第54話 ロザリオ


「これは間違いなくデスラの角です…おめでとうございます! 実際の授与はまだですが、冒険者証に『ドラゴンスレイヤー』の称号を入れさせて頂きます…そして史上12人目のSSランク認定、これは三国の王からの推薦でギルドからも許可が正式に降りています…あと褒賞ですが理人様は勇者パーティとはいえ、一般人です。その為報奨金として金貨50000枚(約50億円)が支払われます」


「そうですか…」


心が痛い…俺は5万人を見殺しにしただけだ。


「理人くん、凄いね…」


「ガイアや私達だってSランクだし『ドラゴンスレイヤー』なんて持ってないぞ…流石私の夫だな」


「凄いよ、理人お兄ちゃん、それ賢者より凄いんじゃないかな?」


実力で得た物なら…駄目だな…もし俺が討伐できたとしても5万が死んだ上に成り立っている。


今と同じ、いやそれ以下の気持ちになったかもしれない。


『デスラ―ド』に俺は救われた。


討伐した…そう言われると、なんだか心が切なくなる。


「そう…ありがとう」


そう答えるのが精いっぱいだった。


ギルドを出ると歓声があがった。


ジブヤの人達だ。


「英雄理人ばんざ~い」


「理人さん、本当にありがとうございます…貴方がきてくれなかったら娘共々、死んでいました…本当にありがとうございます」


皆ボロボロだ…そうかデスラ―ドは体は治したが、建物やその他はそのままだ。


ボロボロの姿でなんでだ…


「理人様、貴方のおかげで妻は助かりました…娘もです…感謝しきれません」


「息子をありがとう…死なないで済みました」


帰っても、廃墟みたいな都市で暮らさなければならない。


そんな生活でも態々来てくれた…すべてが嘘なのに…


そのまま、ギルドに引き返した。


「済まない、今回手に入れた金貨50000枚は全部ジブヤの領主に送って欲しい…復興に役立てて欲しいと」


「宜しいのですか?」


「皆、ゴメン良いよな!」


「それでこそ理人くん…勿論」


「ああっ構わない、私は何もしていないからな…だが、人を救うのが勇者パーティだ」


「ひとり馬鹿が居ますけどね、私は理人お兄ちゃんに賛成だよ」


「それじゃ、お願いする!」


流石の俺もこれは受け取れない…多分これでも足りない位だろう。


「凄いね、英雄はどこぞの馬鹿勇者とは大違いだ」


「国からの支援も無いのに…命がけで手に入れた報奨金をポンだ、男だねぇ~」


「あれが、英雄理人様…カッコ良いだけじゃなくて優しい」


言われれば言われる程、虚しさが増す。


「命を救ってもらったばかりじゃなく、お金迄寄付してくれるなんて」


「貴方はの事は一生忘れません…子孫全員に代々伝えていきます」


「良いんだ…気にしないでくれ」


「あの激闘だ…理人様をお引止めしちゃ悪い」


「「「「「「「「「「英雄万歳」」」」」」」」」」


「「「「「「「「「「ドラゴンスレイヤー万歳」」」」」」」」」」


「大した事してない…忘れてくれ」


「理人くんは本当にテレ症ですね」


「ああっ奥ゆかしいな」


「流石は理人お兄ちゃん」


もう良い。


このまま考えていたら神経が可笑しくなる。


忘れよう…これは俺の黒歴史だ。


◆◆◆


教皇様から通信水晶で連絡があった。


今日、『聖剣デュラン』と『俺の婚姻相手』が来るそうだ。


相変わらず、凄いな、貴重な空竜艇をこんな事で使って良いのか?


「理人くん、まぁ来るのは仕方ないけど…場合によっては帰って貰おう」


「そうだな、私達が居れば必要ないよな? どうしても、だが私達が『揉めない方』って言うのが気になるな」


「そうだよね…他に幼馴染なんて居ないし…誰だろう?」


俺にも心辺りは無い。


幼馴染はこの三人。


それ以外は居ない筈だよな。


◆◆◆


空竜艇から、ロマーニ教皇にローアン大司教が降りてきた。


「済まないが此処で略式で授与式をさせて頂く」


降りてきた途端に絨毯が轢かれた。


俺は急いで跪いた。


ちなみに三人は跪いていない…


三職だからな…


「もう良い理人殿、これからは跪かなくて良い、妻や友が跪かないなか1人跪くのも辛かろう、この度の活躍は見事であった『聖剣デュラン』と『ドラゴンスレイヤー』の称号『英雄』を授ける…英雄は跪く必要は無い」


「はっありがとうございます」


「うむ、それでは謹んで受け取るが良い」


もう良いや開き直ろう。


俺は、ドラゴンスレイヤーの勲章と聖剣、英雄の証明書を受け取った。


「それでは、忙しいのでこれで、もう少しゆっくりしていきたいが、ガイア殿がな」


彼奴何かしたのか?


