第59話 みそさざめの髪飾り
一同はのりこの失踪場所付近を捜索するも、手掛かりは掴めないまま。日の丸鉢巻部隊の行進も虚しく響く。
「これ以上の捜索は困難です。撤退しましょう」
夕日も沈み、羽馴の藪知らず周辺は不気味さを増している。警察の判断は的確なものだろう。
「嫌よ! のりこを置いていくなんて!!」
だが、京子はそれに猛反対。我が子を思う母の心情から出てしまう言葉といえば当然だろう。
「京子さん! 心配なのは分かるけど、今はのりこを信じるんだ」
感情を抑えきれない京子へ、良行は冷静に語りかける。良行とて、不安でないと言えば噓になる。今はただ、自身の感情を押し殺さねばならない。
「おねえちゃん......」
息子である良行は寂しい目で草むらを見つめる。後ろ髪を引かれる思いだが、父の判断が正しいという事実をどことなく理解しているようだ。
「のりこ、無事でいて......」
良行の言葉を京子もしぶしぶ了承。捜索とは、自身の安全確保を前提に考えなければならない。
――島長一家は帰路へ着く。重い空気の一同を、犬小屋からルナが心配そうに見つめていた。
「とにかく、今は腹を満たそう。『腹が減っては戦は出来ぬ』だ!」
良行はそういうが、京子は項垂れてしまってそれどころではない。空腹よりも、娘が心配で食事が喉を通らない。彼女にとって、それだけ娘の失踪は心が痛い。
「京子さん、何も食べないのは良くない。せめてこれだけでも口にして?」
良行がそんな彼女へ差し出したのはホットミルク。心が落ち着かない時のホットミルクの安心感は、古今東西変わらない。
「ありがとう......」
京子は伏し目がちでマグカップを手に取る。頭では理解していても、心が伴わない様子だ。
「おねえちゃん、大丈夫かなぁ......?」
姉ののりこが心配なのはりょうたも同じ。そんなつぶやきを飲み込むかのように、りょうたはマグカップに注がれたココアを口にする。
「はぁ......」
りょうたは深いため息をつく。こんな時、どんな顔をしたらいいのだろうか? 小学生になったばかりの彼がそんなことを理解できるはずもない。やるせない気持ちのりょうたは、漠然と上を見上げた。
「......あれ?」
その時、りょうたは何かに気付く。母の髪飾りが何かおかしいということに。りょうたは思わず母の髪飾りを指差す。
「おかあさん、髪飾りが何か変だよ?」
りょうたの指摘を受け、京子はその髪飾りを外してみる。髪飾りには
「おかしいわねぇ......壊れちゃったのかしら?」
京子がみそさざめの傾きを直そうと試みるが、すぐに元通り。これは一体どういうことだろうか?
「おかあさん、ちょっとそれ貸して!」
京子の手こずる様子を見て、りょうたは何を思ったのだろうか。彼はその髪飾りを持って外へ出て行ってしまった。
「りょうた、どこへ行くの!?」
彼の後を京子はすかさず追いかける。気のせいだろうか? りょうたの目が、どことなく期待に満ち溢れているように見える。
「おかあさん、分かったよ!」
髪飾りを手にしたりょうたの瞳には光が宿っている。そんな彼は、ある事実を伝えたそうだ。
「みそさざめが、きっとおねえちゃんの居場所を知っている気がする!」
髪飾りがのりこの居場所を知っている。だが、その言葉は京子にとって素っ頓狂にしか聞こえない。
「髪飾り。そういえば、これはのりことおそろいで買ったんだっけ......おそろい、まさか!?」
彼の伝えたい事実に京子も気が付いた。よくみると、髪飾りのみそさざめは何かを指し示すかのように特定の方向へ体を向けているのだ。もしその事実が正しければ、みそさざめはもう一つの髪飾りの在り処もといのりこの居場所を指し示していると仮定できる。
「もしそうだとしたら......こうしちゃいられない! のりこ、待っててね!!」
みそさざめに
「京子さん、どこいくの!?」
事情など知らない良行も京子に追走する。とにかく、善は急げだ!
「ルナ、一緒に行こう!!」
りょうたもそれに遅れまいと追従する。もちろんルナも一緒に。
『キュッ!』
彼の呼びかけに応じるようにルナは鼻を鳴らす。その表情は『待ってました!』と言わんばかり。
『ワンッ!! ピャーッ!!!』
どこからやってきたのか、ケンとハヤテも追従。勿論、気合十分だ!
「みんな、来てくれたんだね!」
のりこ探検隊の隊員集結に歓喜するりょうた。種族を越えて彼らの絆は固く結ばれているからこそ、仲間として集う。
「おねえちゃん、今行くからね!!」
月光が仄かに照らす夜、島長一家とのりこ探検隊連合はのりこ捜索に奮起する。果たして、のりこの運命や如何に......???
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