師匠と弟子と決闘――10

 ケニーとの模擬戦は、始業式のあと行われることになった。場所は学校の敷地内にある演習場だ。


 演習場は円形で、直径一キーロという巨大な建物だった。


 演習場を行う舞台には屋根がなく、すり鉢状になっている。くぼんだ場所、隆起りゅうきしている場所、斜面、段、がけなどがある、岩場を模した造りだ。


 始業式を終えた俺とセシリア、ケニーとルカは演習場に移動し、それぞれ指定された位置についた。ちなみに、相手側のスタート地点は互いに知らされていない。


「それでは、『ケニー=ホークヴァン・ルカ=スチュアート』ペアと、『セシリア=デュラム・イサム』ペアの模擬戦を開始します」


 演習場外周:南部に立つ教員が、模擬戦開始の合図を出した。


 この演習場は巨大な魔導具になっており、教員が立っている位置に設けられた台座に魔力を送ることで、術式を発動できるらしい。


 その術式は障壁魔法しょうへきまほう。一定以上のダメージに反応し、演習場のなかにいる者を守るものだ。


 この障壁魔法の発動が、脱落の印になる。


 参加者は障壁魔法が発動したら退場。両方が退場したらそのペアは敗北――それが模擬戦のルールだ。


「行くか、セシリア」

「はい!」


 まずは相手を探さねばならない。模擬戦開始と同時に、俺とセシリアは探索たんさくを開始した。


 俺は刀を、セシリアはセイバー・レイを手にし、周りを警戒しながら慎重しんちょうに進んでいく。


「……あの、イサム様」


 しばらく歩くと、隣のセシリアが話しかけてきた。見ると、セシリアは沈んだ表情をしている。


「いまさらになりますが、申し訳ありません」

「なにがだ?」

「ホークヴァン先輩とのいさかいに巻き込んでしまったことです」


 しょんぼりと、セシリアが肩をすぼめる。


「わたしがホークヴァン先輩の挑発に乗ってしまったせいで、なんの関係もないイサム様が巻きこまれてしまいました。なんとおびしたらいいか……」

「気にせずともいい」


 俺は首を横に振り、苦笑した。


「俺のほうこそすまぬ。波風なみかぜを立てぬようセシリアが我慢していたにもかかわらず、ケニーに詰め寄ってしまった」

「い、いえ! イサム様が謝る必要なんてありません! イサム様はわたしのために怒ってくれたんですから!」

「なら、セシリアも謝る必要はないな」

「ふぇ?」


 セシリアがポカンとする。


 俺はからっと明るい顔をした。


「セシリアも俺のために怒ってくれたのだろう? 俺が侮辱されて許せなかったのだろう? だから、ケニーの挑発に乗ってしまったのだろう?」

「あ……」

「ならば謝らずともいい。むしろ礼を言いたいくらいだ」


 セシリアは目をパチクリさせて、クスリと笑みをこぼす。


「そうですね。わたしも、イサム様が怒ってくれて嬉しかったです」

「うむ! 互いが互いのためを思って怒ったのだ」


「はい!」と頷くセシリアの表情は、晴れていた。悔いも迷いも消えていた。


 よかった。元気づけられたようだ。


 安堵あんどの息をつき、俺は気合きあいを入れ直す。


 あとは勝つだけだ。セシリアの実力を見せつけるだけだ。それにはまず、相手を知ることからだな。


 戦闘のほうに思考を戻しながら、俺はセシリアに尋ねる。


「セシリア。ケニーはどれほどの実力だ?」

「一言で表せば、天才です」


 俺と同じく顔つきを引き締め、セシリアが答えた。


「ホークヴァン先輩は、魔銃に加えて『魔精ませい』を二体も操れますから」

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