第25話 嬉しい誤算


朝起きると両腕に重みを感じた。


三人が俺に腕枕されたように眠っていた。


幸せに感じるけど、腕が少し痺れている。


気付かれないようにゆっくり手を抜き外に出た。


此処の宿屋はキッチンがついていない。


この世界の宿屋は冒険者を含み自炊をする者も多いから、ついている宿屋も多い…何処か移動しても良いかも知れない。


しかしガイアは大丈夫なのか…ここガブギの街に来てからまだ一度も討伐をしていない。


本来は勇者パーティは旅から旅が当たり前なのだが…


何も起きていない平和な街にこんなに勇者パーティが居ついていちゃ問題だな。


だが、これから先は兎も角、過去は問題が無い。


色々と各国の王と話しているから、咎められることは無いだろう。


「おはよう理人、今日も朝から4人のお世話か? 精が出るな」


「まぁ今は一人欠けて3人なんですが、折角声を掛けてくれたんで、朝食ように弁当を買わせて頂きます、A級冒険者セット4つにハーブティもつけて下さい」


「なんなら、今度S級冒険者セットもつくるかな…」


「そんなの買う人は5人しかいないし無駄ですよ」


「だな、それじゃ銀貨2枚だハーブティはサービスしておくよ」


「ありがとうございます」


ちなみにA級冒険者セットは1人前銅貨5枚(約5千円)と少し高い。


この店では朝から仕事にでる冒険者が急いで買えるようにこういうシステムにしている。


別に等級通りの弁当を買う必要は無い。


あとは大通り沿いの洋菓子やでケーキでも買って帰れば良いな。


これで今日の朝食分は買い出しが済んだ。


折角、大通りまで来たんだから宝石商に足をのばしてみるか…


「いらっしゃいませ理人様」


店に入るとオーナが笑顔で話しかけてきた。


前にペンダントを作っているからか何も言われなかった。


今の俺は弁当をぶら下げていて普段着…入ってから気が付いた。


こういうお店には本来は似つかわしく無い。


だが、流石は高級店だ。


俺の顔をしっかり覚えている。


「この度はご結婚おめでとうございます、本日はリングでございますね」


「その事は一般的にはまだ知られていない情報だと思うんだが…」


「そこは各王室ご用達の当店、情報網がございます」


「成程、それじゃ話が早いな、オーダーで4人分のリングでお勧めのリングはありますか?」


「はい、ご用意してございます」


デザインの提案でなく『用意してある』どういう事だ。


「用意してある…のか」


「はい、こちらでございます、世界に数少ないブルースター鉱石を4つに割って作ったリングにございます。ブルースターには古来より『信じあう心』『幸せな愛』と言われる言葉があり、事実、この4つの鉱石の内1つでも砕ければ残り3つの鉱石も運命を共にするように砕けます…どうでしょうか?」


確かに凄く良い…だが宝石の高い物はエルフや城より高い。


これが安い訳ない様な気がする。


「欲しいと思うがこれは幾らなんだ…俺は勇者じゃないから高額だと手が出ない」


「本来は金貨1000枚(約1億円)でございます」


「金貨1000枚」


手が出ると言えば出る…婚約指輪兼、結婚指輪だ奮発するべきだな。


「ですが、この指輪は理人様に献上致します」


うん?! 献上ってどういうことだ…



「献上とは無料でくれるって事?」


「はい、左様でございます」


「理由を聞いても良いか?」


「理人様が今、行っている事に『参加』させて頂きたいのです」


「それは何処で聞きました? 今現在は王族とその周りの一部しか知らない事だと思いますが」


「当店は王宮ご用達です、王に一番近い商人でございます」


そうか、確かに宝石やドレスも絡んでくるか…きっと王族にも話しをしているんだろうな…


「解りました…一枚加えるようにするよ、その代りすぐに全支店に話を通しておいて、それプラス『勇者』に対する特典を頼む」


「特典ですか?」


「ああっ、値引きなんて要らない、だがそうだなVIP室での商談やその際には高級ワインの提供や手に中々入らない菓子を出す『特別な客』そう思われるようにしてくれ」


「成程、早急に準備します」


「それじゃ…これ本当に貰っていくけど良いんだな」


「はい、それと教皇様から伝言がございます」


「なんでしょうか?」


「これをとの事です」



「つつ通信水晶!」


まさかこんな魔法具まで寄越すのか?


