色んなお題を本番とは別にもう一度蹂躙したり、締め切りに間に合わなかったり、参加条件にハマらないヤツを勝手に書いたりする楽しい所
もと
私だけのヒーロー
おじいちゃんの
そこにあった石コロが小さな白い犬になってワンワンと走り回る。可愛い。私が出した手にピョンと飛び乗ってきた。
「ミチも出来る様になるよ」
「ホントに?! ねえ、次は鳥さんがいい、クジャクみたいな大きくてキレイなやつ!」
「ホイッとな」
「わあ! すごい、おじいちゃんの魔法、すっごいね!」
「これこれ、シーッだぞ?」
「ごめんなさい。シーッだね」
白い犬とクジャクを大切に手に乗せて、また机の引き出しにしまっておく。
今日だけでこんなに作ってもらっちゃった。小さな私の森、私の世界が出来ちゃった。
赤い実が付いた木の周りを羊と犬とブタが走り回る。クジャクは水辺で鹿とご挨拶してるみたいに頭を寄せ合ってる。仲良くしてね。
「おじいちゃん、
「ああ、もうそんな時間か。頼むよ」
「はい!」
晩ご飯を作る分と、お風呂を焚く分も運んでおこう。両手いっぱいにチクチクした薪を抱えてもニマニマしちゃう。
急に魔法使いだった事を教えてくれたおじいちゃんと遊びたい、もっと魔法を見せてもらいたい。楽しい時間が増えるように、お手伝いを沢山しよう。
「ミチ、塩をもう少し足そうか」
「はい!」
「ああ、それは砂糖だよ」
「わあ」
「大丈夫、まだ少ししか入ってない。隠し味だな」
「うふふ、ありがと」
今日はお料理まで教えてくれた。お皿も一緒に洗って、お風呂も一人で入った。
髪をとかしてベッドに横になると、黒い
「わあ、キレイ!」
「ミチは三日月が好きだったかな」
「うん、座れそうだから!」
「そうか、座れそうか」
木組みの隙間を埋めるように細い三日月がスルンと輝いた。
おやすみと撫でてくれる掌が大好き、この手が使う魔法はキレイで暖かくて最高だと思う。
……目が覚めたのは、激しくドアを叩く音のせい。夜が明けたのかな。おじいちゃんが開けたドアから白い霧が……。
「一人か? 記録では孫がいる事になっているが?」
「……孫は一月前に森で行方知れずになった」
「では連行する」
「……何の話かな?」
「お前が魔女だという噂がある。不治の病を治したり切れた腕を繋いだ記憶は?」
「……無い」
「それを裁判で明らかにせよ」
……何を言ってるんだろう? おじいちゃんは魔女じゃない、男だもん。
起き上がろうとしても動けない。
(ミチ、逃げなさい。今は魔法で姿も声も消してやっている。この者達が家から離れたら出来るだけ遠くに行くんだよ)
「……なんで、おじいちゃんも逃げよう? 裁判なんて怖いよ?」
(もうこの世界に魔女は居ないと、みんなの前でそれを証明しなければ止まらないんだ。おじいちゃんが最後の魔法使いなんだよ。だから、おじいちゃんが居なくなれば魔女狩りも終わるだろう)
「……おじいちゃん」
(ミチ、すまない。大丈夫だからね)
「……おじいちゃん!」
もう星空も三日月も無くなった黒い天井を見つめる。私が出来る事は……おじいちゃんが用意してくれた薪を運んで、火をおこして、ご飯を少し作れて、後片付けも少し、お風呂と、髪を……。
おじいちゃん、私は逃げない、一緒がいい。
一人はイヤだよ。
魔法が解けた体で跳ね起きて、パジャマのまま外へ飛び出す。
もう日は高く昇って、小鳥が飛んで、森はいつも通り輝くからその中を走る。
裁判は村長さんの家だ……それは終わっていると私の中で誰かが教えてくれた。
じゃあ広場だ、裁判の結果は村の広場で偉い人が……それももう終わってしまったよ、と誰かが囁く。
それでも走る。
だって煙が上がってる。
村の真ん中から、広場から大きな炎と煙が上がってるから。
それでも走ったんだ。
「……おじいちゃん……焼けちゃった……」
「そこまでだ!」
「私達が来たからには観念なさい!」
「何の罪も無い人をいたぶるとは、許すまじ!」
「三人揃って! 魔術戦隊、マージカラーズ!」
「……おじいちゃん……」
「少女よ! 泣くな、もう大丈夫だ!」
「……大丈夫じゃない」
「マジックであの偉そうで悪そうな奴らを
「いらない。おじいちゃんが居ない。もういい」
「えっとね、ここでキミは俺達に助けられて、俺達と一緒に悪を倒す旅に出るんだよ?」
「行かない。戦隊ならもっと早く来てよ、バカ」
大人が三人、困ってる。
でもそんなの知らない。おじいちゃんを助けてくれなかったから、知らない。
「我は王都から遣わされた聖騎士アーサーなり! この地にて魔女狩りがあると聞く! 笑止千万! そのような愚行、見逃す訳には……」
「おじいちゃんが生きてるうちに来てよ!」
「な、なんと正論?!」
「聖騎士のバカ!」
また大人を困らせた。もうどうにでもなれ。
「少女よ、涙を拭いて顔を上げよ。私は隣国の第一王子マルコフだ。そなたを迎えに……」
「おじいちゃんが居るうちに迎えに来てよ、バカ!」
「ジュワッ!」
「今から三分で何するの、バカ!」
「ミチ! 実は幼なじみだったルイスだ! パパもママも待ってるウチにおいで、一緒に……」
