第6話 #マキ
本当は、高校受験が終わったら告白するつもりだった。
だけど、受験本番が近づくにつれ、ネガティブなことを考える時間がドンドン増えてしまい、不安に押しつぶされそうになっていた私は、その不安から少しでも逃げたくて、お正月にハル君の部屋で告白してしまった。
多分、この日からだと思う。
私の運気が上向きになったのは。
それまで、パパの不倫でママが離婚して、学校の友達とも急にお別れして引っ越すことになり、引っ越し先のアパートは前に住んでた所よりも狭くてボロくて。転校先の学校も、方言が違う私が喋る度に、クスクス笑われたり苦笑いされたりするから、全然馴染めなかった。
それにママは、離婚してからは仕事ばかりで、家のことも私のこともあまり構ってくれなくなっていた。
ハル君のお母さんのナツミさんや家族のみんなは、とても優しかった。
でも、どうしても肩身が狭くて、最初の頃はみんなが居ても居心地が悪くて寂しかった。
私には、ハル君しか居なかった。
子供の頃から好きだったハル君。私の初恋の人。
子供の頃と違って、今は落ち着いててちょっとぶっきら棒で照れ屋さん。
お店で料理するのが何よりも好きで、大人に負けずに大きな鍋を汗だくになって振る姿は、とても格好良かった。
そんなハル君が私の告白に応えてくれた。
晴れて恋人になれ、私の初恋は実った。
嬉しくて嬉しくて、その日の夜、早速ママに報告すると、ママも大喜びで直ぐにハル君の家へ行ってしまった。 多分、ハル君のお家でナツミさんとお酒でも飲みながら、私とハル君のことで盛り上がってるんだろう。
それからは、ハル君との交際も順調で、ハル君からも「好きだった」と言って貰えたし、初めてのキスもした。
高校受験も志望していた所に無事合格。
不安だった高校生活は、方言も何とか克服出来てハル君が居なくても友達も出来たし、順調なスタートを切ることが出来た。
毎朝、ハル君と途中まで一緒に登校して、帰りは友達と寄り道したり、お店が定休日の日はハル君と待ち合わせてデートもした。
そして、色々なことが上手く行くとそれが当たり前になり、今まで贅沢だと思ってた物でも欲しくなったりと、少しづつ欲張りになる。
最初は、スマホだった。
高校の友達はみんな持っていた。
スマホが無くていじめられたりハブられたりすることは無かったけど、疎外感とか劣等感は感じていた。
ママに相談してみると「持たせてあげたいけど、そこまでの余裕が無いのよ」と言われてしまったけど、すぐに「自分でバイトして買うのはどう?」と言ってくれて、ナツミさんに連絡して、お店でバイトとして雇ってもらう話を付けてくれた。
バイトは週3~4。GWから始める。
お店での仕事は主に接客で、毎日の様にお店で夕飯を食べてたし、働いている従業員さんもみんなよく知ってる人たちばかりで、何よりハル君もここでバイトとして働いていたから、私にとってこれほど好都合なバイト先は無かった。
7月の給料を貰うと、目標にしていた金額が溜まったので、直ぐにハル君と二人でケータイショップへ行った。
ハル君と機種もカバーも色違いのお揃い。
直ぐに高校の友達の連絡先を登録して、やり取りを始めた。
スマホを持つことが出来て「漸く周りと同じランクに並べた」 そんな気持ちだった。
次に湧いて来た欲求は、ハル君との初体験。ロストバージン。
高校1年だからと言って、みんながみんな経験している訳じゃないのは分かってる。
でも、恋人が居るのに経験していないことに、焦りはあった。
何よりも、違う学校に通うハル君をしっかり繋ぎとめて置きたかった。
凄く恥ずかしくて緊張で心臓をバクバクさせながらハル君に相談すると、ハル君はいつもの様に私のお願いに応えてくれた。
その日は上手く出来なかったけど、次の日には何とか出来た。
破瓜の痛みよりも、1つになれた喜びの方のが大きかった。
不運続きだった10台前半から、順調なスタートを切ることが出来た10台後半。
全てが上手くいっていた。
そしてその全てはハル君やハル君の家族のお陰だったのに、私はそのことを忘れるようになってしまった。
ここで調子に乗らずに、手の中にある幸せを大切に守るべきだった。
ハル君の様に堅実な高校生活を送るべきだった。
何もかもが自業自得の後の祭り。
私は、私に幸せをもたらしてくれたハル君を手放し、同時に私の幸せはこの手から零れて落ちてしまった。
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