第13話 DIYをやってみよう!
京子は帰宅後、買い出しの材料を工房へ預けるとまもなく夕食の準備へ移った。主婦は、家族が帰宅すると戦場のように慌ただしいが、彼女は涼しい顔で家事をこなす。
食事の支度を終えるとのりことりょうた、そして良行が次々と帰宅する。今宵の献立は、比較的手間が少ないカレーライスのようだ。
「そういえば、今日の買い出しでこれもらったの。おそらく、のりこの好きなものかも?」
京子は、昼間に店主からもらった例の特典をのりこへ手渡す。
「......これは、
のりこは思わず目が点になる。彼女は、無心にそれを開封する。
「やった! 伊達政宗だ!」
どうやら、彼女のお目当てのキャラクターだったようだ。R・O・Pもといロード・オブ・プレジデントとは、日本の戦国時代を題材にした漫画作品であり、原作は文恵の次女である√豆。
「ところで、明日はDIYやってみようと思うの。二人とも、興味ない?」
京子は、自分の趣味に子供達を引き込もうとしている。
「とりあえず、俺はゆっくりしたいなぁ」
良行は、空気を読まずに返事をする。京子は承知だと言わんばかりに、やや冷めた目で見る。
「でぃー、あい、わい? それっておいしいの?」
のりこにはDIYが見当つかずな様子。
「DIYだよ。つまり、自分で何か作ってみようってこと。」
りょうたはすぐに言葉の意味を理解したようだ。
「それで、何を作るの?」
彼はやや食い気味に京子へ尋ねる。
「今回は、ケンちゃんのおうちを作ります!!」
京子は、両手を広げて高らかに宣言した。
「ケンちゃんのおうち!? いいじゃない!」
のりこもようやく話を理解し、気分が高揚している。
「そうと決まれば、まずは設計図を描くわよ!」
その言葉に、のりことりょうたは大はしゃぎだ。
夕食後、京子は工房へ移動し、さっそく犬小屋の設計図の製作に着手する。
「今回は初めてだから、なるべくシンプルに......」
彼女の眼差しはいつも以上に真剣だ。
「......できた!」
ついに犬小屋の設計図が完成した。時計の針は、まもなく深夜に差し掛かろうとしている。
「いけない! そろそろシャワー浴びなきゃ!」
京子は明日に備えることにした。
翌日、京子は子供達と一緒に犬小屋作りに取り掛かる事にした。天候は晴天に恵まれ、屋外はまさにDIY日和である。
「さて、設計図に基づいて木材の切り出しから! 工具は危ないから注意してね」
京子は二人に作業を促す。
「それと、良行さんは子供達をきちんと見守ってあげてね?」
よくみると、良行の姿もそこにある。結局、一家総出でケンの犬小屋を作ることになった。いざ作業が始まると一家は言葉少なく、木材を挽く音だけが響く。その傍らにケンがやってきても、誰も気付かない。
「そろそろお昼ね。みんな、ご飯にしましょ?」
場の雰囲気を見て、京子が声を掛ける。
「うん。あとこれだけ切り出す」
りょうたは意気込みが違うようだった。
「あら、ケンちゃん来てたの?」
ケンの存在に、ようやくのりこが気付いた。
「ケンちゃんのおうち作ってるから、楽しみにしててね!」
のりこがケンの頭をそっと撫でた。
するとまもなく、京子が昼食を持ってきた。
「今日のお昼ご飯は、ロシアンおにぎりです!!」
ロシアンおにぎり、つまり食べてみるまで具が分からないということである。
「いただきますっ!!」
のりこはすかさずおにぎりを口にした。
「......っ! これはいちごみるく!!」
あれ以来、のりこはいちごみるくのおにぎりがえらく気に入っている。
「よかった、僕は鮭だった」
りょうたはいちごみるく以外のおにぎりを引き当てて安堵している。
「......辛いっ!!」
残念ながら、良行はわさび味のおにぎりを引き当ててしまったようだ。強烈な辛さが彼の口内を襲う。
「良行さん、面白い!」
京子は、その様子を無邪気な笑顔で見ていた。ちなみに、京子のおにぎりは昆布だった。
一家は昼食を終え、作業を再開する。材料の切り出しを終え、次に組み立ての工程に入る。相変わらず一家に言葉は少なく、釘を打ち付ける音が心地よく響く。ケンは、それを子守歌代わりに眠ってしまった。この一家、相当に作業へ没頭しているようだ。
各パーツが組み上がり、いよいよ一つに組み上げる。
「のりこ、りょうた。パーツをしっかり支えてね」
京子の指示に従い、子供達はパーツを支える。その間、京子は手際よく釘を次々と打ち付けていく。親子の阿吽の呼吸は見事で、パーツが接合されていくのは造作もなかった。接合されたパーツは、よく見る三角屋根の犬小屋を形成した。
「さて、ペンキを塗って仕上げね。のりこ! りょうた! 後は任せた!!」
京子は右拳の親指を突き立て、二人に塗装作業を託した。二人は、真剣な眼差しで犬小屋へペンキを塗りたくる。
そして、ついに真っ白に塗装された犬小屋が完成した。
「うん! 上出来!!」
京子は再び右拳の親指を突き立てた。
「犬小屋、出来たっ!」
のりことりょうたは、喜びを爆発させた。
「おねえちゃん、ペンキついてるよ!」
りょうたが笑いながらのりこを指差す。
「りょうたも、ほっぺにペンキついてるじゃない!」
のりこも、それにつられて笑ってしまった。
「みんな、アイスカフェオレ淹れたから一息つこう」
良行は、いつの間にかおやつの準備をしていた。こういうことに、彼は抜かりない。
「あーっ! カフェオレ美味しい!」
のりこは、カフェオレを一気に飲み干してしまった。作業に集中して、喉の渇きさえ忘れていたのだろう。
「このカフェオレ、キンキンに冷えてるわね!」
京子は、飲み屋のような言い回しで言った。
そんな一家をよそに、ケンが犬小屋へ興味を示した。最初は外壁の匂いを嗅ぎ、安全を確認する。安全と分かると、室内へ入っていく。よほど居心地が良かったのか、ケンは室内で丸まって眠ってしまった。
その様子に、りょうたが気付いた。
「ケン、気に入ってくれたんだね?」
りょうたは、満面の笑みを浮かべた。
翌日、のりこがふと犬小屋を覗いてみる。すると、そこには珍客の姿があった。
「......あれ、ルナちゃん?」
タヌキの来客に、ケンは少し物寂しそうな眼差しで犬小屋を見つめていた。
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