ヒトミの詩

「ヒズミ」川嶋 日登実


きみの棲む町は

おだやかな春の日のくま

どんくさくやさしく

陽だまりをこよなく愛し

あくびが少しくさい

くまの おなか

ふわふわしている


きみの棲む町は

涼しい夏の日のトランクス

部屋のすみでくしゃっとして

のびきったごむひもがだらしなくて

こっそり交換してあげたのに

気づいてない 明け方

くちびるに乾いた汗がしょっぱい


きみの棲む町は

さみしい秋の日の夕暮れ

イヤフォンはんぶんこの

はなうたで見送る

へたっぴなメロディは

ぼくらの 大好きな

阪神電車の音がかき消していく


きみの棲む町は

さわやかな冬の日のはつもうで

ぜんぶ大吉だって

言ってくれたきみが

いとしくて

絵馬に書いた 勝手な願い

好きになってもらえますように


この町では

ひとつひとつが

きみのだじゃれみたいに

どーでもいいこと

きみの穴の空いた靴下みたいに

どーしようもないこと


かくしたって無駄だよ

その思いやりのおやゆび

かくれたって無駄だよ

まごころのこゆびが出ている


また見つけた

きみの一番好きなところ


春夏秋冬が

きみの棲む町に訪れて

きみは

笑い怒り喜び悲しみ

ころもがえのそれぞれが

たまに季節外れの

半袖シャツみたいに色っぽい

にのうでのとりはだ

ずっとふれたかったよ

きみの一番弱いところ

青春がつながるように


さえた目つきを あいしてる

つれないこえを あいしてる

あったかい手を あいしてる

この町を見てる、ヒトミ

人を好きになる、ヒズミ


ぼくがきみを守るって

きみの町に棲む誰かがおもった

娘がおもった

雀がおもった

電線がおもった

電車がおもった

ポストがおもった

ホストがおもった

ホームレスがわらった


家族になった

特別なきょう


みんなの祈りが

きみのからだに

どくんどくんと

いきづいていて


そうともしらず きみは

昼過ぎまで 寝坊で

そのかお とても




仕合せそうに

わたしのとなり

すかしっぺしたな

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