これ、国の重鎮でも持ってない筈なんだけどな…


「もしかして今回の話は聖教国の教皇様からですか」


「はい、凄く期待されていますよ…もう準備も整って早ければ今日のお昼には届くそうです…ちなみにブルースターの提供は教皇様で本来は市場にでないのですがコレクションの一つを特別に…」


「大体解ったから、怖いから聞きたくない」


まさかと思うけど、国宝級の石を4つに割って加工したのか…


「左様ですか」


「それじゃ1枚噛んだ事だし早速お願いしても良いですか?」


「勿論でございます」


「それじゃ此処を午後から会場として使わせて」


「はい、それでは本日は閉店しましてご用意を」


「そこ迄しないで良いから小さな部屋を1つ用意して、豪華な立食パーティの準備を、本来ホテルを借りるのが正しいんだが、早く用意しないと間に合わない…すみません」


「良いんですよ…それより連絡しないで良いんですか?」


「そうですね」


◆◆◆


嘘だろう…連絡したら、聖教国ホーリーから空竜艇を出すそうだ、しかもアレス帝国からは聖教国ホーリーまでワイバーン騎士団が持参し…王国レイクパルドからはグリフォン騎士団が持参…まとめてくれたのはありがたいけど…そんな事すれば確かに来るよ。

教皇専用の秘蔵の空竜艇だもんな。


しかもこの水晶、ローアン大司教に繋がっているんだ…聖教国のナンバー2だよ…


頭がぐちゃぐちゃになるな…


◆◆◆


「おはよう」


「おはよう、何だか疲れていない、大丈夫?」


「まだ疲れが抜けてないのか? 今日はゆっくりしていたらどうだ」


「そうだよ、偶には夕方まで眠った方が良いよ」


「いや、たった今疲れたんだ…それより、待たせてごめんね」


「これは…指輪ですか? そう、そうよね結婚したんだから、理人本当にありがとう」


「しかし、綺麗だな、この青い石、あまり見たことが無い、ありがとう」


「ありがとう理人…嘘、また無理して無い? これブルースターじゃない…これ買う為にまた地竜とか言うんじゃないよね? 私もっと安いので良いから無理しないで」


「リタこれそんな高いのか?」


「そんなにするの…」


「うん、多分金貨1000枚はするよ、だけどそれだけじゃないんだよ…現存するブルースターは少なくてほぼ流通していない筈だよ、だから今言った価値は本来の価値、どうしても欲しいって事になるとその数倍は出さないと譲るって事にはならないんだ」


そういう事は先に教えておいて欲しかったな。


「あの理人これは返しましょう」


「確かに綺麗だけど理人とは釣り合わない」


「私は賢者だからこれは凄く欲しい、だけどどんな宝石でも理人を危険に合わせる位なら要らない」


嘘だろう…なんでだろう…なんで。


駄目だ、油断すると涙が出てしまう。


「大丈夫危険な事はしないから、討伐とかしないから安心して受け取って…ただここ2日間程凄く忙しくなるんだ、その代償も兼ねて安くして貰ったんだ…それに着けてくれない方が俺は悲しいよ」


「そうですね…理人がそう言うなら、どう似合ってますか?」


「そうだな、やはり妻なのだから薬指にリングは当たり前だなどうだ?」


「憧れのブルースターの結婚指輪なんて、私多分世界一幸せな花嫁さんだよ」


「皆、ありがとう」


「「「理人…間違っている(よ)(わ)」」」



「えっ」


「指輪を貰ったのは私達」


「そうだぞ…なんであげた側がお礼を言うんだ」


「理人変だよ」


「そうかな」


「「「そうだよ…だからね」」」


「「「理人ありがとう」」」


こんなの不意打ちじゃないか…指輪より俺が大切だって…

何だよこれ…駄目だ我慢できない…


「ちょっと手が汚れているから、洗面所行ってくる…手を洗ったらご飯にしよう」


俺は涙が出る前に洗面所に向かった。




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