未来に飛ばされた剣聖、仲間の子孫を守るため無双する
虹元喜多朗
第一章
プロローグ
「ぐ……っ!?」
赤黒い鎖に拘束され、ロランは
「これは……なんだ!?」
「『
「儂の命と引き替えに、相手を時の
俺たちは絶句する。
『時縛大呪』を使った影響か、
「ただではやられんよ。貴様も道連れじゃ」
気味の悪い笑い声を上げながら、ラゴラボスは息絶えた。
これで魔王直属の大魔族『
なのに。
それなのに。
世界の希望が失われようとしている。
「こんなところで終わらせてたまるか!」
白い
「フィーア! リト!
「ええ!」
「言われなくてもっ!」
黒い三角帽子を被った、灰髪紫眼の
リトがリュックに両手を突っ込み、宝石でできた
「ありったけ投入だよ!」
リトが大量の護符をロランに向けて放り投げる。
放り投げられた護符はロランの前で止まり、宙に浮いたまま、純白の光を放った。
あれはリト特性の『
一八もの護符が効果を発揮するなか、フィーアが知的な
『我らを
ロランの周りに青白い光球が無数に浮かぶ。
解呪魔法『ディスペル』。
光球がグルグルと
護符と解呪魔法の
バチィッ!!
鎖から放たれた赤黒い稲妻によって弾き飛ばされた。
「そんな……っ!?」
「なんですって……っ!?」
リトとフィーアが目を
人類最高の技術者リトと、人類最高の魔法使いフィーア。そのふたりが解呪にあたり、それでも失敗したのだから無理もない。
このままではロランが消えてしまう。
俺たちは絶望に包まれた。
「いやです!!」
俺たちが立ち尽くすなか、
『聖女』マリー=イブリールが、ロランを解放しようと鎖をつかむ。
「あぐ……っ!!」
マリーが愛くるしい顔立ちを
それでもマリーはキッとまなじりを上げ、再び鎖へ手を伸ばす。
ロランが
「やめるんだ、マリー!!」
「やめ、ません……!!」
「このままでは、きみまで巻き込まれてしまうかもしれない!!」
「それでも、やめません……!」
顔を汗まみれにして、ボロボロと大粒の涙をこぼし、ゼェゼェと息を荒らげながら、マリーが
「ロランを連れてなんて……いかせません!!」
苦痛に耐えて鎖を握りしめ、マリーは時の魔将の
マリーの気高さが、俺の胸を打つ。
そうだな、マリー。
マリーの気高さが、俺に覚悟を決めさせる。
俺も同感だ、マリー。
俺は腰に
ロランを連れてなどいかせん。ロランは人類の光そのものなのだから。
なにより――
「お前に絶望は似合わん」
タンッ、と軽やかに地を蹴り、ロランへと駆けながら、俺は刀を上段に構えた。
「――――
全身全霊を込めた斬撃が、ロランを縛る鎖に
即座に俺はロランの腕をつかんだ。
「イサム!?」
「生きろ、ロラン」
目を見開くロランに、俺はニッと歯を見せる。
鎖が両断された瞬間、俺は力任せに腕を引いた。
俺に引っ張られ、ロランが鎖の
ロランと俺の位置が入れ替わり――自己修復した鎖が、俺の体に絡みついた。
鎖が俺の体を締め上げる。ギリリと奥歯を噛みしめ、全力で抵抗を
魔将が己の命と引き換えに発動させた呪いだ。『剣聖』こと俺の一撃で斬り裂くことはできたが、打ち消すのはやはり不可能だったらしい。
この状態では刀も振れん。手詰まりか。
これでいい。これでロランは助かる。希望は失われん。
「イサム……どうして……」
「お前がいなくては魔王の討伐などできん。それに、マリーが悲しむ」
ロランが息をのんだ。
ロランとマリーは
マリーの涙を見て、引き裂かれそうになっているふたりを目にして、どうして黙っていられようか?
ロランとマリーの仲を裂く者は、魔将であろうと、魔王であろうと、たとえ神であろうとも、この俺が許さん。
「……それはあなたも同じです」
マリーがグッと唇を引き結び、俺の体を縛る鎖につかみかかった。ロランにしたのと同じように。
赤黒い火花がマリーの手を焼く。
俺はギョッとした。
「マリー!?」
「イサムがいなくなってもダメなんです! あなたが消えたら悲しいんです!」
悲しみと切なさと
「わたしたちはずっと一緒にいた幼なじみじゃないですか!!」
ズキリと胸が痛んだ。
「そうだぞ、イサム! 僕たちは誰が欠けてもいけないんだ!!」
ロランもまた、マリーと同じように鎖をつかむ。
赤黒い火花に反発され、両手を
ああ……俺は恵まれているな。
絶体絶命の状況にもかかわらず、俺は喜びを覚えていた。
素晴らしい仲間に恵まれた。こんなに幸せなことはない。胸がすく思いだ。
「そう言ってくれるだけで充分だ」
ロランとマリーに微笑みかけ、俺はアレックスたちのほうに顔をやった。
「アレックス。俺がいなくなってからは、お前が
アレックスが痛ましげに
アレックスが涙を拭い、純白の盾を高々と掲げる。
「誓おう! 我が盾と誇りにかけて!」
「頼んだぞ」
続いて俺は、フィーアに目を送った。
「フィーア。ロランたちを、人々を、その
フィーアがまぶたを伏せ、血が滲むほど杖を握りしめ、なにかを諦めるように長く
「――任せなさい」
「ちょっと待ってよ! なに諦めてるのさ!」
アレックスとフィーアにリトが噛みつく。
「アレックスもフィーアもイサムがいなくなるって決めつけて! イサムもイサムだよ!
リトがリュックを下ろし、ガサゴソと
「待ってて! いますぐ助けてあげるから! あたしが、その呪いを解くアイテムを作ってあげるから!」
リトは天才だが、一〇代
だから認めたくないのだろう。俺を助ける方法がないことを。
『時縛大呪』は解けないと、本当は気づいているのだ。それでも諦めまいと
その強がりの、なんと
「いいのだ。リト」
「でも……でも……っ」
「俺はもう助からん。代わりにロランたちを助けてやってくれ。その技術は、魔王を倒すため、世界をよりよくするために使ってくれ、リト」
「う……うぅ……っ」
リトが崩れ落ち、大声で泣きはじめた。
最後に、俺はもう一度、ロランとマリーに顔を向けた。
広間にリトの泣き声が響くなか、ふたりはなおも諦めず、鎖を解こうと歯を食いしばっている。
鼻の奥がツンとした。
いかんな。俺まで泣いては皆が悲しむ。
天を
「ロラン、マリー」
ふたりが俺を見上げる。涙に濡れた瞳が俺を写す。
「幸せになってくれ」
直後、一層大きく火花が
鎖が明かりを放ちはじめる。自身と同じ、血ヘドのように赤黒い、
『時縛大呪』がいよいよ発動する。
仲間たちの姿が薄れていく。俺を呼ぶ声が遠ざかっていく。
恐怖が、
それ以上に誇らしかった。
仲間を守って
俺は笑った。
「さらばだ! 我が友たちよ!」
光が、色が、音が、失われた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。