五人熟女と亡毒蛇 3

 養護教諭の福井ふくいは素手で『亡毒蛇もうどくへび』を掴み、咲哉さくやの腕から引き剥がしていた。

 巻き付かれてはいたものの、咲哉本人は亡毒蛇を触ることはできなかったのだ。

 保健室のパイプ椅子に座ったまま、咲哉は絆創膏を貼られた噛み痕を眺めている。

「福井先生は見えるうえ、触ることもできるんですね」

 と、咲哉は聞いてみた。

 流石さすが景都けいとも、目を丸くして頷いている。

「特技なのよ。幽霊も、素手で殴れちゃうの」

 と、福井は拳を見せる。それには咲哉も目を丸くした。

「幽霊も殴れちゃうんすか」

「幽霊に物理攻撃……」

「そうよ。もう少し、亡者の毒を食べて強くなった亡毒蛇なら、栃木君も触れたかもしれないわよ」

「あのヘビ、強くなるの?」

 景都が目をパチパチさせながら聞いた。

「前に見たやつは、もっと太くて長かったわ。そんなのに巻き付かれていたら、腕を折られてたかもね」

「俺は触られてるのに触れませんでした。太くて長い奴じゃなくて良かった」

 と、咲哉は左腕を曲げ伸ばししながら言っている。隣で景都も蒼ざめながら頷いている。

「亡毒蛇は、あのオバサンたちについて来たの?」

「んー、たぶんね。でも私はあんまり詳しくないのよ。昔から、気に入らないことは拳で解決してきちゃったから。詳しいことは不思議屋のお婆ちゃんに聞いてちょうだい」

 福井は景都の髪を撫でながら言った。

「福井先生、不思議屋に行ったことあるの?」

 景都に聞かれ、福井は頷いた。優しい笑みを見せ、

「似てると思ったけど、やっぱりそうよね。果絲かいとを見つけたの、あなたたちだったのね」

 と、言った。

香梨寺こうりんじの?」

「そう。果絲も私も見える性質たちだから、不思議屋のお婆ちゃんにはお世話になってたの。歳も近いからね。あなたたち3人組みたいに私と果絲と、もうひとり、子どものころは3人組で不思議屋の常連だったのよ」

「マジすか」

 流石と景都は目を丸くしたままだ。

 少々、記憶を探ってから咲哉は、

「じゃあ、先生がマドカさん?」

 と、聞いた。

「私の名前よ。福井真登香まどか

「先生の声、果絲さんのお葬式でギャン泣きしてる男の人をなだめながら、ナッシーに真登香さんって呼ばれてた人の声に似てるなとは思ってた」

「先生もお葬式に来てたんだね」

「ええ。その、ギャン泣きしてた奴と果絲と私が、あなたたちの前の3人組よ」

「前の3人組?」

 首を傾げる3人に、福井は、

「なんだか定期的に、不思議屋には3人組が居付くんですって。私たちの前は、香梨寺の住職と奥さんの絹笑きぬえさんと、もうひとり誰かの3人組だったのよ」

 と、話した。

「じゃあ、俺らが今の3人組なんだな」

「へー。なんか不思議だね」

 流石と景都が頷く横で、咲哉は、

「なんでだろうな」

 と、首を傾げている。

 福井は咲哉の頭も撫で、

「不思議の理由なんて考えていたら、頭痛くなっちゃうわよ」

 と、言った。

「まあ、確かに」

 そういう事にした。

 ジジジとスピーカーが音をたて、3時間目終了のチャイムが鳴った。

「具合はどう?」

 福井に聞かれ、

「僕は治った!」

「俺も」

 景都と咲哉が答えると、流石も、

「じゃあ、戻るか」

 と、立ち上がった。

「頑張って勉強してらっしゃい。困ったことがあったら、またいらっしゃいね」

「はーい」

 3人は元気に声を揃えた。

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