Episode 02 7ヶ月〜1歳2ヶ月

 ずり這いの次は「高這たかばい」といって、おしりを持ち上げて、手と膝をついて這う方法です。でも、これは、どうやっても覚えられませんでした。

 「高這い」をしない子も多いと聞いて、お座りの練習を始めました。

 

 なかなかでした。本当になかなかできない。まず両手を前について、手で体重を支えて座るところから始めるのですが、まず、その形になれない。その形をキープできないんです。何回も何回も、何日も何日もかけて、やっとその座り方ができるようにはなったけど、ずり這いから、その形にもっていくのがどうしてもできない。


 猛練習の日々でした。思い返しても泣いてしまうほど大変な日々でした。


 元夫はというと…

「ゆっちゃん、可愛いなあ~。」

って言って抱っこするんですけど、あろうことか、ほっぺをかじる。歯型がくっきり残るくらいに。愛し方、接し方がわからないんでしょうか?この人に娘を触らせたらとんでもないことになるかもしれない、そう思って、なるべく触らせないようにしていました。


 やっと手をついてのお座りができるようになった頃には、もう9ヶ月になっていました。


 9ヶ月健診で、完全な「遅れ」を指摘されます。大きな病院にかかるように。そう言われました。


 それを元夫に言うと、

「俺の子がそんなわけがないだろう、もしそうだとしたら、お前の血だ。お前の訓練が足りないからだろう!!」

と怒鳴られ…また訓練の日々。


 育児書では、もうつかまり立ちや伝い歩きができている筈なのに、うちの子は、まだ手をついたお座りがやっと。


 母に電話し、遅れを指摘されたことを伝えると、なるべく早く病院に連れて行った方がいいと言われます。


 でも、わからないんです。近くの総合病院なんかわからない。東京へ通勤圏の住宅地、大きな団地もあるところなのに、小さな内科や耳鼻科はあっても、知ってる範囲で大きい病院はない。

 マンション(社宅)だったので、周りになかなか頼れる人がいない、というか、元夫には、他の奥さんとはつきあうなと言われていて、誰にも助けてもらうことができませんでした。


 母も自分の仕事を持っているからそう長くは休めない。私の実家から、当時住んでいたマンションまでは7時間半かかりました。在来線3本と新幹線を乗り換えて。

 そんな状態だから、母に来てもらうのも申し訳ない。


 ただひたすらに毎日娘と向き合い、お座りやつかまり立ちを練習する日々が続きました。


 なかなか想像することがないかもしれないですが、手をついてのお座りの状態や、自分で座れない子のつかまり立ちって、一回そのポーズを作ってしまうと、自力で解くことができないんです。だから、座ったまま、つかまり立ちをしたまま。


 テーブルにずっとつかまり立ちをしていると辛そうで、可哀相なので、もうやめさせようとすると、元夫に怒鳴られます。

「お前がそうやって甘やかすから、いつまでたってもできるようにならないんだろ!!」

父親の大声と、立っていることの辛さで、私の顔を見ながら、泣き始める娘。もうたまらなくて、大喧嘩して、娘を連れて別の部屋に逃げました。


 毎日、ちょっとずつ練習して、やっと這い這いからつかまり立ちをすることも、お座りもできるようになったのが1歳2ヶ月の頃でした。


 ある日、廊下で、娘を抱いて歩いている私に、2つ隣の部屋の奥さんが声をかけてくれます。妊娠がわかったときに、産婦人科に連れて行ってくれた人でした。


「大丈夫?何か困ってない?」


それがもう神様の言葉に聞こえました。


 私は娘の「遅れ」のことを相談し、どこの病院に行けばいいのかわからないことを話しました。すると、

「いいよ、乗せてってあげるから。」

と、車で送ってくれると言ってくれます。

 なんでもっと早く相談しなかったんだろう?なんでもっと早く…



 総合病院の小児科でみてもらいました。結果、娘、ゆっちゃんは、「精神運動発達遅滞せいしんうんどうはったつちたい」という診断を受けたのです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る