彼女は私の私は彼女の『背中を押した』

しーちゃん

彼女は私の私は彼女の『背中を押した』

「ケータイばっかり触ってないで少しくらい手伝ってよ。」そう急に声をかけてきたのはママだった。「うるさいなぁ。」ため息をついて私はリビングから離れ2階の自分の部屋に入った。遠くで「全くもう。」とぶつぶつ言ってるママの声が聞こえる。「うざ。」苛立ちが抑えきれずそう呟いた。私はアプリを開く。『イライラする。誰か話聞いて』そうつぶやくとすぐにコメントがついた。『どした?』『なんでも聞くよ』『おいで?』優しい言葉。そんな中私のお気に入りの子がいる。最近仲良くなった女の子。所謂ネット友達。『さきちゃんどうしたの?』そのコメント見て少しニヤける。「やっぱりレミだな。」レミは控えめで文面だけでもふわふわしている可愛い女の子というイメージだった。仲良くなった私達はLINEもすぐに交換した。毎日やり取りをしていた。すぐにレミにLINEを送る。「ねぇ、聞いて!ママがうざい。」そう打つとすぐに既読がついた。『なんかあったの?また何か言われた?』「いやそういう訳じゃないけど、家の事手伝え〜とか、なんか全部イラつくの」そう言うと、既読にはなったものの、返信が来ない。5分たった。不安になる。あれ?私変なこと言ったかな?何度も読み返す。そうこうしてると、『ごめん、充電切れて充電してたw』そう、返事が来て安心した。「普通家なら充電するでしょ?w本当に鈍臭いw」『えぇーwひどいよーw』そんな会話を毎日何となくしていた。私はレミになら何でも話せる気がしていた。色んな話をするうちに、『私昔からドジだったから皆に嫌われてて』そう不意にレミからメッセージが来た。「え?レミのドジなとこ可愛いじゃん。」そう言うと、『そうかな?さきちゃんは虐められたりとかないの?』そう聞かれた。思い返してもイジメられたと思うことはなかった。「あー、ないない。wそんなタイプじゃないからねw」『さきちゃんは強いなぁ。凄いよ。』何だかレミが弱々しく感じた。励ましてあげたかった。「レミは虐められてたの?」そう聞くと。『うん。』すぐに返事が来た。そうだったんだ。当たり前だけど、レミの事何も知らないなぁと少し悲しくなった。「てか、嫌なやつ居たらやり返せばいいのに。」そう言うと、『そんな勇気ないよ〜』と言われた。レミは弱いんだと思った瞬間どうしてもレミに会いたくなった。そこで私はレミに「そうだ!レミ今度ガチで遊びに行かない?」そう言った。『え?リアルでってこと?』戸惑ってるレミも可愛くて頬が緩む。「そそ!ほら、オフ会とかあるじゃん?そんな感じ。もしリアルでレミの事悪くいう人がいるなら私が守ってあげる!」「いいね!会いたい!守ってあげるってwさきちゃん頼もしいw」そう言って2人で笑った。笑っていると思っていた。私が彼女の背中を押してあげたい。抱きしめて大丈夫って言ってあげたい。そう感じるほど、レミに特別な想いを抱いていた。そんなこんなで3日後の日曜日に会う約束をした。楽しみでずっとソワソワしていた。どんな服を着ていこうか。レミは本当はどんな子だろう。妄想が止まらなかった。前日の夜レミと初めて電話することにした。「もーしもし」「もしもし?さきちゃん?」「わ!レミだw」なんでもない会話が楽しかった。「明日楽しみだね!」「楽しみすぎる!マジ着ていく服どうしよう。」まだ会ったことの無い電話の向こうにいる彼女にドキドキしていた。新しい出会いに胸が高鳴っていた。。話せば話すほど緊張と楽しみが膨らんでいく。電話を切ってからもなかなか寝付けなかった。まるで遠足を待ち侘びる小学生のように私は浮き足立っていた。朝が来てメイクをする。髪を緩く巻いた。気合いを入れすぎてると思われたくないので、ゆったりとしたトレーナーにダメージジーンズを合わせて少しカジュアルな服で行くことにした。待ち合わせ時間より少し早く着いてしまった。「レミおーはよ!もう、着いてるから、着いたら教えて!」と送る。少ししてから『おはよ!後10分くらいで着く。ごめん、少し待ってて。』そう返事が来た。「大丈夫だよ!気をつけておいで!」そう言ってどう時間を潰すか考えていた。人気の少ない駅前の公園。階段を登り、とりあえずベンチに座ってみる。でも緊張のせいかソワソワして落ち着かなかった。10分が永遠のように長く感じる。まだかまだかとキョロキョロする。何度もLINEを確認する。「まだ3分しか経ってない。」そう言うとメッセージが届いた。『後1駅で着く!』そのメッセージに鼓動が高鳴る。すぐに「おけ!駅前の公園にいるよ!階段登ったベンチに座ってる!」と返信した。どんな服で来るだろう。どんな子なんだろ。あ、会うの初めてだし何て挨拶しよう。初めまして。は変だよね。でも、やっほー!とかフランク過ぎるかな?てか、私のことどう思うかな?やっぱり服ラフすぎだったかな?とか会う目前でまた色々なことが浮かぶ。あれやこれやと考えていると『着いた!どこだろ?』そうメッセージが届いた!「階段の前まで行くね!」と返信をして私はレミに分かるようにベンチを立ち階段の前に向かった。

