第18話 魔人の棲むダンジョン

 魔人の棲むダンジョンと言うこともあり、道中の魔物も強力なものが多い。

 当然のようにSランク魔物が現れるため、少しの油断が命を失うことにつながるだろう。


「そろそろ下層に入るな」


「ただでさえ強力な魔物が多いダンジョンだ。サザン、くれぐれも気を付けてくれよ」


 俺は探知魔法を紙にエンチャントし、随時確認しながらパーティの先頭を歩く。

 何かあっても瞬時に対処できるよう常に臨戦態勢であるため、みんなの消耗も大きかった。


「何か反応があるな。またSランクの魔物か?」


 俺は望遠魔法をエンチャントし確認する。

 反応の正体はどうやら以前倒したことのあるクイーンワームのようだ。


「クイーンワームがいる。ひとまず気付かれないように近づこう」


 俺たちは物音を立てないようにクイーンワームに近づいていく。どうやらあの時倒したものよりも幾分か大きいように見える。


「よし、身体能力強化をかけたらランと俺が前に出る。メルとリアは後方で詠唱とサポートを頼む」


「前から思ってたんだけど、一度にたくさんエンチャントするのはダメなの?」


「ああ、それか。エンチャントをかけすぎると本人に経験値が入りにくくなるみたいなんだよな」


 実際、最初の頃は彼女たちを守るためにエンチャントを多めに付与して戦っていたのだが、どうやらエンチャントをかければかけるほど彼女たちに入るはずの経験値が俺に入ってきてしまうようだ。

 彼女たちのレベルのためにも、最低限のエンチャントでなければならない。


 経験値と言う観点で言えば、即死付与にも問題がある。

 即死付与は自分のレベル以下を即死させることが出来るという恐ろしい性能ではあるが、その代償として経験値が一切入手できないのだ。こればかり使っていてはいつまでたっても強くはなれない。


「そうなんだ……」


「ああ、だから緊急事態の時以外は基本的に使わないかな」


「リアもサザンもなんで魔物の前でそんな話をしているのよ」


「そうだった。なんか集中力が切れてきてしまってな……」


「この戦いが終わったら一度休憩しよう?」


「賛成だ」


 さっさと終わらせるため、ランと俺はクイーンワームに気付かれていない内に背後に回り二人で同時に斬りこむ。

 俺は高レベルではあるが、物理的な攻撃力は低い。これはエンチャンターとしての補正が低いからでもある。しかし身体能力強化によって人並みの攻撃力を出すことは出来る。

 そして元から攻撃力の高いランは強化によってさらに強大な一撃を放つことが出来る。

 そのため、この攻撃でクイーンワームから移動能力を奪う程のダメージを与えることが出来るはずだった。

 

 だが、実際にはそうならずにクイーンワームは反撃を行ってきた。


「動けるのか!?」


「どういうことだ、確かに私とサザンで一撃入れたはず!」


 即座に旋回し突進してきたクイーンワームを間一髪で避ける。

 その移動速度も以前戦った個体よりも遥かに速い。


「速い……いったいどうなっているんだ」


「とにかく、一度態勢を立て直そう。ランは一度後方に下がってくれ」


 俺はランを後ろに下がらせ、閃光魔法を付与した石をクイーンワームの前に投げつける。

 それは見事にヤツの目の前で炸裂し、視界を奪うことに成功した。


「サザン、私が思うに魔人の活性化によって魔物自体の能力も上昇しているのではないか……?」


「ありえる話ではある。Sランク魔物が増えたのなら、魔物自体が強化されていてもおかしくはない」

 

 仮にそうだとすれば厄介だ。時間をかければかけるほど魔物の数も増えるし個体の能力も高くなっていくのだ。

 そうなればいつか地上はヤツらに蹂躙されてしまうだろう。もはや勇者パーティもあてに出来ないのだから。


「でも、勝ち目はあるのだろう?」


「ああ。あれに勝てないくらいでは魔人討伐なんて無理だろうからな」


 俺は作戦について皆に説明した。

 各々自身の役目について理解してくれたようで何よりだ。


「ではまず俺が出る。メルとリアは指定の位置で頼むぞ」


「わかったよ!」


「わかったわ」


 彼女たちの返事を聞き、俺はクイーンワームの前に躍り出た。

 クイーンワームの意識を極力こちらに向けるように挑発のエンチャントをかけている。また身体速度強化を多重にかけ、ヤツの速度よりも速く移動できるようにしている。


 クイーンワームは基本的に突進しか攻撃手段が無い。そのため移動能力を奪えばこっちのものだ。

 だからまずはヤツを拘束する必要がある。

 俺は走りながら拘束魔法を付与したトラップを設置していく。

 

「サザン! 準備できたわ!」


「よし! 今からそっちへ向かう!」


 準備が完了した旨を聞き、俺はクイーンワームを誘導しつつメルの方へ向かった。

 誘導されたクイーンワームはまんまと拘束魔法のトラップにはまる。そして身動きが出来なくなったところに、準備していたメルが大型魔法をいくつも撃ちこんでいく。炎が、冷気が、風が、ヤツの硬く厚い皮膚を容赦なく蹂躙しダメージを蓄積させる。


 通常はこれほど短い間隔で大型魔法を連発することは出来ない。

 だが、『詠唱共有』という俺が作った付与魔法をリアとメルにかけることで、リアがメルの代わりに詠唱を行うことが出来る。

 そして詠唱短縮も付与しておくことで、これほどの連発を可能にしているのだ。


「倒した……?」


「これだけ……打ち込めばね」


 魔力を使い果たしたメルは息も絶え絶えで今にも倒れそうである。

 だがそんな中、クイーンワームは再び動き始めた。


「復活した……!」


「やはりな!」


 ランは炎属性のエンチャントされたオリハルコンの剣でクイーンワームを両断する。使用後に反動が発生するが攻撃力を数十倍に高めることの出来る『重撃』を発動し、クイーンワームを一撃で葬ることを可能にしたのだ。


「ぐっ……」


「大丈夫か!」


「心配はいらない……少し動けなくなるだけだ……」


 ランはその場に崩れ落ちる。重撃の使用後は反動で動けなくなってしまうらしく、その一撃で戦闘を終わらせられる場合でないと危険な技である。


「やっぱりこのクイーンワームも蘇生スキルを持っていたんだね」


「ああ、今後出会う魔物は皆持っている可能性がある。一度倒しても油断しないようにしよう」


「ただでさえ能力が高い上に蘇生持ちか……中々大変な道のりになりそうだ」


 ランの言うことも尤もだ。蘇生スキルの保持だけではなく能力も高くなっているのだとすればもう出し惜しみはしていられない。将来的には経験値を優先した方が生存確率が上がるのだが、これほど危険な相手となってくると話は別になってくる。

 少なくとも、このダンジョン内においては経験値よりも安全面を重視した方が良いのかもしれない。

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