第12話 迷い
俺たちは近場のギルドにいったん戻り、どうするか話し合うことにした。だがランの意思は固く、頑なに村へは戻らないと言う。
「本当に良いのか?」
「ああ。私が悪いことに変わりはない。それに私にはサザンたちがいる」
「でも……私たちとランじゃ寿命の差が……」
リアの言う通りだ。今はランには俺たちという存在がいるが、このままではいつか一人ぼっちになってしまう。
人とエルフでは寿命に差がありすぎるため、いつまでも一緒に居られるわけでは無い。いつか必ず俺たちと別れる時が来る。だがそうなった後、帰る場所や頼れる人が存在するかしないかでは大きく違うはずだ。
最悪、彼女自身が孤独に耐えられなくなり壊れてしまう恐れすらある。
「冒険者の皆さん! 緊急依頼です!!」
「緊急依頼……!?」
受付嬢があわただしく入って来たかと思ったら、既に壁に貼られている依頼書そっちのけで上から新しく依頼書を張った。明らかに異常な雰囲気だ。
「エルフの村周辺にSランクの魔物、クイーンワームが現れました! この近辺には本来Sランクの魔物は現れません……大きな被害が出る前にどうか討伐をお願いいたします!」
クイーンワームだって? 本来はダンジョンの奥深くにいるはずの魔物だ。それがなぜ地上の、しかも本来Sランクの魔物が出現しない場所に……。
何よりそこにはランの故郷、エルフの村がある。あの村の戦力では恐らくクイーンワームには勝てないだろう。
「お前、行くか?」
「報酬はうめえけどよ……クイーンワームっつったらSランク魔物の中でもかなり上位のヤツだろ? 俺たちじゃ勝てっこねえよ」
ギルド内の冒険者たちは皆、一度は依頼書を眺めに来る。しかし、その依頼を受けようとする者は一人もいなかった。無理もない。クイーンワームは本来Sランクパーティ複数で挑むものだ。生半可な実力では返り討ちに合うだけだろう。
この辺りは強くてもAランクまでの魔物しか出現してこなかった。そのためSランク以上の冒険者はこの辺りにはいないだろう。そうなれば、他の街からSランクの冒険者パーティがやってくるまで被害は増え続けることになる。
「ラン……どうするの?」
「私は……」
ランは悩んでいる。故郷を救いたい気持ちは確かにあるのだろう。しかし、自身を追放した者たちを救うことに抵抗感を持っているのもまた事実なのだ。
「ラン……自分のしたいようにしてくれ。俺はランの意思を尊重する。助けが必要であれば言ってくれて良いんだからな」
「ありがとう、サザン……。だが、私は過去と決別する。あの村には、きっと私は必要ない……。それに、クイーンワームを相手にそういったことを考えている余裕はきっとないだろうからな……」
「……そうか」
ランはきっと断腸の思いであっただろう。村には育ててくれた両親だっているはずだ。
だが忘れてはいけない。冒険者は所詮使い捨ての傭兵もどき……決して正義の味方などではないのだ。最終的に自らの命が大事だと言うのは大前提。そのうえで救えるものを救うんだ。
何もかもを救おうとする必要は無い。それがたとえ故郷であっても……。
◇
「サザン……やっぱり本当に良い人だよ君は」
私がクイーンワームの依頼を受けないと決めた時、君は複雑な表情を浮かべたな。きっと、私が頼れば君は喜んで力を貸してくれたのだろう。
でも、それでは駄目なんだ。村のことは私一人の手で解決しなければいけない。そうでないと片が付かないんだ……。
皆が寝静まった時間に、私は物音を立てないようにそっと宿を出た。
もしかしたらもう会うことは無いかもしれない。私の力ではきっとクイーンワームを村から引き離すので精一杯だ。生きて帰れる保証もない。
「ありがとう。そしてさようなら……メル……リア……サザン」
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