ヒロインアディクション

那須儒一

第1話 ヒロイン不在

 深緑の星オルミネア。

 この星では、1000年に一度、魔王が誕生する。


 魔王復活を機に各地で英雄志望の勇者たちが魔王討伐を掲げ旅に出る。


 そんな勇者の一人である俺、ラヴ・メーカーは魔王討伐なんぞそっちのけで、俺様による俺様だけのハーレ厶パーティーを結成すべく酒場に訪れていた。


「よう、マスター。勇者様が来てやったぜ」

 俺は今までの鬱憤を晴らすように傍若無人な態度で、酒場のマスターにパーティーメンバーの斡旋を頼む。


「ちっ、まさかお前が勇者とは…」

 禿頭に無精髭を携えたマスターは、舌打ちで俺を睨んできた。


「あれあれ、勇者様にそんな態度をとっていいのか?村長に言いつけるぞ」


 村長の名を出したことで一瞬マスターの顔が強張る。その後すぐに当たり障りのない営業スマイルに表情を変える。

「これはこれは…。ここアルカ村の代表が貴方様だったとは…。世も末というかなんというか…」


「おい、マスター。なんか不満があるみてえだな。しかし、今日の俺様は機嫌がいい。お前の不遜な態度は大目に見てやろう」


「それはそれは有り難いことで。それで、本日は如何様いかようで?」


「まったく、そんな分かりきったことを訊くな。魔王討のパーティー編成に来た。とにかく若くて可愛い娘を用意しろ。むさ苦しいおっさんなんぞいらないからな」 


「へいへい承知しましたよ」

 酒場のマスターは不機嫌そうにカウンターから席を外した。


 魔王討伐には各村から勇者が選抜される。

 そして、その選抜方法は実にシンプルで、

 神からの賜わり物である神器の発現。

 その一点のみである。


 かくいう俺も朝起きると右腕に金色に輝くブレスレットが装着されていた。その紋様には豊穣の神の象徴である麦が彫り込まれている。


 毎日、毎日、毎日、泥塗れになるまで地主に

 こき使われながらイモ堀りをさせられていた俺は、これを期に今まで関わる機会すら持てなかった女とあんな事やこんな事をするべく、ハーレムパーティーの結成を目指している。


 これから始まる、あんな事やこんな事に思いを馳せていると酒場のマスターが一人の少女を連れてきた。


 少女は頭に大きく不格好なエナンを被り、その下から覗かせている整った顔立ち。そして顔の横に添えられるように生えているストレートの黒髪に俺は興奮を覚える。

「その装いは魔女ウィッチか?」


 俺の問いかけに対して、目の前の少女は返事をするでもなくいぶかしげに俺の爪先から頭頂部にかけて品定めをするように眺めてきた。


「なによマスター。もしかしてこの芋臭いのが勇者ってわけ?マジ最悪なんだけど」


 目の前の少女は、その可愛らしい見た目からは想像もつかないような悪態をつく。


「はっ、なんだとてめぇ。勇者様にそんな口の聞き方してもいいのか?」


「なによ、あんたってイモ堀りとかいう底辺職業だった奴よね?それがいきなり勇者になったからって調子に乗らないでくれる」


「なっ、なんだと!」

 俺は怒りのあまりそれ以上言葉が出なかった。


「ごめんねミリーちゃん。村長から、勇者一行に加われば軍資金で1千万ジュール貰えるって話だから許してあげてよ」


「おい、マスター!なんで俺様じゃなくそいつの

 フォローしてんだよ。おかしいだろ」


「勇者様もそれぐらいで勘弁しときな。あんたの希望する若い娘の戦闘職業バトルジョブはこのミリーちゃんしかないんだから」


 マスターの発言を聞きミリーの表情は、更に嫌悪感を滲ませる。

「なによ若い娘って。アンタそんな要望だしたの…マジキモいんだけど」


「おい、マスター。そこは伏せとけよ」


「まったく仕方ないわね。お金の為にこの苦行も我慢するわよ」


 こうして俺と口悪守銭奴魔女の旅が始まった。

 俺のハーレム計画に早くも暗雲が立ち込めていた。






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