第21話 #ハル
10月にマキと別れてからは、勉強しかしてなかったと思う。
お店の方は、以前学校で倒れたせいで父にお店に立つことを禁止されてしまっていた。
学校と家を往復する毎日。
しかも、勉強しかしていないのに成績の方は下降し始めていた。
マキやお店での仕事が俺にとっては大事な存在だったんだと改めて認識させられ、益々気持ちは沈むが今更どうすることも出来なくて、ただ惰性で勉強しているような物だった。
そんな調子だから、成績だけじゃなく体調もなかなか戻らなかった。
吐き気や疲労感を頻繁に感じ、学校では保健室の常連になりつつあった。
片岡は相変わらず俺の事を気にかけてくれてて、学校で話したり家に帰ってからスマホでやり取りしてると、気が紛れて凄く助かっていた。
俺にとって弱音を零せる唯一の友達で恩人だ。
11月の中頃のある日の夜、サキさんと母が何やら慌ただしく騒ぎ出した。
マキと別れたことは俺の口からは家族には言っていなかったので、もしかしてそれに関係ある話かな?と思ってたら、母が俺の部屋に怒鳴り込んできた。
「ハル! 正直に言いなさい!」
「急に何?」
「あんた、マキちゃん妊娠したの知ってるの!」
「はぁ?」
「とぼけないの!あんたがマキちゃんを妊娠させたんでしょ!」
「俺じゃない!」
「ウソをつくな!」
「絶対に俺じゃない!!!」
母は怒鳴りながら、俺の顔面を殴りつけて来た。
いきなり殴られて頭に来たから大声で言い返した。
「俺じゃねーって言ってんだろ! マキと最後にエッチしたのなんて7月だ!それっきり何もしてねーぞ!それに俺は必ず避妊してた!嘘だと思うならマキに聞けよ! アイツは他の男と二股してたんだよ!俺は先月フラれたんだ!」
俺の話を聞いた母は、「ウソ、よね?」と真っ青な顔で聞いて来た。
「ウソじゃない。二股の話は片岡が教えてくれて、自分でも確かめに行った。 相手の男はマキの事を自分のカノジョだって言いふらしてる。 マキも俺と高校違うからバレないとでも思ってたんじゃねーの」
「ホントなの?」
「さっきからそう言ってるじゃん!」
「あんた相手のこと知ってるの?」
あらぬ疑い掛けられた挙句殴られたせいで興奮して思わず色々暴露してしまったが、本当ならマキが自分で言うべき話で、マキの許可なく他人の俺がベラベラ話すのは不味い気がしてきた。
「マキは何て言ってるの?」
「あの子は何も喋らないのよ」
「だったら、俺からはこれ以上は言えない」
「・・・・わかった。殴ってごめん」
「もういいよ。疑われてもしょうがないし」
「もう一回マキちゃんと話してくるわ」
「うん」
っていうか、マキのヤツ、妊娠とかマジでどうしちゃったんだよ。
そこまで須藤に狂ってたのかよ。
翌日、サキさんがマキを病院に連れて行くと、妊娠8週と診断されたと母が教えてくれた。
その日の夕方頃にサキさんがお店にやってきて、俺もお店に呼ばれた。
俺がお店に行った時には、暖簾を下げて臨時休業にしていた。
サキさんが言うには、マキが全部話したらしい。
高校の同級生である須藤に、遊びに誘われて行ったことが切っ掛けで脅されて体の関係を迫られて応じてしまったこと。
要求がエスカレートしていき、どうにもならなくなって、俺達家族に顔を会わせるのが辛くて、バイトをサボる様になったこと。
浮気のことが俺にバレるのが怖くて、俺に近づけなくなったこと。
夏休みが終わっても関係を強要され続けて、避妊もしてくれなくなったこと。
俺が体調を崩し始めたことや態度が変わって来たことから、俺にバレてるのでは無いかと怖くなって、別れることを選んだこと。
俺と別れて、全てが嫌になって家に閉じこもり始めたこと。
「ちょっと待ってよ・・・マキ、脅されてたの?」
「そうみたいね。 マキの話聞きながらスマホ確認したら、そういうやり取りがいくつもあったわ」
「そんな・・・なんで俺に言ってくれなかったの・・・・」
顔面から血の気が引いていくのが自分でも分かるくらい、目が回ってる様な感覚に陥った。
そんな俺を見て「ハル!お前がしっかりせんでどうする!」と祖父に怒鳴りながら思いっきり頭を
母とサキさんは、警察に通報するべきかどうかを相談し始めていた。
すると祖父は今度は二人に向かって「マキちゃん本人の気持ちをまず考えんか。 マキちゃんがどうしたいか聞こうや」と言って、店番に父を残してマキが居るアパートへ移動した。
入口まで来ると祖父から「マキちゃんがハルの顔見たら辛い思いするから、お前は部屋に入るな。ココで待っとれ」と言われ、言われた通り部屋の前で待っていた。
アパートの廊下で、体に力が入らずにへたり込んだ。
片岡にマキの二股の話を聞いた時よりも、そして須藤の家まで行って二人の様子を確認した時よりも、今日の話のがショックだった。
ショックという言葉じゃ生易しいくらい、キツイ。
あの日、公園でマキは、どんな気持ちで俺に別れ話をしたんだよ。
あの時、俺はマキに対してどんな態度をとってた?
大事な恋人が苦しんでいた時に気付いてやることが出来ずにのうのうと過ごして、挙句逆恨みしてたなんて、俺が一番クソヤローだった。
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