1章-1 仲間たちはビビオの異質さを知る

ビビオとガランが部屋から出て行ったあと、しん、と部屋の中が静まり返ったかと思うとマイラがくわっと目を見開いてロノアを振り向いた。


「室長!!わたくしたちの遊び場にいったいなにを招き入れましたの!!!!」

「うるせぇ、耳がつぶれるような声出すんじゃねえよ」

「おだまりなさいな!!ちょっとわけありの子を入れるとしか聞いておりませんわ。なにがちょっと?わたくしと蛾が二人で隙間なく編み上げた魔法に書き換えをするなんてちょっとなわけないでしょう!!」


ロノアに詰め寄るマイラの肩をぐいっとつかんで、ティティ―リアもずいっと顔を近づけた。


「このブスと同じこたぁ言いたくないけど、あたしも同意見だわ。あれは何?本当にただのエルフなの?伝説上でしか存在しないハイエフルっていわれても信じられるくらいよ」


ティティ―リアに同意するようにリデュエスもペンを動かしながら頷いた。


「彼女、僕の固有能力「家守」にも干渉してきたんだよ。固有能力へ魔法を干渉させることはできないはずだ、いったいどういうこと?彼女は僕の固有能力を伝えてるの?」

「「「固有能力の干渉!!??」」」


ロノア以外の面々がリデュエスに驚愕の表情を向けた。


「まったく気持ち悪いったらないね。彼女はあの風魔法の言葉を、二人の水魔法の言葉に割り込ませて組み込んだだけじゃなくて、僕の固有魔法に紐付けしたんだ。まず固有能力に気付かれるなんて思いもしなかったし、ましてやそこに干渉してくるなんて」


ぎょろっとした瞳がロノアに向けられた。


「いったいどういう経緯があって、ここで仕事させることになったんです?」


腕組みをして貧乏ゆすりをしていたロノアはがりがりと頭をかいて、不機嫌そうに彼女たちを睨みつけた。


「……知らん」

「はぁ?」

「俺もよく知らんと言ってる!」


ロノアはうんざいりとした顔をしてチッと舌打ちをすると足をがんっ、と机の上に置いた。


「移民層の分館長が上に掛け合ってるってのは知っていた。首席卒業の司書をくすぶらせていいはずがねぇってな。確かにそうだ、今までそんな優秀な奴が仕事もほとんどねぇ分館に行くなんて前代未聞だ」

「それで、やぁっと中央勤務になったと思ったらこんなとこにきちゃったのぉ?」


まだ風に揺られながら、ポプリが可愛らしい声で聞いた。


「ここに来るってことは訳ありだ、だが上はその訳を言いやがらねえ。ただわかっていることは、とんでもなく特殊な固有能力があるってことと、どうやら分館に飛ばしたりこんな屑籠みてぇなとこに配置したりしてんのは、希少すぎる能力を隠してるってのが見立てだ。俺らでさえも知ることができねぇくらいにな」

「つまり、凄い固有能力をもってるから大事に大事に囲っているってことですの?じゃあ外回りなんてさせたらダメではありませんか」

「ふん、知ったことかよ。ここを仕切ってんのは俺だ、重要なこと隠されて対策なんてとれるかよ。今まで随分甘やかされてきたみてぇだからな、ここいらで外走らせて鍛えてやんのも上司の仕事ってもんだ」


ロノアは底意地悪そうに笑った。


「まあ、上から指示も何もないのなら本人に直接聞いてみてもいいのでは?案外教えてくれるかもしれませんよ。ここに配属されたってことは一蓮托生なのだし、いずれ俺たちのことも知ってもらわないといけませんしね」


リデュエスが肩をすくめて言うと、ロノアは「それもそうだなぁ?」とぼやきながらパイプを吹かそうと机の端から持ち上げた。その瞬間にパイプはしゅぱっと半分に切り離された。


「ねーえ?どうしていっつもポプリがやめてって言ってるのにこんなもん吸おうとするのぉ?今度は指ごとちょん切って食べちゃうからねぇ?」

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