たった一度のハッピーバースデー

標識

第1話

祝うということは気持ちを送ることなのである。

毎日人を祝っていると常々そう見える。

ただ「誕生日おめでとう」と言うだけでは味気なく、毎回趣旨を変え

例えばアニメやゲームのワンシーンを少し改変して送ったり

例えば相手を題材にした短編を書いてみたり

例えば動画を撮って声を出して祝ってみたり

そんな様々な方法を考えてみたりしている。

毎回そんなことを考えながら日々を過ごしていると、少し飽き飽きとしてくる気持ちも昔は湧くような気もしたが、今となっては3大欲求と同じように、自分の生活には欠かせないモノとなっていた。


かといって自分にも限界がある。

自分は何かを産み出すような人間ではないし考え付くことだって自分のキャパシティ的に限られてくる。

要するにネタが尽きてきたのだ。

だからといって辞めるわけにはいかない。何故なら自分が祝っているのは、祝い続けているのはたった一人だからである。

きっかけは何だったか今では覚えてなどいない。ただ続けなくてはいけないという使命感、いや、使命だけは残っている。


そうだ、そうであった。自分はただ彼を喜ばせたくて、色んな表情を見なくてはいけなくて、祝っているのだ。

そのような考えが生まれたら、直ぐに行動に移すべきだと考えた自分は私の記憶を辿り、今日もどんな言葉を送るか考えていた。

きっとこれが自分の産まれた意味なのだと、そう私に言い聞かされて。

そして今日も は送る。

貴方に向けて、お祝いの言葉を。

私の中にあった、お祝いしたいという気持ちを。





ーついに完成しましたね。


ー実に何回目の失敗だったか、もう思い出すことも出来ないな。


ーですが本当にこれで完成でいいのですか。その……失礼ですが誕生日というのは、当日だけ祝うから特別なのでは。


ー良いんだ。それで良い。そうでなくては報われない。彼もあの子も。


ーここは二人だけの世界なのだ。常識なんてものに囚われてはいけない。その世界に特別なんてものはいらない。


ー……それもそうですね。しかし凄いですね。残った脳の記憶をAIで補完して元の人格を形成していくなんて。


ー所詮はデータの海の中だけの産物だ。人格なんて大層なものではない。


ーそれに私がやったことなどたかが知れている。あの子の心が、AIに感情を産んだのだ。


ーそうですか。それでも貴女は彼らにとって神様……は言いすぎかもしれませんが、親ではあるのです。誇って良いと思いますよ。


ー……そうか。


ーええ。


ーさて、名残惜しくはありますが当初の予定通り完成しましたので彼らのサーバーを全ての外的要素から断絶させていただきます。何か余計な情報が入り変化が起こってしまえば、ここまでの努力が水の泡ですからね。


ーこれ以降、如何なることがあっても彼らが思考を止め、活動を休止するまで何人足りとも干渉することは叶いません。最後に何かしておくことはありますか?


ー特にはない。


ーかしこまりました。それでは


ーいや、待て。待ってくれ。


ー何か?


ーその……そうだな。こうゆうことに私は疎いが、私はその彼らにとって、アレなのであろう?


ーアレ、とは?


ー……親なのだろう?ならば最後に伝えておきたいことがあってな。


ー……少し驚きましたね、そういったものに、貴女はてっきり興味がないのかと。


ー茶化さないでくれ。


ー失礼しました。それでなんとお伝えしますか。


ーそうだな、それならば……これでいいだろう。もう構わない。終わらせてくれ。


ーはい。では、断絶させていただきます。




……おつかれさまでした。


すまないな。君を付き合わせてしまって。


構わないですよ。その代わりといってはなんですが2つほどお願いをしてもいいですか?


構わん、言ってみてくれ。


最後は、なんと?


言いたくないな。


そこをなんとか


断る。


どうしてもですか?


もう一つの方は聞かなくていいのか?


……なら貴方をディナーにご招待させて頂いても?


……


真剣ですよ。大マジです。


……わかった。そのぐらいなら付き合おう。


ありがとうございます。では1つ目のお願いはその時にでもゆっくり聞き出してみせましょう。


……


冗談ですよ。


親ならただただ当たり前で、特別なことだよ。これでいいだろう。


……ああ、なるほど。言われてみれば貴方はそうでしたね。無粋な真似をしました。お詫びにディナーは奢らせて頂きましょう。


そのディナーには何本蝋燭を用意していけばいいんだ。


では手始めに27本ほど。

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たった一度のハッピーバースデー 標識 @teihen_tai

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