がかかります」

「わかった。バカみてぇなことしてバカするんじゃねえぞ。無理なら尻尾まいて帰れ」

「了解」


ロノアは嫌味のように言い、ちらりとビビオを見た。


「おい、お前」

「……?」


ポプリが仰向けに寝ながら風に揺られているのを見ていたビビオは、呼ばれてぼんやりとロノアに視線を向けた。


「お前、いったい何の能力をもっている?」

「……」

「この部屋に魔法の干渉をすることはほぼ不可能だ。不定期に風を起こすなどできるはずがない。なにをしたんだ」


それぞれ自分のことで忙しそうにしていた同僚たちが、息を詰めてこちらに意識を向けているのがビビオにはわかった。


「わたしの固有能力を話すことは特別機密事項となっています」

「なんだと?ちっ、お前は館長の下っ端かよ」

「館長からなにか指示をされているわけではないですが、固有能力の話は誰であってもしてはならないと。まあ館長に言われたことといえば『固有能力の話は内緒ね?』で終了しましたので、何をどこまで言ってはいけないのかはっきりとは命令されませんでしたが」

「嫌な言い回しをしやがるなクソ」


特別機密事項とは、おもに図書館の特殊任務についている司書や、絶対漏らすことのできない情報をもっている司書などに、機密情報を守ることを約束させ署名を行うものだ。

特別機密事項に該当するかどうかは通常会議により議論されるが、中央図書館長には独断で決定をする権利があるのだ。

館長直々の決定など早々ないため、にわかにビビオの能力の異質さが加速したのだが、当のビビオはまるでわかっていないかのような表情だった。


「なにがどう機密にかかわるのかわたしも判断できないのですが、ただ……」


ビビオは少し首をかしげてうつむいた。


「わたし自身も自分の固有能力がよくわかりません」

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