1章-1 ビビオは室内に風を呼び込む
ガランを待っている間、ビビオは部屋内の魔法をまじまじと見ていた。魔法を自慢したいマイラとティティ―リアはビビオをはさんでここぞとばかりに説明を始める。
「どうどう?葉脈までくっきり見えるでしょ。水魔法をこれほど精巧に操って幻を創り出すことができるのはあたしの力よ」
「なにをおっしゃっているの?触れる質感や踏みしめる感触を再現しているのはわたくしですのよ」
どこまでも張り合っている二人を後目に、ビビオは部屋の魔力の流れがこの部屋を守るように循環していることを感知した。本来魔法は放出されたら霧散するはずだ。だからこの部屋の幻もこれを創り出している人の魔力が切れたら消滅するはずである。
二人がもし一日中この魔法を維持するだけの魔力を持っていたとしても、循環をすることはない。
しかしこの環境を維持しているということは、そういう装置があるのか、誰かがそういう“能力”を持っているに他ならない。
多分、ヤモリさんだ、とビビオはあたりをつけたがそちらには目を向けない。
固有能力を持っている人は公開されない。なぜならとんでもなく有用で、もし敵に捕まればシュバニアルの大損失になる。一体誰がどんな固有能力をもっているのかわからないが、固有能力というものが存在し、そういったものをもっている人々がいるという事実はあるということくらいしか下っ端にはわかっていない。
もちろんシュバニアル以外の国にも固有能力が存在するようだが、やはり誰が使っているのかはわかっていない。
本来はこんなおおっぴらに固有能力は使わない。ここで使っているということは、魔力が循環していると感じ取れる人などいないからだ。
精巧な水魔法といい、ここはもしかしてただの地味で役立たずを寄せ集めた部署ではないのでは?と考えながら、この幻がさらに現実感をもたせるようビビオも魔法に手を加えることにした。
魔法を発動させるには特定の魔法の言葉が必要だが、視覚には見えず書くこともできない。頭に思い浮かべた言葉の型に、魔力を流し込んで魔法を発動させている。ビビオは杖を振って、自分の魔力を、すでに組みあがっている水魔法の言葉に風魔法の言葉を追加して魔力を刷り込ませた。
刷り込ませた言葉は、「部屋の中にランダムでそよ風が吹く」ようにし、恐らく固有能力によって循環している魔力の流れに紐づけをした。
「わぁ!なんかいい風吹いてるぅ。ポプリこういうの好き」
ぱたぱたと羽を動かして空中に浮かび風にのって飛ぶポプリ。マイラはあら、と眉をあげた。
「すでに細かく組んである水魔法によく後付けで風魔法を割り込ませるなんて、器用なことをなさいますのね」
「すでに組んであるほうが魔法を入れ込みやすいです」
軽く言っているがこんな器用なことができる司書などほぼいないだろう。しかし、ビビオとしては自分がやったことを見抜けるなんてやっぱり凄い人なんだと、自分のことは棚にあげて考えていた。
また周囲が沈黙をしていると、「よし、これくらいでいいだろう」と報告書を書いていたセオが立ち上がった。
「待たせたな、ビビオ。これから次の情報収集先について話を聞きに行くところがある。ついてきてくれ」
「承知しました」
これから仕事をしなければならない日々が始まるのか、と司書2年目にして悲嘆しながらガランのあとをついて部屋をでていった。
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