第12話 揺れるココロ、高鳴る心臓。
莉子が俺の家に住むことになった翌日。
いつものように学校へ登校した俺は、ホームルームが始まる前に、次に接触するヒロインについて莉子と相談をしていた。
ちなみに今回は姿を消せるマジックミラースプレーを事前に使うことで、トワりん対策をしてある。これならば異様に勘のいいトワりんでも、そう簡単には俺たちを見つけられないはずだ。……たぶん。
「よし、ターゲットは隣のクラスの宇志川にしよう」
俺の学年には、二人の美少女がいることで有名だ。
一人が二年A組の柳嶋莉子。つまり目の前のコイツ。そしてもう一人はB組の宇志川シャーロットだと言われている。
そしてその宇志川こそ、タカヒロを殺した容疑者のうちの一人なのである。
「あの巨乳ハーフ女かにゃ……うぅ、
「珍しい。お前でも苦手な相手がいるんだな」
宇志川はアメリカ人と日本人のハーフで、とにかく身長と胸がデカい。
モデル体型ってああいうのを言うんだろうなって印象がある。莉子が可愛い系だとするのならば、シャーロットが美人系だと言えるだろう。
たしかに莉子とは対照的な人間なので、苦手意識を持っていてもおかしくはないのだが……。
「だけどアイツは男嫌いで有名だから、莉子にしか頼めないんだよ……」
「むー……分かったにゃ……。それで? 拙はどうやってターゲットに接触すればいいのにゃ?」
莉子は渋々ながらも引き受けてくれた。こういうところは本当に助かる。見た目は不真面目なギャルのくせに、中身はなんだかんだ言って真面目なんだよな……。
まぁ、それはともかく。問題はどうやってシャーロットに近付くかである。
「俺も具体的な案は思い浮かばないんだよなぁ。隣のクラスに乗り込むわけにもいかないし」
俺が宇志川のことで知っているのは、あくまでもゲームの中での設定だけだ。
そもそも本来のストーリーでは、タカヒロがエロハプニングを起こすことでシャーロットとの交流が始まることになっている。しかし残念ながら、そのタカヒロはもうこの世にいない。
「それなら体育の授業で話しかけてみるかにゃ?」
「そうだよなぁ。そのタイミングが一番かもしれない」
結局、俺たちが思いついたのは合同授業で接触を試みることだった。幸いなことに今日は体育の授業がある。そこでチャンスを待つことにしよう。
計画が決まったところで、チャイムが鳴った。ホームルームの時間になり、担任のトワりんが教室に入ってくる。
そろそろスプレーの効果を消して席に着くとしよう。……トワりんの俺を探すギラついた目が怖いしな。
「宇志川殿、良かったら
そうして迎えた二時限目の体育授業。体操着姿になった俺たちは、早速行動に移すことにした。
声をかけたのは、我らがギャル忍者こと柳嶋莉子。対するはB組のお嬢様系アイドル、宇志川シャーロットだ。
「わたくしとペアを?……いいのですか?」
その宇志川はというと、体育館の壁際で独り寂しくポツンと
ふだんは女子たちに囲まれている彼女だが、この時間に限っては何故か誰もが距離を置いていた。
「もちろんだにゃ。
いつもより愛想マシマシな莉子は、持っていたバレーボールをポーンと高く投げ上げた。それを宇志川がアンダーハンドパスで再び莉子にボールを返す。
「えっと、それではわたくしがレシーブをいたしますわね」
「お手柔らかに頼むにゃ〜」
おぉ、やるじゃないか。
莉子は特に問題もなく宇志川とのファーストコンタクトに成功したようだ。交代しながら、お互いにトスやレシーブの練習を始めた。
莉子はバレーボールが苦手だと言っていたが、どちらも暗殺者として身体を鍛えているおかげか、動きにはキレがありフォームも綺麗だった。
そして俺はというと、そんな二人のやりとりを少し離れた所から見守っていた。上手く接触できるか少し不安だったが、この様子なら大丈夫そうだ。
「お上手ですわよ、柳嶋様!」
「宇志川殿もさすがなんだにゃん。返球がとてもしやすいにゃ」
「ふふふっ、嬉しいですわ。わたくしたち、もしかしたらベストパートナーなのかもしれませんわね」
(なんだろう、あそこだけ空気がピンク色になっている気がする)
ただボールを拾うだけの作業なのに、なぜかそこには百合の花びらが舞っていた。なんだかあの二人、すごく仲良くなれそうな予感がする。
ただ、それとは別に一つ気になることがある。それは——。
「やばいな、あの二人」
「あぁ、破壊力が凄すぎる」
どうして男子生徒たちは、あんなにも羨ましそうに見つめているのか。気付けばクラスメイトの約半分が、俺と同じように二人を眺めていた。
その視線は明らかに情欲の炎に染まっていて、まるで獲物を狙う猛獣ような目つきをしていた。アイドル級に可愛い二人だから注目を浴びてしまうのは仕方のない話なのだが、やや危険な雰囲気があった。
中でも宇志川に対する視線が集中している。
その理由は、彼女がレシーブをする度に大きな胸がブルンブルンと跳ねるからだ。耐性の低い一部の男子生徒なんて、興奮のし過ぎで鼻血を出している始末。
……まぁ気持ちは分かるぞ。あの凶器はかなり危険だ。トワりん信者である俺でさえ、あやうく目を奪われそうになっちまった。
(今は大事な作戦中なんだ。落ち着け、俺……!!)
必死に煩悩を振り払うも、どうしても視線は吸い寄せられる。ダメだと分かっていても、ついつい胸のバレーボールに釘付けになってしまうのだ。優しく指先でトスしたい。
それになんだか、頭がボーっとしてくるような……。いや、いくらなんでもこれはオカシイぞ!? この俺が、興味のない女に心を奪われそうになるなんて――。
そんな俺たちの視線に気付いたのか、宇志川の様子が急変する。
「ちっ、サカったチンパンジーどもが。愛しい子猫ちゃんとの時間を
「――えっ?」
お上品な彼女の口から出たとは思えないほど荒々しい言葉が聞こえたかと思えば、こちらへグルンと向きを変える。
「ひっ!? 見てるのがバレた!!」
「おい、宇志川が何かしようとしてるぞ!?」
「やべぇ、メチャクチャ怒ってる!」
騒ぎ出す男子たちをよそに、宇志川は莉子からトスされたボールを自身の真上にレシーブする。そして驚くほどの高いジャンプを見せた。
その打ちあがっていたボール目掛け、宇志川は――。
「おめぇら、そんなにボールが好きか? ならこれでも喰らっとけや!」
宇志川は限界まで背中を反らし、ものすごい威力のスパイクを打ち込んだ。そしてボッキュン、という異様な音が体育館に木霊する。
強靭な体躯から繰り出されたそれは、もはやバレーボールというよりも砲弾に近い。
「に、逃げろっ!!」
「殺される!!」
狙いはもちろん、俺を含めた男子たちだ。一同は狂乱状態となり、蜘蛛の子を散らすように逃げ始めた。
俺もここに居ては危険だ。慌ててその場から離脱しようとする。
「うおっ、押すなよ!」
「わりぃ!!」
だが運の悪いことに、そのうちの一人がぶつかってきた。そのせいで俺は尻餅をついてしまう。
そしてボールはまるで狙いすましたかのように、こちらへと一直線に向かってきていた。もう逃げられない。
「あれ? これってもしかして俺、
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