第17話 異常事態

 勇者パーティがファレルロと戦い活性化させてしまったことにより、各地で異常事態が起こり始めた。

 その地域に本来存在しないはずの魔物が現れるようになったり、高ランクの魔物が大量に出現するようになったのだ。


 この事態によっておおきな被害を被ることになった街や村も多い。

 それまでは村の腕自慢が戦いなんとかなっていたような小さな村などは、急に現れた高ランクの魔物に対処する術など持ち合わせていないのだから当然である。


 この状態を重く見たギルドは多額の報酬を設定し、震源地であるダンジョンの調査依頼を出したのだ。

 それにより判明した事実は魔人ファレルロの活性化。これにより各地の魔物が活性化してしまっていた。

 ギルドは続けて魔人ファレルロの討伐依頼を出した。


 ……しかし、勇者パーティですら敗北した魔人を相手に、まともに戦える冒険者などいなかった。

 つい、この間までは。





「サザン、この依頼……」


「これは……」


 メルが手渡してきたのは明らかに報酬がおかしい依頼。通常の相場に対して20倍近い報酬が設定されていた。

 だがこういう依頼には裏があるものだ。


「どうやら魔人の討伐らしいぞ」


「魔人……か」


 魔人は逸話として語り継がれている伝説上の魔物だ。とてつもない力を持ち、一体でも都市を複数壊滅させるだけの能力と危険性がある。

 そんな魔人が討伐対象だなんて、一体だれが倒せると言うのか。


「こういうのこそ、勇者パーティがどうにかするもんじゃないのかねぇ」


「それが、勇者パーティが倒せずに逃げてきたらしい」


「……は?」


 それこそもう誰が倒せるんだよ。勇者が倒せないのならもう打つ手なしでしょ。

 というかランを追放しておいてお前らも結局負けましたって救いようがねえな。


「でもこの依頼、討伐出来なくても受けるだけで色々な保証が付いてるみたいだよ?」


「本当だ。上質なアイテムと装備を一通り支給するって書いてある」


 ギルドがそこまでするということは、それだけことを急ぐ事態だと言うことである。

 少なくとも、ギルド側からそんなに物資を分け与えることなど全くと言っていい程無い。だから今魔人を討伐出来なければ未来は無いと言ってもいいくらいの切羽詰まった状況なんだろう。


「それに前線基地の無料利用か。至れり尽くせりだな」


「それだけ不味い状況ってことなんだろ」


 俺は依頼書を戻し、掲示板を離れた。


「行かないの?」


「逆に行く気だったのか? 一応俺たちはまだAランクパーティなんだぞ」


 こういうのはSランクパーティに任せよう。俺たちは背伸びせずにコツコツとちょっとずつ強くなっていけばそれでいいよ。


「でも、このままだと私たちの村周辺にも強力な魔物が現れるかも……」


「それはそうだが……」


 確かにリアの言う通りではある。エルフの村が襲われて俺たちの故郷が襲われないなんていう理屈が通るはずはない。

 今となってはどこだろうが平等に襲われる可能性があるということなのだ。


「実際のところどうなの。私たち勝てそう?」


「正直言うとわからない。魔人がどの程度なのかが未知数だからな」


 エルフの村の一件から魔物討伐を重ね、俺たちはさらにレベルを上げた。だがそれでも魔人にどこまで通用するかは未知数だ。何しろ魔人と戦ったなんていう記録事態ほとんど残っていないのだからな。せめて魔人がどの程度の強さなのかがわかれば対策のしようもあるのだが。


「あの、サザン様でしょうか?」


 背後から近づいていた受付嬢に声をかけられる。その様子はどこか後ろめたさを感じた。

 彼女の言おうとしていることはなんとなくわかる。数多くのSランク魔物を討伐してきた俺たちに魔人討伐を依頼したいのだろう。


「サザン様のパーティは数多くの結果を残しているとギルドでも有名で……。お願いします! どうか魔人の討伐に向かっていただけないでしょうか!」


 確かにこのまま魔人を野放しにしておけば被害が増え続けていくのは明白だ。だがそれでも、俺だけではなくパーティメンバーの彼女たちを危険に晒すわけには……。


 そう俺が悩んでいると、何かを察したメルが俺の目の前に立ちじっと見つめてくる。


「サザン、あなたがどう思っているのかはわからない。でも勘違いしないで欲しいのは、私たちは危険を承知で冒険者になったということ」


「そ、そうだよ! 私だって痛いのとか嫌だけど……それでも覚悟したうえで冒険者やってるんだよ!」


 メルに続いてリアもそう言い放った。


 彼女たちの言葉を聞き、気付かされた。そう、俺は彼女を守ることだけを考えていた。彼女たちが戦う力の無い一般人ならそれで良いだろう。だが彼女たちは冒険者だ。パーティメンバーとして互いに守り守られる存在でなければならない。

 俺は過保護になりすぎていたのだ。


「表情が変わったなサザン」


「ああ、メルたちの言葉に気付かされた。ランもメルもリアも俺にとって大事な存在だ。だがそれは庇護の対象では無く、同じパーティメンバーとしてなんだ。だから……共に戦ってくれるな?」


「元からそのつもりだよ」


「そうね、私も最初からそう思ってた」


「私もだよ!」


 彼女たちは皆俺の言葉に乗ってくれた。今まではどこかで彼女たちを信用していない部分があったのかもしれない。だがもう違う。彼女たちは信頼できる仲間なんだ。

 俺たちは一致団結して魔人を討伐して見せる。

 そしてなってやろうじゃないか。正義の味方と言うやつに……!

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