第16話 催眠プレイは駄目、ゼッタイ。
「正直、こうなるだろうとは思っていたよ」
ソファーで失神している宇志川を見て、俺は素直な感想を述べた。
ちなみに俺はアイテムの力を借りて、隣の部屋で二人の様子をずっと監視していた。
監視用のアイテム、イヤンイヤホン。
見た目はBluetooth型イヤホンで、対になったイヤホン同士で音声を共有できるようになっている。
片方を莉子に持たせ、どんな会話をしていたのか把握していたのだが……。
「
「いいさ。ある意味では予定通りになったわけだし」
実はもうひとつ、莉子にはとあるアイテムを渡しておいたのだ。その名も、お耳くちゅくちゅガム。
これはガム型のアイテムで、これを噛んだあとに声を出すと、聞いた者の脳を犯して操ることができるのだ。
ただし、その効果は対象者との信頼関係や好感度によって変動する。つまり莉子が大好きな宇志川に対する効果は絶大というわけだ。
「使い勝手の悪そうなアイテムだったけど、今回はめちゃめちゃ綺麗にキマったのにゃ」
「相性の良さは抜群だったしな。……よし、今のうちに拘束しておこう」
さすがに失神させたのはやりすぎだとは思ったが、仕方がない。
受付に延長の連絡を入れてから、俺はポケットから縄を取り出す。その縄を使って莉子が手際よく宇志川を縛り上げた。これで身動きは取れないだろう。
「あとはロティが起きるのを待つだけだな……でもなんでこの縛り方をしたんだ?」
俺の目の前には見事な亀甲縛りをされた宇志川が転がっている。そのせいで胸が余計に強調されていて、なんだかとてもエロい。
そしてなぜかスカートがめくられた状態なので、パンツが丸見えになっている。
「せっかくだから、御主人様には美少女の痴態を目に焼き付けてもらおうと思ってにゃ」
「いや、何の得にもならないんだけど……ん?」
「どうしたのにゃ。パンツじゃ物足りなくなったのかにゃ?」
違う。そんな事には興味はない。っていうか俺はパンモロよりも、ギリギリで見えない方がエロくて至高だと思っている派だからな。
「ってそうじゃない。莉子、今コイツ動かなかったか!?」
「何を言ってるのにゃ。いくらロティがゴリラ並みの力を持っていても、拙の調合した薬を飲めば数時間は夢の中にゃ」
「おい、まさかコイツに薬を盛ったのか!?」
「……? 何か問題あったのかにゃ? 念には念を……」
そこまで言いかけて、莉子は言葉を止める。
その視線の先には亀甲縛りをされて寝ているはずの宇志川の姿があった。
「ひっ!?」
まだ意識を失っているはずの彼女はゆっくりと上半身を起こすと、グリンと首を曲げてこちらを向いた。
「ど、どどどどうして動けるのにゃ!?」
「駄目なんだよ、莉子。コイツに薬の類は一切効かないんだ。むしろ暴走モードに切り替わって、危険度が跳ね上がっちまう」
ゲームでもそうだったのだが、アイテムの効果はメチャクチャ有能だと言える。しかし宇志川に限っては話がまるっきり変わるのだ。
薬品系のアイテムを使って彼女を昏睡させようとした瞬間、ジ・エンド。理性を失ったゴリラにワンパンされて殺される。
調子に乗ったプレイヤーの大半が一度はコイツの手でゲームオーバーにさせられているほどだ。
「(まずいな。まさか莉子が独断でコイツに薬を使っていたなんて。男の俺がここにいたら、間違いなく揉めごとになる。暴走モードが起動する前に、早くここから離れないと)」
「……うふふふふふふ」
だが、既に手遅れだったようだ。
目を開いた宇志川の瞳が怪しく光る。
すると次の瞬間、彼女は縛られているにも関わらず、器用に立ち上がった。
――ブチブチブチッ!!
「やばいのにゃ、怪力で縄を引きちぎったのにゃ!」
「うっそだろ。マジでゴリラじゃねーか!」
今の宇志川を縛るものは何もない。まるで幽霊に憑依されたかのように、ゆらり、ゆらりとこちらへ歩み寄ってくる。完全に俺をターゲットとして認識しているようだ。
「逃げようにも、部屋の出口はロティの向こう側にあるにゃ!これじゃあ拙たちは袋の鼠にゃ!!」
「くそ!ここは一端逃げるしか――」
「逃がしませんわよ?」
俺たちが焦燥感に駆られる中、宇志川は不敵な笑みを浮かべて、懐から何かを取り出した。
それはメリケンサック。
おそらく護身用に持ち歩いていたものだろう。それを宇志川は指に嵌めると、拳を強く握りしめた。
「やはり男はクソですわね。うら若き乙女を眠らせて、不埒な真似をしようだなんて……」
「ち、違うんだ宇志川。別にお前を傷つけるような行為をすつるもりじゃ……」
「問答無用!!」
彼女が信じられないスピードで接近してきた。
その瞬間、俺の頭の中では、とある映像がフラッシュバックする。
刃物を持った誰かが俺に向かって突進してくる姿。それが目の前にいる宇志川の姿と重なる。
もしかすると、俺が前世で死ぬ寸前に見た時の記憶なのだろうか。やはり俺は一度死んで、この世界に――……。
しかしその走馬灯の結末を迎えることはなかった。
「ロティ! やめるのにゃ!!」
「~っ!!」
目の前に莉子が飛び出し、宇志川に制止を掛けた。するとまるで時が止まったかのように、宇志川は腕を振り上げたままの姿で固まった。
どうやらお耳くちゅくちゅガムの効果が残っていたらしい。莉子が命令してくれたおかげで、どうにか助かったみたいだ。
「た、助かった……」
「危機一髪だったのにゃ。薬はダメでも、催眠系なら大丈夫だったのにゃ」
莉子の言う通り。宇志川のフィジカルはゴリラ並みにタフなのだが、中身は単純バカなので催眠が効くのである。
「う、うぐぐぐっ。莉子様、そこをどいてくださいまし。そいつを殺せませんわ!」
宇志川が苦しそうにもがきながら、莉子に懇願した。しかし莉子は首を横に振ってそれを拒否する。
「こんなことになって、ごめんなのにゃ。だけどこれも人助けのためなのにゃ……『ロティ、情報を洗いざらい吐くのにゃ』」
「莉子、様……わかり、ました――」
無事に催眠が掛かったのか、ガクッと
そうして俺たちは
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