「何かあったのですか?」


「いえ、お伝えするような事じゃないのです…少しお金使いの事でお話しようとガブギにこの後行く予定です」


彼奴…まだガブギに居るのか?


「すみません」


「理人殿が気にする必要はありませんから」


「そうです…あれは…当人のせいですから」


「なんだか、すみません」


ガイアの事もそうだが…今回の手柄は嘘だ。


その意味も込めて謝った。


「こちらが、お約束の『婚姻相手』です」


「「「「えっ、ロザリオ様」」」」


嘘だろう、俺の住んでいた村を統治する貴族の娘、ロザリオ様。


俺の憧れにして…三人が頭が上がらない相手。


大司教が本気になるという事はこう言うことなのか?


「お久しぶりですわ、理人…いえ嫁ぐのですから理人様と呼ぶべきですわね」


俺も幼馴染三人も驚きが隠せない。


確かに彼女なら俺は文句はない、三人と同じように愛せると思う。


そして三人も姉の様に従い憧れていたから仲良くやれる筈だ。


だが…彼女は侯爵家に嫁いでいった筈だ。


しかも当主の家に…


つまり人妻だ…しかも侯爵夫人。


ありえない。


「ふぁはははははっ、いつも理人殿には驚かされてばかりだから、その仕返しじゃ…驚いたであろう」



「この方で、問題はない筈だと思いますが…教会が全勢力を使い調べ上げた、理人殿が聖女様達以外で愛する可能性のある唯一の方の筈です、まぁかなり年上ですが…どうですか?」


「ですが…ロザリオ様はオルレアン侯爵家に嫁いだ筈です」


「理人殿…貴方は私達が欲する者を与えてくれた…そして努力の末、かっては勇者すら殺したデスラを倒したのだ…この世の理の一つ位捻じ曲げても欲しい者を望むべきだ…ガイア殿とは違い、しっかりと手柄を立てているのですから」


「教皇である私が貴方に貸しばかり作るのもね…少しだけお返しします…侯爵家なんてどうとでもなります…私も含み、帝王に王、全員が貴方に借りがあるのです…何かあったら何時でも頼って下さいね…では口惜しいですがこれで失礼しますよ…理人殿」


教皇達は直ぐに飛竜艇に乗って帰っていった。


ガイア…幾ら使ったんだよ…


◆◆◆


「理人様、いい加減返事を下さいませ…まさか、この状態で年上は嫌とか、経験者は嫌とか言いませんわよね」


年上って言ってもまだ20代後半、前の世界じゃまだまだ充分若い。


この世界じゃ短命なせいか、完全に年増扱いされる。


(一般的な寿命が60歳位の世界です)


「あの、ロザリオ様は良いのですか? 旦那とか愛していたんじゃないのですか?」



「愛していませんわ、政略結婚ですから、しかも子供も出来なかったせいで、酷い扱いでしたわ…でも原因は多分私じゃなくオルレアン侯爵の方ですわ、だって妾が2人居て、その二人も妊娠していませんでしたわ」


「もう一度言いますが、ロザリオ様は本当に俺で良いんですか? 領主様とかに恨まれたりしませんか?」


「良いに決まってますわ…それより理人様は本当に私で宜しいんですの? 結構年上ですし、もうおばさんと言われても仕方ない年齢ですわ、それなのにローアン様からお話がきまして驚きましたわ、別人って事は無いですわよね?」


「俺はロザリオ様が嫁いでいかれると聞いて、馬車を見送った時に泣いた位好きでしたから…」


「それなら良かったですわ…オルレアン侯爵は教皇様から差し出すように言われたら、簡単に私を手放しましたわ…まぁ『子供が産めない女』と馬鹿にされていましたから、教会の印象を悪くする位なら要らないのですわね、私の実家の方は自領の出身者が四天王を倒してドラゴンスレイヤーの称号を貰った事で王に褒められ、教皇様が直々に話をしましたから、最早自慢の種ですわね、お母さまの話では『娘の婚姻相手は教皇様が間に立ち『英雄』『ドラゴンスレイヤー』だと言いふらしている様ですわね…もう既に義理の息子呼ばわりですわ…それなら私が嫁いで理人様が悲しんだ分、これから沢山沢山埋めて差し上げますわ』


「ロザリオ様…特別に今夜はお譲りしますが…4人の者ですからね」


「今日はお譲りしますが、基本は私たちは全員でします」


「理人お兄ちゃんといつも4人でしているんだから…1人占めは今夜だけだからね」


三人とも俺と同じでお世話になっていたし、確かにロザリオ様なら問題は無いな。

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