第20話 #マキ

※中絶に関する表現がありますので、苦手な方はこのエピソードは飛ばして下さい。





 次の日から学校へ行くのを止めた。


 スマホの電源を切って、一日中部屋に閉じこもって外へ出なかった。

 どうせスマホ代は自分で払えなくなってママに立て替えて貰ってたし、もうハル君から連絡が来なくなったスマホなんて何の意味も無かった。


 もっと早くこうすれば良かったと思ったりもしたけど、今更どうしようもないし、何も考えたくなかった。


 ママは怒らずに理由を聞いてくれたけど「もう学校に行きたくない」とだけ言うと、それ以上は聞いて来なかった。




 11月の中旬になると吐き気が酷くて、何度もキッチンの流しやトイレに駆け込むようになった。 夜中にママが居る時にもそれが治まらず、私の異変に気付いたママに問い詰められた。



「マキ、あなた妊娠してるんじゃないの?」


「わかんない・・・」


「調べてないの?」


「ずっと部屋から出てないし」


「わかった。ドラッグストア行って検査薬買ってくるからね」


 そう言ってママは服も着替えずに出かけて、直ぐに帰ってきた。




 ママから使い方を教えて貰ってトイレに行き検査すると、しばらくして陽性反応が出た。


 結果を確認したママは、直ぐに部屋から出て行き、ナツミさんを連れて戻って来た。

 ナツミさんも検査薬の陽性反応を確認すると、部屋から飛び出して行った。


 その間、ママは頭を押さえて辛そうな表情で黙って考え事をしている様だった。



 ナツミさんは出て行ってから30分か40分ほどで戻って来た。

 戻って来たナツミさんは、私の前に膝を着いてしゃがむと「マキちゃん、相手は誰なの?」と質問してきた。


 それを聞いたママは「どういうことなの? ハル君じゃないの???」とナツミさんに聞いた。


「うん。 今、ハルに確認してきたら、俺じゃないって否定してた。 ウソつくなって怒鳴りつけて殴りつけても、絶対に違うって否定するから、あんた以外に相手いないのにどういうことよ!って聞いたら、マキちゃんと最後にセックスしたのは7月で、それまでも必ず避妊してたって言うの。 それにマキちゃんは既に他の男と付き合ってて、自分は二股されて先月フラれたって。 ハルは相手の名前知ってるみたいだけど、マキちゃんが自分で言わないなら俺からも言えないって言おうとしないのよ」



 やっぱり、ハル君にバレてた。


 ハル君に知られていたことが、どれだけハル君を傷つけたかを思わずにいられなくて、悲しくて悔しくて、床に突っ伏して声を出して泣いた。



「ハル君、ごめんなさい」と泣きながら何度も繰り返した。



 この日は、ママもナツミさんもこれ以上私に声を掛けてこなかった。






 泣き疲れていつの間にか寝ていて、目が覚めると朝だった。

 ママは仕事を休んで、私を病院に連れて行った。




 病院の診断では、妊娠8週と言われた。




 アパートに帰ると、ベッドで休むように言われて、横になった。


 しばらくすると、ナツミさんがやって来て、ママと二人でどうするか相談を始めた。


 二人とも中絶するしか無いという意見だった。

 二人から相手は誰なのか聞かれたけど、自分がしていたことを知られたらママにもナツミさんにも軽蔑されると思えて、言えなかった。



 いつまでも私が何も話さずに黙って居るとお昼になり、ナツミさんはお店に戻らないといけないからと仕事に戻った。

 ママは私の傍に居てくれたけど、ずっと辛そうな顔をしていた。




 2時頃に、ハル君のおばあちゃんが来てくれた。

 おばあちゃんは、優しい笑顔で私の頭をずっと撫でてくれた。


 私は涙が止まらなくなって、頭を撫でられながら、自分の手で何度も涙を拭った。


「マキちゃん、大丈夫だからね。みんなマキちゃんの味方だからね。 生むのも生まないのも自分で選ぶしかないけど、どっちを選んでもみんなが助けてくれるからね」


「おばあちゃん・・・」




 私は、おばあちゃんとママに、今まであったことを全部話した。


 私の話が終わると、ママは部屋を出て行き、しばらくしてからナツミさんとハル君のおじいちゃんを連れて来た。









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