「誰だバカ!」
「変身!」
「バイクは危ない、バカ!」
みんな勝手だ、私も勝手だ。
みんなおじいちゃんを助けてくれないバカで、私もおじいちゃんを助けられないバカなんだ。
「みんなバー……!」
「ミチ? バカバカと酷いよ? そんな言葉を使ってはいけない」
また新しい大人が来た。
今度は黒い翼に黒い手袋、その手で口をふさがれた。
「むー!」
「ミチのお祖父様は、最後にして最強の魔法使いだ。もう既に転生している。一緒に迎えに行こう」
「……む?」
「俺はお祖父様に魔法を教わり、自分の世界に帰っていたんだ。今日、この日のミチの為にこの世界に再び来た。お祖父様に頼まれていたからね」
「むん?」
「行こう」
この人も勝手だ。私の返事も聞かないでバサッと飛び立つ。
地上からは悪魔だ魔王だと弓や鉛の弾が追ってくる。ひとつも当たらないのは、おじいちゃんが教えた魔法の力のおかげなんだって。
「ミチ、俺が怖いか?」
「ううん、怖くない。おじいちゃんに会えるんでしょ?」
「ああ。お祖父様は人では無い物に転生したから少し驚かせてしまうかな。もう会えているよ」
「え?! どこ?!」
黒い翼の人は、ソッと人差し指を天に向けた。
……太陽、お日さま……それは、私が子供だからって、そんなの……。
「……おじいちゃんが、そう言えって?」
「怒ったかな?」
「怒ってないよ」
「転生しているのは本当だよ。どう探そうかと思案中だ」
「魔法で探せないの?」
「そんなに便利じゃないよ。そうだな……お祖父様の血を引いたミチなら探せるかも知れない」
「じゃあ、私に魔法を教えて?」
「……うん、いいよ」
山奥や島を転々としながら、私は翼の人から魔法を習った。
魔力があるにはある、でも少なくて弱いからと翼の人は自分の魔力を渡しながら教えてくれた。
「井戸を使う時に呼び水を使うだろう? 俺の魔力はそういう意味でミチに渡している」
「それもおじいちゃんに言われたの?」
「お祖父様は俺にそうやって教えてくれたんだよ」
「ふうん」
ご飯を食べるのも、眠るのも一緒。
魔法は教えてくれるのに、名前は教えてくれない変な人。でも、この人が一番おじいちゃんと私の事を考えてくれてるのだけは分かる。
そしてある日突然、初めては逆さまだったけど空中に浮けるようになってからは魔法をモリモリ覚えた。おじいちゃんみたいに小さな石コロを猫に変えたりも出来るようになった。
「私、探せるかな?」
「ミチがこれだけ思っているんだ。きっと……」
「あ! 分かったよ、おじいちゃん見つけたよ!」
「そうか、急だね」
「ねえ飛んで! あっち!」
「分かった」
大きな黒い翼を広げてもらって抱えられた時に、ふと気付いた。裁判は終わったと教えてくれたあの不思議な声は、私を抱えてるこの人だったと。
先におじいちゃんの所にいたんだ……助けようとしてくれてたのかな。
別の世界から来たと言ってた。そんな大変な事をして駆け付けてくれてたんだ。おじいちゃんの裁判には本当にただ間に合わなかったのかも知れない。
「ねえ、アナタは……あ! 分かった、あそこ!」
「なるほど」
ピッタリ私が
おじいちゃん見付けた。
私と同じぐらいの大きさの青い卵だ。この中にいる。
「これはドラゴンの卵だね」
「おじいちゃん、ドラゴンになったの?!」
「そうみたいだ。頑張ったね、偉かったよ、ミチ。さあ、触れてごらん? もう割れそうだから」
「うん!」
ペタリと掌を置いた所から、ヒビがクモの巣みたいに一気に入った。
メキッと中から顔を出したのは、青いドラゴン。澄んだ湖みたいに青くて青い、キレイなドラゴンだ。
「……ミチ?」
「おじいちゃん! お帰りなさい!」
「ああ、ただいま。よく見付けてくれたね? 何がどうなっている?」
「あのね、この人が……」
いない、いなくなってる、どこにも居なかった。
殻を抜けるお手伝いをしながら、おじいちゃんに黒い翼の人の話を聞いてもらう。
誰よりも私とおじいちゃんの事を考えてくれてた、どんなヒーローよりもキチンと私を救ってくれた人だったと。
「……ミチ、それはきっとミチのお父さんだ」
「え?」
「お母さんとそのお腹の中にいたミチを魔女狩りから守り、この世界で死んでしまった。だから、きっと……黄泉の国から凄い力を使ってミチを助けに来てくれたんだよ」
「……お父さん……お父さんの名前は?」
「ロード。とても身分のある人で……いや、ただただ今でもお母さんとミチを大切に思っていてくれたんだろうね」
お父さん……なんで言ってくれなかったんだろう?
悪い言葉を言ったら口をふさいで、魔法を教えてくれて、一緒に眠ったのに……お父さんだったなら、もっと話したい事もあったのに!
グッと見上げても青空と眩しい太陽。黒い翼の欠片も無い。
おじいちゃんは青い翼の背中に私を乗せて、空高く飛んでくれた。
太陽に私を近付けるように、私を見せるように、そこにお父さんがいるように、しばらく飛んでくれた。
おわり。
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