第50話 巻き添えになってさぁ大変!
時は昼休みに遡る。のりこはドッヂボールをしながら仲間と戯れていた。
「よぉし! 覚悟しなさい!!」
のりこはボールをキャッチし、相手チームへ攻撃を仕掛けようとしていた。その矢先、遠くから誰かがこちらへ猛烈な勢いで向かってくる。
「......えっ? 筋肉先生っ!!?」
それはどもんとたけるだった。そして、その背後から体育教師の肥瑠が猛進してくる。彼の目は血走っていて尋常な様子でなかった。
「うわぁっっっ!!」
のりこはボールを投げ捨ててその場から逃げ出す。理由はないが、のりこはどもん達と逃げることになってしまった。
「武士道とは死ぬことと見つけたり......」
一方、すべり台の上でこたろうは瞑想に耽っていた。その言葉の意味を、彼は未だに理解できずにいたようだ。
「......ん!? この気配は!」
背後から気配を感じたこたろうは目を見開く。すると、先程のどもん達がこちらへ逃げてくるではないか!?
「こたろう! そこを行かせてくれっ!!」
瞑想をしていたこたろうのことなど構わず、たけるが先陣を切ってすべり台へ登って来た。どもんとのりこが続き、その後ろから肥瑠が執拗に彼らを追いかけてくる。その様子にこたろうはタジタジとなり、巻き込まれるようにして逃げることとなってしまった。
「待てぇ! 敵どもぉっっっ!!!」
ムキムキタンクトップの大人が鬼の形相で追いかけてくる姿は、小学生にとって恐怖でしかない。そんな大人を見かけたら、誰だって思わず逃げ出してしまう。
「のりこ、これは一体どういうことなんですか!?」
突然の事態にこたろうはのりこへ尋ねる。彼が困惑するのも当然だろう。
「私だって知らないわよ! それはこの二人に聞いてちょうだい!!」
しかしながら、それはのりこも同じ。事の発端はどもんとたけるにあるのだから。
「俺はただ、どもんに足が臭いって因縁をつけられただけだ!」
当事者とはいえ、まさか茂みに肥瑠がいたなどたけるが知る由もない。困惑するのも仕方ないだろう。
「師匠は『逃げれば1つ、進めば2つ手に入る』と言って......」
この期に及んでなお、どもんは口上を宣っている。そもそも、逃げてしまっている時点で師匠の言葉も何もないのだが......。
『やかましいっ!!』
一同は思わずどもんへツッコミを入れてしまう。事の発端となった人物が無関心では、ツッコミが辛辣になるのも致し方ない。
「もうすぐ昼休みが終わる。このまま校舎へ逃げ込むわよ!!」
この状況下、冷静な判断が出来ているのはのりこだけだった。授業が始まってしまっては、いくら肥瑠といえど容易に手を出せない。一同はただひたすら校舎へ逃走を図る。
「ちっ、逃がしたか......!」
肥瑠は思わず舌打ちをする。彼らを取り逃がしたことが実に口惜しそうな様子だ。
――放課後、のりこはどもん・たける・こたろうに声を掛けて集会を開いていた。つまり、昼休みに肥瑠から目をつけられた面子である。
「これは死活問題。このままでは校門を突破できないわ......」
下校時の校門にはあの肥瑠が待ち構えている。まさに飛んで火に入る夏の虫、それが今ののりこ達の置かれた状況である。
「筋肉先生はいわば、この学校の門番。それを突破するのは容易ではありません」
その事実にこたろうも頭を抱える。校門を守ることは即ち、乾小学校の平和を守ることに直結する。それを長年守り続ける彼の功績は実に大きいのだ。
「そうだよな。アイツがいるおかげで、この学校の警備員が解雇されたくらいだしなぁ?」
たけるが語るように、肥瑠が赴任して以来この学校には不審者が現れていない。筋骨隆々なムキムキタンクトップが校門に待ち構えているとなると、たとえ不審者でなくてもしり込みしてしまうだろう。
「......大丈夫だ、問題ない」
しばらく沈黙していたどもんが開口した。果たして、その自信の源泉はどこにあるのか?
「どもん、あなたには何か策があるの??」
のりこは怪訝な顔でどもんに尋ねる。彼女は、どもんの自信の源泉を知りたかった。
「行けば分かるさ。止まるんじゃ、ねぇ――」
この期に及んでまさかの根性論。その一言がのりこの逆鱗に触れる。
「あんた馬鹿ぁ!? 根性論でどうにかなるわけないじゃない!!」
のりこのピコピコハンマーが牙を向き、どもんの言葉を遮る。のりこのハンマーがどもんの顔面に直撃し、彼は再び黙り込んだ。
「とにかく根性論では駄目! ここは今一度、各自の持ち味を活かすに限るわね」
元はと言えば巻き添えになった立場だったが、いつしかのりこが場を取り仕切っている。ここで早くものりこの持ち味が発揮された形だ。
「それは名案ですね! それならば、僕は明日香神風一刀流の継承者です!」
彼の名は明日香こたろう。戦国時代より伝わる秘剣・明日香神風一刀流を継承する剣道少年だ。その剣術はあまりに凶悪な殺人術で、数々の武将から畏怖されたほど。
「俺は、極東流空手の使い手だ!」
お馴染みのどもんは極東流空手の使い手。起源は不詳だが、東亜細亜が代々引き継いできた一撃必殺の殺人術である。
「ええと、俺は......」
二人の迫力にたけるは
「たけるは......足が臭いことね!」
のりこの辛辣な一言がたけるの心を抉る。穴があったら入りたい......それが今のたけるの心境に違いない。
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