第二十五話 未来視

 「おい、たった片足なくなったからって叫ぶなよ」


 ブサイクで聞くに堪えない悲鳴をあげる。誰も広場を見ないのは虚空の範囲外にいるから。虚空は内外を遮断されるからな。


 「貴様……良くも……」


 「おっと、させないよ」


 フィートの刀を手から振り払う。もう手に込める力も残ってないだろう。止血に集中したほうが生きれると思うんだがな。


 「お前を今ここで殺したいのは山々なんだが、捕らえないと困ることだらけだから特別にまだ生かしておく」


 国務でも無ければ今ごろ片足ではなく首と胴体が切り離されていただろう。クソッ、こうもスカッとしない国務なんてやってられないな。


 暗殺だったが理由が変わった。フィートからはできるだけのことを聞き出して殺さなければ、結局この場に来たのは国務を遂行しただけでプロムとは何も繋げることができないことになる。


 あぁ!なんで人殺しをまだ殺しちゃだめなんだよ!


 落ち着かない気持ちには発散が大切だ。内に抑えるより吐き出してまた溜め込めるようにする方が効率的で動きやすい。


 「フィート、お前を王都に連行する。その間に俺にできるだけのことを話せばまだ生きれる可能性はある。さぁ、俺の質問に答えるか?」


 なんてな、お前に生き残る道は残されてねぇよ。


 「答えるわけが……ないだろ……『我らは滅ぼす。何があっても』」


 聞き覚えのある言葉だ。確か捕まったプロムが全員口を揃えて……。はっ!


 「待て!!」


 そう、俺が声を荒げた時にはもうフィートはこの世にいなかった。首から大量の血が流れ出る。見ていていい気分ではない。


 そして首には鮮血とともに、短刀が刺さっていた。


 「クソッ!なんで気づかなかった!」


 自害。捕らえられたプロムは例外なく自害していったという。短刀で首を切り、それが不可能なら舌を自ら噛んで。目の前にいるのがプロムならどれだけ猛者だろうとプロム。役目は同じであり果たすのが当然。


 後悔しても何も変わらない。俺はこの場でミスを犯した。


 それもこの先重要なことに繋がるはずだった人間を。


 あーもうこれだから頭が悪い俺に任せたらダメなんだよな。


 ルミウが来ていれば絶対にこんなことにはならなかった。そう思えば思うほど神傑剣士として未熟さを感じる。不甲斐ない。


 死んでしまったのはもうどうしようもない。俺に残された国務は死体を担いで王都へ戻ることだけ。暗殺としての任務は遂行されたが、プロムから情報を聞き出すという国務は失敗に終わった。


 どんな顔して戻ればいいことやら。


 フィートを担ぎ、暗闇に紛れながら夜遅く王都へ向かった。


 ――王都、王城の会議室に着いたのが深夜の23時半。まだ日は跨いでいなかった。そんな普通なら寝ている時間帯でもルミウ・ワンは書物を読み込んでいた。


 「ただいまルミウ」


 「早かったじゃない。もう始末してきたんだね」


 「ああ、それなんだけどさ……プロムの重要人物だったみたいで自害させたんだが……」


 「……そうか、それは仕方ない」


 「ホントに申し訳ない。生かしていればルミウを楽にできたのに」


 「いいや、私は君に暗殺を頼んだ。だから殺すのが当たり前。まだフィート男爵をプロムだと見抜けなかった私の落ち度だから気にしないでいいよ」


 あー好き。こんなこと言われたら好きにならないやついる?


 いやいや、そんなことはどうでもよく、お咎めなしの時点で俺に更に申し訳ない気持ちが溢れる。ルミウに落ち度なんてなかったのに、それを俺のせいで感じさせてしまった。


 「そんなことはない。次は必ず生かして捕らえる。だから何か俺にできる仕事をくれ」


 尻ぬぐいなんて生易しいものではないけれど、必死に動くことはルミウのためにもそして王国のためにもなる。だからこそ自分の時間を有効活用するべきだ。


 「ふふっ、そう言われるのを待ってたよ。それに君にやってもらいたいことも、もう決めてあるよ」


 「マジかよ。未来視持ってる?」


 「持ってたりして?なーんてね」


 ルミウが冗談を言う時は決まって良いことが起こる。更にその時笑っていればなおさら良いことが。不思議なことだが、神に決められたことのように的中する。まさに女神だな。


 それにしても冗談を言えば可愛いし言わないときはカッコいいし、もう顔面にマイナスがなさ過ぎる。羨ましいものだ、俺も同い年の子にカッコいいとか騒がれたい。性格もめちゃくちゃいいしな。


 え、俺と同じ人間ですか?


 「それで?やってもらいたいこととは?」


 「君に調査は無理だからだいたいは同じことだよ」


 そう言って1枚の国務が記された紙を見せる。


 「ジェルド公爵の暗殺……え?!ジェルド公爵ってあのルーフの?!」


 「うん、そうだよ」


 ルーフの統制権を持つ、ルーフ最大の貴族であり、先のフィート男爵暗殺で少し触れたあの貴族のことだった。


 たまたまなのが不自然なくらいナイスなタイミングでの任務。


 「まさかだとは思うが、ジェルド公爵って……プロムだったりする?」


 「それも正解」


 でーすよねー!こんなのが偶然一致するわけないよな。


 「ってことはフィートの上にいるのがジェルド公爵?フィートを操っていたのがジェルド公爵ってこと?」


 「私が聞き出して調べた情報によるとそんな感じ。正確にはプロムの幹部ってとこかな」


 「幹部?」


 えぇ、絶対にフィートが幹部だと思ってたんだけどな。禁書を悪用したからとはいえあの剣技で幹部じゃないのは骨が折れそうだ。


 「うん。だからフィートも首謀者の名前は知らないと思うから殺してても生かしてても未来は変わらなかったってことだね」


 「マジか」


 少しだけ楽になる。でもこれは結果論によって導き出された答えであって、もしフィートが幹部ならやらかしたことは動かない。


 これからもモチベーションは変わらない。常に意識しておくんだ。

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