第13話 クイーンワーム

「女子供を優先して逃がすんだ! 戦える力のある者は武器を持って待機!!」


 エルフの村は大惨事と化していた。

 クイーンワームが現れたことにより、逃げてきたAランク級の魔物複数体が村を襲ってくるためだ。

 幸いエルフの村の精鋭兵は軒並みレベル40越えであり、Aランクの魔物であれば対処可能だ。


 だがそれも時間の問題である。


 いかに精鋭兵と言えどスタミナが無限にあるわけでは無い。時間が経つにつれ消費して行き、いつかは戦えなくなるだろう。その間もAランク級の魔物は増え続ける。このままではジリ貧になることは明らかだった。


「村長! これ以上は門が持ちませんよ!」


「ええい、なんとしてでも死守しろ! この村を失うわけにはいかんのだ……!!」


 門を守る精鋭兵も怪我やスタミナ切れによる欠員が目立ち始めている。

 実際、もう門が限界状態なのは誰もが理解していたことだろう。


 そんな中、逃げていく非戦闘員に狙いを付ける魔物が現れ始めた。

 戦える者のいない避難組は、もちろん魔物への対抗策など持っているはずも無い。彼らはとにかく逃げることしか出来ないため、知能の高い魔物はこちらの存在に気付くと優先的に狙い始めるのだ。


「や、やめて……死にたくない……」


 まだ幼いエルフの少女に魔物が鋭い牙で噛みつこうとした時、硬いもの同士がぶつかる甲高い音が辺りに響き渡った。


「……ラン?」


「ああ、ランだ。助けに来た……と言えば聞こえはいいが、残念だが私ではせいぜいAランクの魔物しか倒せない。クイーンワームが来ないことを祈るばかりだな」


 ランはオリハルコンの剣を巧みに操り、魔物を翻弄する。その姿は、勇者パーティを追放された者とは思えない程に洗練されていた。


「数が多いな……もしや、クイーンが近くにいるのか?」


「ラン! 後ろ!」


「くっ……!」


 少女の声に反応し間一髪で突進を避けるラン。あと一歩遅ければ胴体に大きな風穴があいていただろう。

 少女は幼いとは言えエルフ特有の目の良さをしっかり持っているため、クイーンワームの攻撃にも反応できたのだ。これが人間の少女であれば、どちらも今の一撃で終わっていた。


「やはり戦わないといけないか……」


 巨大な幼虫を前に、ランは改めて覚悟を決める。


「来い! こっちだ!」


 ランはクイーンワームの周りを走って自らを意識させ、少しでも村から遠ざけようとする。

 作戦通りクイーンワームはランを追いかけて行った。だが当然クイーンワームの方が移動速度が速いため、あっという間に追いつかれてしまう。

 

 クイーンワームの突進を避けたランは一旦視界から外れるために背後に回り、複数ある足を連続で斬りつける。クイーンワームの皮膚はとても硬く一度の斬撃で斬り落とすことは出来ないが、連続で斬りつければ少しずつダメージを負わせることは可能だ。

 しかし油断をすれば旋回したクイーンワームの突進をもろに受け、大ダメージを負うことになる。いかに大胆に、かつ慎重に付かず離れずの位置関係を保てるかが勝利のカギだった。


「足さえ斬り落とせれば、逃げる時間を稼ぐことは出来るはず……!」


 着実にダメージを蓄積させていくラン。だがそんな時、逃げていた避難組の幼いエルフが転んで膝を擦り剝いてしまった。

 若いエルフの血の臭いを嗅ぎつけたのか、クイーンワームはランのことはお構いなしに避難組の方へ向かう。


「させるかあぁぁっ!!」


 ランは持てる限りの力を振り絞って飛び込み、ギリギリでクイーンワームからエルフの少女をかばうことに成功した。

 しかし無理を承知でかばったため、自分自身は避けきることが出来なかった。両足に大怪我を負ってしまい、剣を杖代わりにして立ち上がろうとするも怪我の影響で立ち上がることが出来ない。

 そんな中クイーンワームは再度、ランの方を目掛けて突進を行う。


「ここで、終わりなのか……」


 すべてを諦めようとしたランの前に、どこからともなく一人の男が現れた。


「全く……一人で抱え込むなよ。俺たちは皆合わせて一つのパーティなんだからな」

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