明日の空

しーちゃん

明日の空

バタバタと蠢く街。何も変わらない飽き飽きとした日常の中で、何か楽しいことはないかと期待し、今日も何も無かったと落胆するそんな日々。

子供の頃は早くオトナになりたいとあんなに願っていたのに、いざ大人になるとこんなものかと、現実を受け止めざる得ない。思い描いてた大人になれなかったのか、そもそもあれは幻想だったのか分からないが、自分の理想とは程遠いと言う事実だけを嫌という程突きつけられる。「ただいま。」誰もいない家に1人つぶやく。ため息が零れた。帰るなりすぐベッドに身体を沈める。ケータイを開きネットに潜る。『死にたい。みんな嫌い』そんな投稿に目が止まった。「またかよ。」そう思いながら、『大丈夫?』とリプを送った。『全然盛れない!』そんな自撮り投稿、盛れないなら載せないでしょと嘲笑いながら、『可愛い!』と返事。全てお決まりのセリフ。今日も欲求と虚言の渦巻く世界を馬鹿にし私はこんな奴らと違うと言い聞かせながらもネットの世界から抜け出せずにいる。

ふと我に返り、自分がとても心の狭く性格の悪い人間に感じた。それでも、「こいつよりマシ。」「この人には勝てない。」と、勝手にカーストを決め、一喜一憂する。そんな時、メッセージが届いた。『ごめん。今度の休み遊びに行くの無理になった。』その文を見て苛立ちが込み上げた。

「なんで!?もう最悪。」何をそんなに怒る必要があるのか、何がそんなに悲しいのか自分でもよく分からない。ただ自分が独りぼっちの寂しく虚しい人間に思えてきて焦りが募った。

今度の土曜日に彼氏と遊びに行くことを計画していたのだが、予定が無くなり休みの日が空いてしまった。

元から予定がなければないで過ごせるのに、どうして『あったはず』の予定が消えただけでこんなに不安になるのだろ。でも無性に孤独を感じた。寂しくてたまらない。彼氏に大切にされていない、愛されていないという考えで埋め尽くされ不安が募る。そして、しばらくして「もういいや。この人とは続かない。」と切り捨ててしまう。

