第六十六話 ピストルの用途

 ラブラブしてるように見せた俺たちに、フィティーは「相変わらず仲がいいね」と1言笑いながら言ってきた。誰にだってそう見える関係って、やっぱりこの世界を生きる上で重要なことだな。


 ルミウが散歩に出掛けたことにより、これで本当のマンツーマンレッスンの始まりだ。雑用を任せたのは後でルミウにまとめてボコされるとして、今は今に集中しよう。


 「もう1つ質問してもいい?」


 「何でもどうぞー」


 扉を閉め、くるっとフィティーを向くとすぐに問われる。


 「イオナ様がした質問って何人が殺意を向けてるかってことも言ってたでしょ?その言い方なら複数居るような言い方に聞こえたけど、他に居たの?」


 それもそうだよな、と、自分の質問を思い返す。しかし、それは間違いでもない。確かにあの時、フィティーに殺意を微かながら向けていた人間が、ルミウを除いて1人いたから。


 屋上でも窓の外でもなく、この王城内のどこからか。位置はサウンドコレクトを使わなければ正確なものは掴めない。それにそいつも中々賢いのか、ほんの一瞬の殺意を向けると何かに気付いたかのように消えてなくなった。


 嫌な予感するって……ここでも何か問題起こるのか?やめてくれよなー。


 だから、それが何だったのか掴むためにルミウは俺たちに散歩と偽り調査に向かった。辛辣だったのも、面倒が増えたことに対するイラつきがあったからだろう。


 絶対にそうだ。絶対に。決して俺にガチでイラッとしたからではない。何度も言うが絶対にぃ!


 「あぁー、それはな……俺だ」


 俺はいい言い訳が思いつかなかったのでそれっぽい嘘を付く。嘘を見破るほど長けた気派を操れるフィティーではないので、そこは心配してない。


 「ピストルは向けてなかったが殺意は薄く送ってたぞ。それに、フィティーの反応を見て、ホントに気派を扱えないって確信も持つためにな」


 痛がる演技、やられる演技には自信がある。その道のプロでもあるからな。でも嘘はつきなれてない。そこまで言い訳を考えるほど困ったこともない。


 今の不明瞭な殺意は俺たちでどうにかするとしよう。フィティーにもしもがあれば、あのおデブ国王に喚かれるだけじゃ済まなそうだ。


 「そうなんだ。それも分からなかったよ」


 「そうじゃなきゃ、やり甲斐生まれないからな」


 「そう?」


 「見下される弟子が成長していく様子を見るのも、師匠側としては意外と微笑ましいことだぞ」


 「へぇー、私もいつかそっち側になれるといいな」


 「フィティーなら4年後、美人剣士としてこの王国の第1座に堂々と座ってると思うぞ」


 「ふふっ、どうだろうね」


 4年より早い可能性もあるが、御影の地にどれだけ足を止められるか分からない。それに、1度入ると出られないと言われる場所に行こうとするのだから、フィティーが神傑剣士になることすら曖昧でしかない。


 しかし、死ぬことを想定して御影の地へ行こうとする剣士がいるわけない。


 もう生きて帰ってくる未来しか見てない俺は恐怖心なんてどこかへ行ってしまった。それに、1度入ったからと言って熟知するまで帰らないなんてことはない。少しでもいい情報を得たのなら、それだけでも帰国することだって考えている。


 「それじゃ続きといこうか。次は俺がこのピストルに俺自身の還を流し込む。それをフィティーの心臓目掛けて打ち込むから、その流を感じ取るんだ。まぁ、自然と感じ取るようにはなるが、それは感覚だけだから、しっかりと体全体に巡る還を掴んでくれ」


 「うん。やるだけやってみるよ」


 ピストルを使うのは溜めた気派を瞬発的に体全体へと巡らせるためだ。俺の腕や空気を通して伝えると、気派を上手く扱えない人にはそもそも受け取ることが出来ないこともある。なので強制的に受け止めさせる。


 「心臓に空気圧として詰まるような感覚が起こるが、一瞬だけで害はないから、落ち着いてれば大丈夫だ」


 「了解」


 「いくぞ。3.2.1」


 ドンッと空砲が打たれる。カチャッと弾切れ時の音が響き、王城内に響くこともない。


 「――っ!!」


 背中から打ち込まれた気派は、フィティーの背中を強く押した。思わず仰け反るが、すぐに態勢を整える。しかし若干苦しそうだ。くっ!と、激しく体中を巡る俺の気派に抵抗するような声を出す。


 「これが……気派の還……」


 「馴染むのに後20秒は必要だ。それまで意識を保ってくれ」


 他人の気派は受け付けないのが基本。しかしそれを調節出来る俺は例外の人間だ。これまた特異体質かと思われるが、実はそんなこともない。俺は、調節出来るほど繊細なコントロールが可能ってだけだ。


 全部自分自身の努力の成果だ。


 「……はぁ……はぁ……何だか……掴めてきた気が……する」


 「いいぞ、そのまま後3秒。2、1、はい終了」


 肩に手を載せ、俺の気派を回収する。


 「っはぁ!……長かった……」


 「お疲れだな。良く耐えた、流石は、気持ちが固まってるだけある」


 「まぁね」


 「どうだった?どこからどこまで流れて、心臓に近付けば近付くほど濃くなるのは感じれたか?」


 「完全には掴めてないけど……感覚はいい感じかも」


 「たった1回の打ち込みで、俺の気派と同調させて感覚を掴むって相当な技量だぞ」


 「私、天才らしいから」


 うん。まじで天才だと思うわ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る