第10話 避妊は、だいじ。
「ま、アタシは別にマコトが誰と付き合おうと良いけどさ」
ソファーで俺の弁解を聞いていた沙月姉ちゃんは、缶ビールを片手にケラケラと笑う。くそぉ……絶対に面白がっているだけだろ。
俺に普段女の影が無いからって、からかいすぎだよ。
そう思って軽く睨みつけるが、沙月姉ちゃんはまるで意に介さず、今度はツマミのチータラを美味しそうに食べ始めた。まったく、本当に自由なんだからこの人は。
これでもこの人は超が付くほどの天才……らしい。
俺はこの世界に転生してきたばかりなので詳しくは知らないが、少なくともゲームの中ではそうだったのだ。
弟のマコトに
だからこの人に対しては、どうしても強く当たることができない。下手に怒らせてアイテムをくれなくなったら、俺はただの凡人になりさがってしまう。だからやんわりと否定するしかできないのだが……。
「だから俺たちは別に恋人同士なんかじゃないんだってば……」
とはいえ、さすがに『殺人未遂事件がキッカケで仲良くなりました』とは言えず。単に同じクラスの友人だという説明をしたのだが、沙月姉ちゃんは全く信じてくれなかった。
ちなみに莉子はというと、 本棚にある漫画を物色していた。どうやら今人気の忍者モノに興味津々らしい。
まったく、こっちはえらい目に遭っているというのに自由なヤツめ。
俺はため息をつくと、莉子のところへ向かった。
「おい、お前からもキチンと説明してくれよ。このままじゃ俺は親に殺されるかもしれん」
すると莉子はチラッとこちらに目を向けると、漫画で口元を隠しながら小声でしゃべり出した。
「そういえば
「は……? なんだよ急に」
「実は
どこからともなく取り出した猫耳カチューシャを付け、両手を頭に添えたポーズをとる莉子。
その姿はまるで、飼い主から捨てられてしまった子猫のようだった。……こいつ、俺の同情心を呷っているつもりなのか?
っていうか、それは暗に俺のせいだって言いたいんだろ。しかも、この口ぶりだと……。
「その通りにゃ。どうか拙をこの家に置いてほしいにゃ。そうしたらキチンと姉上にも説明するんだにゃん」
「こ、こいつ……!!」
俺は莉子の隣に立つと、その頭の飾りを鷲掴みにして無理やり奪い取る。
「いきなり来ておいて、家に置いてくれだぁ? んなことできるわけないだろうが! そもそも我が家には、お前を泊める部屋なんてねーんだよ!」
「拙は別に廊下でもこのソファーでもいいにゃ。なんならトイレでも寝れるにゃ」
「夜中にトイレへ行けなくなるだろっ!!」
「夜這い……してもいいにゃよ?」
「するかアホッ!!」
ダメだコイツ。早くなんとかしないと。
俺は沙月姉ちゃんの方へと向き直ると、必死になって訴えた。お願いだから俺を信じてください!と。
しかし姉ちゃんは、頬杖を突きながらつまらなさそうな顔をしていた。
「いいじゃないの。住まわせてあげなさいよ」
「はぁ!? 姉ちゃんも何を言ってるんだよ、コイツは赤の他人なんだぞ!? だいたい、母さんたちが許すわけないじゃないか!」
「友達なんでしょ? しかも女の子が困ってるって言ってるのに、見捨てるのは男として恥ずかしいわよ」
沙月姉ちゃんはニヤリと笑みを浮かべると、俺の肩に手を置いてきた。
そして、そのままポンポンと叩き始める。
いや、『良いことを言ってやったぜ』みたいな顔をされても全然納得できないし。
「莉子ちゃん……って言ったっけ? 部屋ならアタシの部屋を使うと良いよ。どうせほとんど使ってないんだし、遠慮はいらないからさ」
姉ちゃんの言葉を聞いた莉子は、パァッと表情を明るくする。
「ありがたき幸せにゃ~!! 今から沙月殿のことをお姉様って呼ぶにゃ!」
「お、いいね~。こんな可愛い妹ならアタシは大歓迎だよ」
「マジかよ……」
なんかもう色々と諦めるしかないのか、これ。
ちなみに、俺が嫌がることを見越した上での発言であることは明らかだった。だって目が笑ってるもの。
俺はガックリとうなだれていると、沙月姉ちゃんは追い打ちをかけるように言う。
「ま、避妊だけはちゃんとしときなよ!」
「姉ちゃん!!そういうこと言わなくていいから!!!」
「ふふん♪ この定番のセリフ、一度言ってみたかったんだよね。あははははっ」
……この性悪女め、完全に俺で遊んでやがる!!
「それじゃあ、そろそろアタシは空気を読んで退散するから。あとは若者同士、ごゆっくり~」
「ちょっと待て! まだ話は終わってねぇぞ!!」
「大丈夫、マコト。姉ちゃんはマコトのこと信じてるから。それにアンタの趣味も理解しているつもりだし」
「違うわ! 勝手に変な方向に解釈しないでくれ!!」
「御主人様、愛してるにゃ!」
「お前はもう黙れぇえ!!」
結局、俺はこのままなし崩し的に、莉子を家に泊めることになってしまった。
なんだろう……今日一日だけで、すごく疲れた気がする……。
そんな俺を見て、莉子がコロコロと楽しげに笑う。
ちくしょう、絶対いつかコイツらに仕返ししてやるからな!
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