こんな感じで私は誰とも長く付き合えない。彼氏だけではなく友達とも長く続くことはそうそうない。『つらい。』そう投稿しケータイを閉じてお風呂に入った。部屋に戻るなりケータイを開く。投稿に数件コメントが付いていた。『どーした?話聞くよ?』そんな言葉たちに少し救われる。『大した事じゃないんだけど、今日、、、』そこまで打って文字を消し『大丈夫。ありがとう。』と打ち直した。さっきまで馬鹿にしていた奴らと自分は同じだと自己嫌悪に襲われる。何をしてるんだろ。私は何がしたいんだろ。分からない。無性に泣きたくなった。そんな時は特にネットを見ずには居られない。『辛いという人は逃げないで頑張ってる人』そんな投稿みて虫唾が走った。綺麗事ばっか。そんなので注目浴びるわけないじゃん。バカバカしい。次々と批判する言葉が頭の中を埋め尽くす。何も知らないのに『大丈夫』といい、無責任に『頑張れ』を押し付ける。偽善者ばっかりだと虚しくなる。気分転換を兼ねて私はケータイの電源を切りお茶を買いにコンビニに行くことにした。秋の夜はスウェット1枚では少し肌寒い。街の灯りのせいか都会の夜空はそれほど暗くない。星のない空に吸い込まれるように見つめていた。「風邪ひくよ?」と声が聞こえ、ビクッと肩が震えた。「ごめん。驚かせるつもりなかったんだけど」とクスクス笑いながら私に近づいてくる人影があった。カーディガンを羽織りマフラーを巻いた華奢な男だった。彼は「あー、こんな時間に知らない人に声かけられたら警戒するよね。」そう笑いながら話を続けた。「俺そこの家に住んでる箕島です。」「あ、どうも。」と警戒しながら無愛想に挨拶する。「なんですか?」この謎の状況から抜け出したくて話を切り出す。「いや、用はないんだけど、上見て止まってるから何見てるのか気になって」そう言い私が見ていた空を見ている。「あー、都会の夜空って星ないなって思ってただけでです。」適当に返事をする。「確かにね。でも割と都会の夜空も俺は好きなんだけどね」そう言われ少し不思議に思った。「変わってますね」そう言うと「そうかな?まぁ、でもよく言われる」そういう彼の顔は笑っていなかった。「まぁ、私も嫌いじゃないけど」と呟き「で、なんで都会の夜空好きなんですか?」と聞いてみる。「んー、なんでだろうね。なんかよく分からないけど落ち着くって感じかな」そのハッキリしない答えに何故か私も共感していた。どうして見ず知らずの人と道端で夜中に世間話をしているのか不思議に思いながら、この状況に多少なりとも居心地の良さを感じていた。「君はなんで嫌いじゃないの?」と聞かれて困った。理由なんてない。「なんとなく。」そう答えた。曖昧すぎる言葉だけど、1番しっくりきた。「寒っ。」身体の冷えを感じコンビニに行く途中だったことを思い出した。「あ、ごめん。長く引き止めちゃったね。」と言われ「私コンビニ行くから。」そう告げる。「あ、俺もコンビニ行くんだった。」そういうので一緒に行くことにした。コンビニに着くなり店内の温かさを感じた。そして温かいレモンティを手に取りレジに向かう。レモンティを店員に差し出すと後ろから手が伸びてきてレジにコーヒーを置いた。「え?」と声が零れる。戸惑ってる私をよそに彼がお支払いを済ませた。「え?あ、お金。」そう言うと「外に長く引き止めたお詫び」と返ってきた。「あ、ありがとう。」と言うと彼は少し満足そうに頷いた。それから私達は別れそれぞれの家に帰った。家に着くなりベッドに入る。さっきまでのイライラが嘘みたいに消えていることに驚きつつ、私は眠りについた。朝起き、いつも通り身支度をする。今日行けば明日は休みだと言い聞かせ少しダル重い体を動かす。寒くなるとベッドから出るのすら辛い。「はぁ。休みたい。」言葉にした途端、ズル休みの方法を頭の中で巡らせてしまう。何も変わらない日常がまた始まると思うと溜め息がまた零れる。別に虐められてるわけでもないし、大きな問題も特にない。何か特別楽しみな事もないが死にたくなるほど嫌なこともない。極々平凡な日常。何が不満の?と聞かれると私にも分からない。でも憂鬱なんだから仕方ない。そんな想いで1日が過ぎるのを待つ。帰り道ふと空を見た。不思議だ。夜空はあんなに地元と違うのに朝から夕方にかけての空は都会も田舎もない。同じ様な空だ。「また、空見てんの?」その声に直ぐに誰かは分かった。「どうも。」軽く挨拶し会釈をする。「何考えてたの?」と言い彼は空を見つめた。「同じだなって」そう答える。「同じ?」彼は不思議そうに私を見つめていた。「ほら、田舎と都会で夜空はあんなに違うのに、それ以外の空は同じなんだなって不思議に思って」そう答える。彼は少し意地悪そうに笑いながら「君変わってるね」と言った。何も答えず空を見つめ続ける私に「今日もコンビニ?」と彼が聞く。「そんなとこ。」と答える。コンビニに着くなり私は店内をフラフラと見て回る。本当はコンビニに用なんてない。何故かどうでもいい嘘をついてしまった。「あれ?何も買わないの?」そう聞かれ「あー、欲しいもの無かった」と困りながら答えた。1つ嘘をつくと嘘を重ねないといけなくなる。いや、どうでもいい嘘なんだけど、なんとなく罪悪感が押し寄せた。「お待たせ。はい、これ」と手渡されたのは温かいレモンティだった。「これ昨日買ってたから」という彼に「ありがとう。」と呟いた。彼は少し前を歩く。1歩1歩足を前に出す。歩くスピードを早め彼の前を歩いたらどうなるんだろう。びっくりするかな。いや、歩くのを止めた方がびっくりするかな?そもそも止まったことに気がついてくれるのかな。そんなことを考えていると、私の歩くスピードはかなり遅くなっていたのか、彼が振り返って止まった事に気がついた。「あ、ごめん。」そう言って小走りになる。「もう少しゆっくりしてから帰ろうか」そう言われ、彼を見る。彼の目線の先には公園があった。ベンチに座り日が沈む空を2人で眺めていた。「日が暮れるの早くなったね」沈黙を破るように彼が話した。「そう言えば名前聞いてなかった。」そう言われ確かに名乗ってないなぁって思った。「蒼井まな」と言うと「あおいまな」と彼は繰り返し「箕島宙」と言った。私も、「みのしまそら」と繰り返す。「なんか外で空を見てると自分って小さいなって思う。」突然彼が話し始め私は戸惑う。「別に不幸な訳じゃないんだけどね」少し困ったように笑う彼。「なんとなくわかる気がします。」と私が言うと「え?」と驚いたように私を見つめてくる。「別に嫌なことがある訳じゃないけど、楽しみなこともなくて、幸せぶってる人も不幸ぶってる人も見てると妙に苦しくなるっていうか、嫌になるって言うか」彼は黙って私の話を聞いていた。「綺麗なものばかり見てると自分が凄く醜いように感じて」言葉がつまる。こんな事誰にも言ったことなかったのに何故か彼になら話してもいいように思えた。「都会の空は綺麗じゃない?」そう聞かれて困った。「綺麗じゃないという虚しいというか。」そう答えると、「なるほどね」そう言って彼は「いい所連れてってあげる」といって立ち上がった。そして箕島さんの住むマンションの屋上についた。「ここがいい所?」そう聞くと彼は自慢げに微笑んで「まぁ、見てみな?」といって空見た。

空は星が少し見えるだけでやっぱり寂しい空だったが、街の灯りが綺麗に光っていた。私は思わず「綺麗」そう呟いた。彼は「確かに、星は少ししか見えないけど、綺麗な夜景が都会にはある。何を良いと思うかは人それぞれだけどね。イメージって厄介なもので1度認識すると偏見をもって見てしまう。全ては見方次第なんだけど、なかなか気が付かないもんなんだよね。」と言い夜景を一緒に見つめていた。しばらく黙って見ていたけど、やがて「そろそろ降りようか。体冷えるし」と彼が良いドアを開けた。彼のくれたレモンティは既に冷たくなっていた。私はそれを両手で握りしめ彼のマンションを後にした。家に帰りベッドに寝転んだ。そして、さっきまでの景色を思い出していた。「全ては見方次第か。」そう思いネットを開く。『今日も疲れた』『可愛くなりたい』いつもと変わらない皆の投稿。そっか。私はただ皆の投稿を不幸自慢や承認欲求の塊だと過剰に反応してたんだ。きっとあわよくば構って欲しいくらいの軽い気持ちで、皆そこまで深く考えてないのかもしれない。そんなふうに思うと、馬鹿にしてた事やカーストを決めてたことが一気にどうでもいい事に思えた。だからといって何か変わることはない。それでも、これからの何かにワクワクしている自分がいる。まずは明日、行ってみたかったカフェに行ってみよう。楽しい事なんて待ってても起きない。楽しい事見つけに出かけてみよう。そう思うと何故だか未来を変えられた気がした。

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