第4話 #ハル





「ハル君のことが好きです。本当は一緒の高校に行きたかったけど、私には無理だし。だから違う高校に行くのがとても不安なの。 私が知らないところで他の子に言い寄られるんじゃないかとか、ハル君が他の子の恋人になるんじゃないかとか、耐えられそうにないの」


 突然の告白に呆気に取られていると、マキは言葉を続けた。


「ハル君は私のことどう思ってるのか分からないけど、好きじゃなくても良いから恋人にしてくれませんか? 今は好きじゃなくても少しづつでも好きになって欲しいの」


 マキが不安そうな表情で俺を見つめてる。


 何か答えないと、と何とか返事をした。


「えっと・・・その・・・うん、いいよ」


「ホントに!?」


「うん」


「嬉しい」


 マキはそう言って泣き出した。


 マキの告白の言葉から動揺しっぱなしの俺は更に慌てて、傍にあったティッシュの箱をコタツ越しにマキへ渡した。



 マキが泣き止むまでの間、身動きすることが出来ず、ようやく泣き止むと既に冷めてしまったコーヒーを口にして一息ついた。



「付き合うって言っても、何したら良いのか分からんし、受験が終わるまでは・・・」


「うん、分かってる。 受験が終わるまでは勉強頑張るね」


「うん」



 こうして俺たちは恋人になったが、この時俺はマキに対する自分の気持ちを、恥ずかしくて自分の口で伝えることが出来なかった。




 恋人になった俺たちの付き合いは、しばらくは特別変わることは無かった。


 冬休み中は毎日朝から夜まで勉強をして、3学期が始まると平日は学校が終わると俺の部屋で勉強をして、週末の昼間は俺はお店の手伝いをして、夜になるとまたマキと勉強。


 家族には俺の方からは何も言わなかったが、マキはサキさんに報告していた様で、サキさん経由で母に伝わり家族にも俺たちが付き合い始めたことが知られた。


 もうこの頃にはマキはウチでは家族同然に扱われていて、祖父母も母も嬉しそうにマキのことを可愛がっていた。


 祖母なんかは「ハル君とマキちゃんの結婚式まで、長生きせんとあかんね」と、勝手な事を言っていた。


 サキさんからは「ハル君、いつもありがとうね。マキのことこれからもよろしくね」と何度も感謝された。







 3月になり公立高校の受験を迎えた。


 俺は市内で公立一番の進学校。

 マキは、俺とは違う公立高校の普通科。


 受験が終わった翌日から、平日もお店の手伝いを再開した。

 お昼や夕飯はマキも一緒に賄いを食べた。


 マキが、俺が作った賄いを「美味しい」と言って食べてくれるのが嬉しくて、でも家族の目とかもあって恥ずかしくて、いつも「そっか」としか返事が出来なかった。



 相変わらず恋人っぽいことは何も無かったけど、卒業式の帰り道は、二人で手を繋いで歩いて帰った。


 寒い中、近所の公園に立ち寄って、手を繋いだままベンチに座り、子供の頃にこの公園で遊んだ思い出とかを話した。



「小学校の頃、この公園で遊んだよね」


「ココしか遊べるとこ無かったしな」


「あの頃のハル君って、すっごく元気一杯って感じの男の子だったよね」


「ガキだったからね、無邪気に良い所見せようと格好付けてたんだろうな」


「うふふ、懐かしいね。 ハル君に会えるのが毎回楽しみで、私もいつもどんなお洋服着て行こうか凄く悩んでたんだよ」


「そうなんだ」


 マキは手を繋いだまま横から体ごともたれて俺の肩に頭を乗せて「ふふふ」と笑っていた。



「俺も、マキに会うの楽しみだった」


「そうなの?」


「うん。マキと一緒に居るの楽しいし。今もそう」


「今もって、それは恋人として?」


「うん」


「じゃあ、私のこと、好きになってくれたの?」


「・・・ずっと前から好きだったよ」


「うそ、ホントに?」


「うん」



 初めて自分の気持ちを口に出して伝えたが滅茶苦茶恥ずかしくなってきてしまい、「母さんやおばさん待ってるから、早く帰ろう」と言って、立った。


 マキも立ち上がると、そのままの勢いで抱き着いて来て、頬にキスされた。



「うぉ!?」


「えへへ、ハル君大好き」


 キスされてビックリしている俺とは対照的に、マキの表情は悪戯が上手くいった子供の様に楽しそうだった。






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