すると不意に誰かが後ろにいる気がした。「さきちゃん。」その言葉が聞こえたと共に私は階段から転がり落ちていた。理解が出来なかった。「え。。。?なんで、、、」私は彼女の顔を見るなり朦朧とする意識の中で私は声を絞り出した。「レミ。」そう言うと意識を手放した。

目が覚めると病院のベッドに寝ていた。「さきちゃん!」そう叫ぶママの声がした。泣きそうな顔で「良かった。」と繰り返していた。「覚えてる?友達に会いにいくって出掛けたあの日、貴方ふらついて階段から落ちたらしいのよ。」そうママに教えられた。「え?ふらついて?」違う。あの時確かに。確かに私は誰かに背中を押された。

そんな動揺をママは気にもとめず話し続ける。「近くを通りかかった女の子が救急車呼んでくれたのよ。良かったわね。」そう言われた。

はっきりと確信したことがある。薄れゆく意識の中ではっきり見えた。階段の上に居た人物。私の背中を押したのは『レミ』だ。でも、レミがなんで私を。どうして。

その答えは、本当は分かっていた。いや正確には彼女の顔を見て全てを理解した。レミは私をずっと恨んでいたんだ。だって、私はレミを意味もなく鈍臭いと馬鹿にし私の引き立て役として傍に置いていただけにすぎなかった。中学の頃同じクラスだった麗美は地味で真面目な女の子だった。でもドジな性格から周りに煙たがられていた。それをいいことに、色んな場面で麗美を馬鹿にし続けた。私たちにとっては『イジり』にすぎないと思い込み誰もやめなかった。むしろ、楽しんでいたし、その状況に私は満足していた。

それはきっとネットでも同じだったのかもしれない。自分の自尊心を保つためだけの道具にしていたのだ。どこかで理解していたことなのに気が付かないフリをしてきた。自分がとても惨めに感じた。小さな人間に思えた。どうして、取り返しのつかない状況になって人は大切な事に気づくのだろう。このまま気づかずにいられたら楽だったんだろうか。でも、気づかずまた恨みを買っていたかもしれないと思うと怖くなった。

私は変われるだろうか。この先、誰かを踏み台にしなくても立っていけるだろうか。不安になった。その時気がついた。ママは仕事着のままだった。恐らく病院に運ばれたと連絡が入るや否や、すぐに駆けつけてくれたのだろう。着替える時間すら惜しんで。そして、ずっと私の傍に居てくれてたのだろう。ママの手が微かにふるえていた。「ママ、ありがとう。ごめんね、心配かけて。」そう言うとニッコリ微笑んだママが言う。「貴方が無事ならそれでいいわ。」泣きそうになった。今までママにしてきた態度に罪悪感を覚えた。何度も『うざい』という言葉ぶつけ続けたことを酷く後悔した。「私いい子じゃないよね。」そう呟いた。するとママは私の手を握りしめ「そんな事ないわ。だって貴方は私の娘なんだもの。自慢の娘なんだもの。」そう言った。ママの手は今まで感じたことないくらい暖かかった。

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彼女は私の私は彼女の『背中を押した』 しーちゃん @Mototochigami

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